51話
夕暮れの男体山を駆け上がる。
あたりの空気が冷えていき、顔に当たる風は皮膚を裂きそうなぐらい寒い。
魔力をマジカル・マッスル・スーツに伝え、常人では不可能なくらいの速さで一人、山狩りを行う。
もう何往復したか、数えるのが鬱陶しい。
この世界で遭遇する何度目かの世界の危機を探している。
・・・・・・って言うか、多くない? 普通世界の危機なんて一生のうちに、居合わせることなんてあり得ないはずなのに。
こんな仕事をしているからだろうか? それとも俺の運が悪い? それとも行いが悪い?
探偵漫画で主人公が、殺人現場に居合わせるかのような高確率。
俺が担当した任務のほぼ全てが、世界の危機に繋がりかねない。
・・・・・・おかしい。
前の世界では、交通事故に生涯に2回ぐらいしか合わないほど一般的な人生を送っていたはずだ。
それなのに、この世界に来たとたん月間数回のペースで、世界の危機に遭遇している。
まるで、探偵がいるから殺人が起きるというロジックにも似てきている。
俺がいるから、世界が危機に扮しているというロジックが成立する時が来るかもしれない。
これは・・・・・・そう! 世間が、いや、世界が悪いよ! 断じて俺のせいではない。
そんな馬鹿なことを考えていると、こんな日暮れに山登りしている一団を発見する。
降りているに出は無く、間違いなく登っている。
いくら有名な山であっても、こんな時間に山登りしているのは、不自然ではないだろうか?
仮に夜間の山登りが不自然でないとしても、手ぶらに近い装備で山登りしているのは、不自然ではないか?
どう理由を付けても不自然という答えにしかならない団体。
俺は木の上に隠れながら、一団の後をつける。
一団は途中にある山小屋らしき建物にすら目もくれず、ひたすら頂上を目指し登っていく。
今日のうちに何回か、頂上を見たけど何もなかった気がするんだけどな。
こんな時間に登っているんだから、頂上の何かに用事があると思うんだけど。
人目を引きそうな物なんて?
後を追いながら、頂上の風景を思い出す。
むき出しの岩に、遠くに見える湖。
湖、水か・・・・・・疫病を蔓延させるのに水を使うのか?
いや、キツネの話に聞く限り最初の一人が発症してしまえば、経路に関係なく感染は連鎖する。
そもそも、病とは称しているが本来は神様の呪いな訳で、経路とか関係している方がおかしいよな?
だったら、なんで山の頂上を目指す?
・・・・・・そもそも論なら、なんで団体行動してるんだ?
山を夜に移動する危険性、滑落に対する備え?
安全を考慮するなら、昼間に登って待機していればいい。
団体になれば、足音も隠すことが難しい。
だから、俺に見つかった。
そして、簡単に後をつけられている。
・・・・・・まさか。
一団から目を背け、後方に意識を向ける。
いた。
確かに、俺の後ろには俺を見張るように追尾している人間がいた。
はめられた。
いかにも怪しいと思える団体がそこにいたから、後を追ってみたけど・・・・・・どうやら、囮だったみたいだな。
そう言えば、アイツらを発見したのは一人で山狩りをしているさなかだ。
俺が先に捕捉されていたわけだ。
俺が一団から離れ、監視者に接近すると監視者は、簡単な詠唱を行い空に向けて不完全な魔法を放つ。
射程も威力もほぼ感じられない魔法。
しかし、その魔法が空で弾けるとわずかな光と、大きな音を発した。
前方の一団にも聞こえるような、大きな音と居場所を告げる光。
夜の男体山に昼間のような喧騒が帰ってくる。
完全な挟撃になってしまった。
監視者は俺を逃がすまいと、手順の少ない詠唱を繰り返し魔法を絶え間なく放つ。
上からは正規の手順の魔法が複数降り注ぐ。
魔法の雨を避けながら、身を隠す場所を探して何とか逃げ込もうと試みる。
そして一団の後方から、音と光が数回放たれる。
恐らく、他の部隊に知らせるために放たれた魔法。
彼らは、俺をこの山から降ろす気はないらしい。
であるなら、遺跡は山の麓。
これだけの人数が指揮も無く行動するのは不可能だろう。
ならば、遺跡は無いにしても行く先を知る者が、そこにいるはず。
この団体の上位者が、必ずいる。
随分と俺を警戒してくれるんだな。
一介の新人魔術師風情を。
これだけの人数を投入してもいいと、判断してくれる事情通が関わっているみたいだな。
俺の体質に警戒しているのか? それとも俺の経歴に警戒しているのか?
どっちにしても、詳しく話を聞かなくてはいけないみたいだ。
夜の山で、複数の人に襲われるというシチュエーション。
絶望的な状況にもかかわらず、頭をもたげる歓喜。
しかし、以前のような暴走の兆しは見えない。
魔力の熱は体を駆け巡っているが、頭だけは冷えている。
そして、何より俺に思うがまま振るえと、命令してくる武器たちが見えない。
クリアな視界のお陰で、いつもよりも冷静でいられる。
俺に放たれる魔法の間を縫って、ナイフを鍛造し熱も引かないうちに投げつける。
以前のような暴走への心配が少ない分、攻撃に移るタイミングは遅い。
その誤差が、俺を研ぎ澄ませていく。
手にした武器をどう使うか。それを考える時間というのは俺を暴走と言う狂気から遠ざけてくれる。
そこに有る武器を考えも無く振るうのではなく、あくまで考えたのちに振るうことで、感情を抑えることが出来ている。
俺と言う人間に、合わせてくれたかのような使用感。
ありがたい。
悪戯の神様と山の女神の合作のこの能力。
この身体になって、感情が爆発しやすくなったと自覚していたが、ここ最近は以前よりもマシに思える。
感覚的には、10代から20代に成長したかのような落ち着き。
・・・・・・そんなに変化あったっけか?
過去に想いを馳せる。
うん、あった。あったよきっと! そうそう多分あった。
・・・・・・あったんじゃないかな? あったよな?
山の空気は一層冷たくなった感じがした。
次回投稿は12/10を予定しております。
では、次回投稿で。




