4話
支部長。
葛西 瑠璃男と名乗る人物を見ていると、先ほど意気込んだ魔術師として生きていこうとする気持ちが萎える。
「私のことはラズリーと呼んでくれてもいいよ?」
知らんがな!
あれか、ラピスラズリから取ったんですか?
どうでも良いよ! オッサンの愛称なんて!
けれども、この世界で金を稼ぎながら俺に降りかかった事の真相を知ろうとしたら、俺と俺の身体の持主をハメた女を探そうとしたら、外国かぶれのオッサンが上司でも我慢してやっていくしかない。
「さて、達夫君? だったかな?」
「哲夫です」
「ああ、そうだったそうだった。哲夫君、事情は聴いているがね」
そう言いながら、手元のモニターに視線を落とす。
「魔術協会に入りたいといって、『はいどうぞ』とはいかないのは、理解できるかな?」
「はぁ・・・・・・?」
え? 試験するの? 聞いてないけど。
キツネの方を向くと、何やら前足を合わせて上下してる。・・・・・・可愛いな、おい。
「何も実績もない、どんな人物かもわからない。そんな人物をどうやって判断すればいいかな?」
「試験・・・・・・ですか?」
「Exactly、その通り」
いや、英語必要ねーだろ。
「そんな訳で、君に用意したテストは、これさ!」
試験でいいじゃん? 英語必要? ・・・・・・ああ、これは普通か。
渡された資料に目を通す。
遺跡の資料? ふむふむ。
要するに、近くの遺跡から発掘されたランクの低い遺物を封印することが、採用試験になるみたいだ。
ちなみに、遺跡には核になるのもがあって、それを使えなくすることを封印と呼ぶ。
この世界には魔法があり、そこには魔力と言うものが存在しているらしい。
そして、この遺跡核と言うものは高濃度の魔力が込められていて、それこそ神様でもないと自由には扱えない代物らしいんだけど。
「何でか、使える奴って存在するのよねぇ~」
キツネもちょっと呆れている。人と神様が近いときに混血があったんじゃないかと疑ってはいるみたいなんだけど、詳しくは不明のようだ。理由は神様たちが一切何もしゃべらないからだって。
アホか。人に尻拭いさせるならちゃんと情報渡せって。
「要するに、神様の下半身の不始末を始末しているかもしれないってこと?」
「そやね、その可能性は高いけど、真相は闇の中やな」
「・・・・・・一気にモチベーション下がったんだけど」
「そやろね、でも・・・・・・」
ああ、そうだった。どこかのバカ女に一発拳をプレゼントしてやるにはやるしかないのか。
あと、俺自身の保身のために。
遺跡核封印って言うのは、要するに込められた魔力を出してしまうことなんだけど、これが一朝一夕で行えることじゃないらしい。
遺跡核の魔力量が少しでも下がれば、合格となるということだ。
意外とチョロイな。
「で? それってどうやればいいの?」
「それは君の中の魔力に語り掛けるしかないな」
「語り・・・・・・掛ける?」
それだけ言うと、キツネは俺に背を向けて歩き出していく。
語り掛ける・・・・・・魔力に? 俺の中?
駄目だ、さっぱりわからない。
遺跡核も魔力、俺が持ってるのも魔力、この世界の根源も魔力。
そもそも魔力ってなんだ?
魔法が空想の世界から来た俺にとっては、なんでそんなものが有るのか? そこからがもう疑問なんだ。
キツネや子供の神様たちが、あれこれアドバイスをしてくれたけど最後まで魔法なる物が理解できなかった。
なぜかと言えば、科学と呼べる技術もこの世界には確かに存在する。
それの根源も魔法な訳なんだけれども。
全ての事が魔法で説明できるなら、科学はいらないはず。
誰かが言っていた。魔法とは観測されることでその神秘性を失い魔法ではなくなると。
科学と魔法は相反する存在なんだと。
体系の違う科学があるなら、それはそれで納得ができる。異世界なんだし、完全に同じであるわけがない。しかし、何故魔法?
そしてこの世界に決定的な何かが足りない。そう思えてしょうがない。
世界情勢、経済、科学、魔法。
元いた世界と似ていて、確かに違うこの世界。
俺はここで何をすればいい?
自問しながら遺跡核を見る、自答は未だに出てこない。
魔力、魔法、誰もが憧れる神秘の力が存在する世界。
神様という絶対者が存在する世界。
俺は、何が、何をしたい?
知る? 戦う? ただ生きる?
どれもしっくりこない。俺と言う存在に意味なんてあるのだろうか?
何より、この遺跡核と言う物。作られてただ封印される。
何となく、自分と遺跡核を重ねてしまう。
意味も分からず、生み出されて葬られる存在。
駄目だ。自問自答ってうまくできる人とそうでない人がいるよな。
マイナスに揺り動いてしまう俺には、上手く自問自答できている自信がない。
はあ、どうすればいいんだ?
そう思いながら遺跡核に手を伸ばす。
答えのないままだが手に触れれば、何か分かるかもしれない。
そんな淡い期待があったのかもしれないし、何も考えてなかったのかもしれない。
しかし、手が触れた瞬間、それは起きた。
バキンと小さな音を立てて、遺跡核がひび割れた。
「え?」
思わず声が漏れる。
しばしの沈黙が流れて、キツネの声が聞こえてくる。
「なんや、どないしてん?」
俺の肩に乗り、遺跡核を覗き込むキツネ。
俺はそれをゆっくりと見ていた。そう、ただ見ていた。
「ああああああああ! 壊れてるううううう!!!」
キツネはキツネらしからぬ表情でそう叫んでいた。