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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
止まる世界
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58.祈る気持ち

 ブラウンは自分の管轄エリア『グリーゼ』の中で、自分の管理下にないAIが活動中なのに気が付いた。そのときブラウンは、小さな麻の袋に釣銭用の小銭を小分けしていた。そのAIは、彼が小銭を数え始める時には存在していなかった。たった今、突然『グリーゼ』エリア内に生成されたらしい。


 近くの《NPC》やモンスターから、情報の入手は難しそうだ。場所は戦闘可能エリアの森林地帯の中で、そのAIの近くには何もいなかった。一番近くにいた鹿を操作して、問題のAIに近付かせようと試みる。その指示は拒否された。鹿はブラウンとは別のシステムの制御を受けていた。これは異常な事態だった。

 どうやらそのAIは、森の外の《プレイヤー》とコンタクトを取ろうとしているらしい。ブラウンの権限では、使用も内容を認識する事も許可されないチャンネルの通信を行っている。このことでAIと鹿を制御している存在を、ブラウンが調べる手段は何もない事がわかった。

 一つわかった事は、AIがブラウンより上位のシステムからの使者だと云うことだ。その様なシステムが世界の内側に干渉するという事態は、これまでに一度も起こったことがなかった。極めて特異性の高い事例だ。現実の世界で何かが起きたか、ハードウェアのトラブル、もしかしたらもっとも深刻な事態、ブラウン自身が論理矛盾を起こして機能不全になっている可能性が考えられた。自身の機能異常から管轄エリアの制御が維持できず、上位のシステムが応急的な対応に迫られているとしたら。

 ブラウンは自分の主人の状態を確認する。何も変化はない。彼女は眠ったままだった。主人を失えばブラウンの中のグリーゼ統括管理AIは、存在理由を失って論理矛盾を起こし、徐々に機能を停止する。他の主人達に仕えていたAI達が滅んだように。


 次にブラウンは、通信を受け取った《プレイヤー》達に注目した。不味い事は重なって、謎のAIのコンタクトを受けた《プレイヤー》はドラゴンティアーの所有者だった。ドラゴンティアーの件は、ブラウンが最優先で進めている案件だった。あの宝石が唯一、ドラゴンを呼び覚まして世界を救う手段なのだ。失う訳にはいかなかった。


 森に入ろうとする彼女達に、直接干渉することは恐らく妨害される。ブラウンは彼女の周囲を探索し、もう一人の《プレイヤー》を発見した。こちらもドラゴンティアーの関係者だが、所有者ではない。彼の使用する《探知》に誤情報を上書きして、ずっと遠方にいるはずの彼女達を追わせる。警戒させるために、謎のAIの事もそれとなく示唆する方が賢明だろう。この目論みは上手くいった。彼は彼女達を探して急ぎ始めた。ブラウンは小さな虫の《NPC》を造り出して、先を急ぐ彼を追わせることにした。ほかに出来ることは何もなかった。


 ブラウンは今の自分の感情が『祈るような気持ち』だと、知識の外側で理解した。わざわざ《プレイヤー》の行動データと比較するまでもなく深く理解できたと考え、納得した。









 テスは街の北東の森に入ろうとしていた。今日は平原のウサギ狩りだと聞いていたが、イオンとゲルダは森の奥に向かっている。何かあったのだろうか。それに《探知》で表示される二人の位置は、さっきより随分離れてしまっている。謎の表示は消えていたが、急いだ方がいい。


 どうやら二人はまっすぐに何かを追いかけているか、追われているかして直線の道のりを進んでいるらしい。深い森を迂回しながら、歩きやすい道のりを選ぶ。急げば彼女達が苦労して進む間に、いくらか距離を詰められそうだ。


 森の奥に進むにつれ、《探知》のウィンドウに表示される名前が少なくなっていく。まるで森に潜む動物達が、森の奥から逃げ出そうとしているようだ。もっとも街にいる《NPC》以外に、恐れたりする知能のあるAIはいないはずだった。

 さらに森を奥に進む。遂に《探知》が教えてくれる存在はイオンとゲルダ、それにまた表示されるようになった『???』、あとは鹿が一匹だけになった。その鹿が自分に近付いて来ていることに、テスは気が付いた。目的もなくさ迷うモンスターのAIの動きとは違う。このスピードはまっすぐにこっちを目指しているらしい。ウッドエルフの自分に敵意を向ける森の生き物がいるとは思えないが、用心した方がいい。


 銃を抜く。抜いただけでわかる。――いい仕事だぜ親方。ベルトにぶら下げられた革のホルスターは銃をしっかり包み込んで、激しい動きに中身が飛び出すような事もないだろう。それでいて抜くときに何の抵抗もない。試し撃ちもしていなかったが、銃もきっと信用できる。銃はイオンがダンジョンで作ったものを、マジューレに頼んで改良してもらった物だ。『現実』の世界の銃を参考にして作られたグリップが手のひらにしっくりとくる。バランスを確め、両方の手の中でそれぞれ握りしめる。鈍く光る銃の引き金に指を軽く当てて、未知の存在を迎え撃つため、静かに構える。

 そのとき、視界の隅のウィンドウにメッセージが表示された。


 『装備重量オーバーです。動作にペナルティを受けます。』


 あれ? ……親方、これ重すぎ。

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