62話
「まったく!! 何で理解してくれないんだ! カップルってのは、勝手に盛り上がるんだから。イベントなんか必要ないんだって!」
俺の熱弁も、あの二柱の神様には理解してもらえなかった。
想いが通じ合ってる男女なんて、勝手に自分たちの世界を構築して二人だけの空間に閉じこもる生き物なのに。
問題は、如何に一人でいる人を減らせるかってことだろ。
もっとさ、集団的なお見合いみたいなさ、若いうちから異性に慣れ親しむ場を提供しないと!
・・・・・・あれ? だとしたら、イベント事って良い理由づけになるのか?
もしかして・・・・・・元の世界でもイベントって、そういう物だったのかな?
おかしいな? そんな印象無かったんだけど・・・・・・まさかね。
前の人生における自身の問題点に蓋をして、さっきまで憤りながら歩いてきた道を振り返る。
・・・・・・あれ? ここどこ?
薄暗い通路から、まだ自分が地下にいる事は理解できる。
少し戻って、四辻に立つと自分がどの方向から来たのかが全く分からなくなってしまった。
あれ? あの光るザクロの木はどこにあったんだろうか?
こっち・・・・・・いや、あっちか? いや、こうは曲がってないはず。
じゃあ・・・・・・今、どっちから来たっけ?
色調が統一されている壁が、前後左右に伸びている。
薄暗く、通路の先を見通すことは出来ない。
しかも、さっき強い口調で部屋を出てきたから、キツネたちが俺の後を追ってきてくれるとは思えない。
即ち、今のこの状態って・・・・・・迷子になった、んだな。
あ、ヤッベ。どうしよう。
通常迷子になったら動かない方がいいみたいな話はよく聞くけど、この場所で動かないのは・・・・・・怖くないか?
そんな事を考えると薄暗いと感じていた通路が、より暗く感じられてしまう。
まあ、俺が戻らなければ誰か探しに来てくれるよね?
それに、俺を探してくれるのは神様なんだし、見つけられないなんてこと、無いよね?
そうは思いつつ、俺は神様だからって万能ではないということを知っている。
それはこの世界を創った神様でさえ、自分の世界を思う様にできていないことが物語っている。
頭の中に去来する不安の二文字。
夜の山よりもこの地下空間の方が何故か怖い。
神様でさえこの暗闇を見通すことができないのではないかという、あってほしくない不安が頭を占拠する。
その不安は、次第にここにいては駄目だという強迫観念に変っていく。
暗い通路をゆっくりと、歩き出す。
絶対にダメだという認識がありながらも、脚を止めることが出来ないでいた。
どれくらい歩いただろうか?
時間の感覚も分からなくなってきた。
時間も方向も、目的さえ分からない道程は、思いの外体力を奪っていく。
魔力切れではない、純粋なのどの渇きを感じる。
その渇きが不安をよりあおる。
心の中で愚痴さえも出なくなった時、俺の鼻に甘い香りが届いた。
嗅いだことはないが、熟した果実のような香りが近くの扉から漂ってきた気がした。
不安が一瞬でどこかに行き、口喝だけが強調される。
他人の家に入るような罪悪感がよぎるが、渇きには打ち勝てなかった。
扉を押し開け、中を覗き込む。
そこに有ったのは、光るザクロではなく何かのしずくが滴り落ちるビンがそこに有った。
のどが鳴る。
見間違うことのない液体。
しかも芳醇な甘い香りを放つ液体がそこに有った。
我慢が出来ない。
台座からビンを奪い取り、勢いよくあおる。
旨い!
素直にそう思える甘味。
そして後を引く酸味。
身体が欲していた水分。
今まで口にして来た何よりもこの液体の方が旨いと言える。
一気に飲み干すと、お代りを求めて周囲に目が行く。
ただ台座が残る空間だけが、そこには広がっていた。
さっきまで滴っていたしずくも、ただの一滴さえ残ってはいなかった。
残念だと思うと同時に、再び不安が甦る。
先ほどとは違う不安が。
これって、もしかして飲んじゃマズい物ってことないだろうか?
この施設が出来てどのくらいかは、聞かされていないが神様が創った施設だ。
もしかしたら、本当はこの液体を創るためにあつらえた施設かもしれない。
そして、長い年月をかけて造れた液体があれだけだったら?
流石に神様の怒りを買うのではないか?
不安が積り、立ち眩みを起こす。
いつぞやの神様相手に喧嘩を売ったときとは、比べものにならないくらいの不安が心を支配した。
「クスクス、大丈夫よ」
声がして俺の鼻に先ほどとは全く違う、濃厚な香りが届く。
めまいが起きそうなほど、濃厚な香り。
良い臭いではあるけど、濃度が濃すぎて頭痛が起きそうなくらいに濃厚な香り。
俺は眉間にしわが寄るのを認識しながら、匂いの元に視線を向ける。
光源が乏しく姿かたちを正確に認識できないが、間違うことが無いくらいの女性らしい女性がそこに居た。
どこかで見たことのあるような気を起こす、そのシルエット。
身体の中で熱が脈打つ感覚がする。
誰だ? 既視感を覚えるそのシルエット、そして声色。
分からない。
でも、何故かやっと会えたという気がしてくる。
「あ、あなたは?」
そう聞いておいて、何故か身体は女性と距離を置くように後退る。
本能がそうさせているのだろうか? その豊満な胸に飛び込みたい衝動と極限まで警戒している何かがせめぎ合い、辛うじて警戒心が勝った。
俺のその行動から、心のうちを読み取ったのか女性は俺に近づこうとはせず、扉にもたれながら俺を眺めている。
駄目だ、意識を保てそうにない。
あまりに濃厚すぎる香りに頭痛は強くなり、脳はシャットダウンを強要してくる。
けど、この女性の前で意識を手放すのはあまりに危険だと、警告が鳴っている。
今まで対峙したどの相手よりもはるかに危険だと、俺の数少ない戦闘経験が警告している。
そう、キツネや少年の神様でさえ感じたことのない圧迫感がその何気ない仕草から放たれていた。
逃げようにも唯一の扉を抑えられ、戦うことすら身体が拒否をする現状。
緊張を強いられる膠着状態。
頭が逃避のためにシャットダウンを要求するのが、何となく理解できてしまう。
そして、俺でだけが感じていたであろう膠着状態は、彼女の一言で終わる。
「今は、眠りなさい」
その一言、たった一言でさえ抗うことが許されなかった。
急激に重くなるまぶたで、視界が暗くなり意識はどこかに飛んでいく。
その瞬間に彼女がつぶやく。
「ここの遺跡じゃダメね。特別に良いものをあげる」
そう言って俺の手に何かの感触だけが残った。
そこから先は、何も覚えてはいない。
目を開けたら、ハデス(仮)様とキツネが俺を見下ろしていた。
あの女性は残り香も残さず、いなくなっていた。
次回投稿は2018/01/01に投稿予定です。
では、次回投稿で。
よいお年を!!




