41.脱出
信じられないものを見て、ヤラッサとアレスが絶句して顔を見合わせている。ナニワも同じだった。驚愕の表情を浮かべて三人はチャカを見た。チャカが、前衛としてガーゴイルの前に立つことを嫌がったのだ。それだけではなく、三人にも思いとどまるように説得し始めた。――まあ、あの大穴ができた現場を見ている人間じゃないとな。テスにはチャカの気持ちがよくわかった。
イオンには新しい『銃』は、威力を落として作るように云ってある。あのまま同じものを使ったら、ガーゴイルと一緒に前衛を務める者達も一瞬で死ぬ。イオンに威力を弱くするように云ったとき、「地形が変わらないようにしてくれ。」と伝えたが、アレス達は冗談だと思ったらしい。……けして冗談のつもりはない。
また作れと云った時、イオンはかなり嫌そうな顔をしていた。それでも生産ツールを開くと顔つきも変わり、イオンは新しい『銃』を三挺作り出した。そのうち二挺は『現実』の世界でいえば大型のハンドガンのサイズで、グリップ内のバッテリーを取り外して交換出来るようにしてあった。直列に並べたクリスタルの数は二個で、スイッチ部のネジの締め付けも弱くしてあるらしい。これは『リチャージ』を使えないテス用の銃らしく、予備のバッテリーと一緒に渡された。トリガーを引いている間、連射が効くらしい。テスは「いらねぇよ!」と思ったが、しぶしぶ受け取った。《識別》によると平均予想ダメージは980点だった。このくらいなら地形も前衛も無傷で済むかもしれない。
もう一挺はイオン用で、両手で持ちやすいようにデザインされ、ライフルかショットガンのような形だった。クリスタルが三個使われていて、連射は出来ないしバッテリーも取り外せない。これも《識別》で見てみる。
「……6860点。」
不安な数字だ。チャカが第一種臨界不測兵器の使用は禁止されている、だとかなんとか抗議の声をあげた。……ガーゴイルのヒットポイントは五〇〇〇点位だったはず。これでガーゴイルが反応しないダンジョンの中から攻撃できれば確実だが、射つのに勇気がいる。イオンに試しに射ってみるように云うと、首を横にふって
「嫌!」
即答で拒否された。じゃあ作るなよ……と思ったが、テスもやはり射ちたく無かったので、強くは云えなかった。
自分の銃だけでも試して見ようとテスは壁を狙って射ってみた。銃口から白いエフェクトが発射され、壁に直径十センチ程の穴を開けた。強い反動があった。手首を痛めそうだ。連射は無理だろう。その威力にアレス達は驚いた。眼の前で見て、やっと階段の大穴とテス達の話やチャカの反応が理解できるレベルで繋がったのだ。三人は困惑し、互いの顔を見ている。やはり敵味方が入り乱れた混戦の中で、この銃を使うことは難しいかもしれない。別の方法を考えるしかないか……テスがそう考え始めたとき、
「こんな作戦でどうかな?」
ノーザが何か思い付いたらしい。
アレス達の案内でダンジョンのエントランスまで戻る。途中で出現したモンスターはスライムや巨大なネズミ達で、先頭を進むチャカとヤラッサの前には障害物でさえなかった。エントランスにたどり着き、外の様子を伺う。四つの石の台座の上にガーゴイルの像があった。時間経過でリポップしたのだろう。四体の全てがそこにいた。
「じゃあ打ち合わせ通りに。」
そう云ってノーザとアレス、ヤラッサとナニワがダンジョンの奥へ向かう。テスとイオンが銃を構えた。チャカは不測の事態に備えるために二人と一緒にエントランスに残る。テスがガーゴイルの一体を撃った。(《弓術》が適用されていて、武器の分類も『魔弩』だが『射つ』という感じではなかった。)やはり動き出すまでは『破壊不可能オブジェクト』の扱いらしく、ダメージを与えることは出来なかった。イオンの方を向いて訊ねる。
「イオン、準備はいい?」
イオンが緊張した顔で無言で頷く。そこにナニワとヤラッサが戻ってくる。二人は奥の玄室の亡者を捕まえて、ここまで運んできたのだ。
ノーザの思い付いた作戦はこうだった。まず、アレスが亡者の群れを適当に選り分け、玄室に押し込める。ノーザが《呪術》の『拘束』で動きを封じ、獣人の二人が、腕と脚をつかんでエントランスまで運ぶ。囮に亡者を使っておびき寄せたガーゴイル達が亡者を攻撃しているあいだに、エントランスの中からの銃撃で倒してしまおうという作戦だった。テスも今まで無茶な事を散々してきたが、ここまで力ずくで強引で無茶苦茶な『攻略法』は初めてだった。
ヤラッサとナニワが前後に亡者を降り、反動をつけ外のガーゴイルに投げつける。反応範囲に亡者が入ると、四体のガーゴイルが動き始めた。翼を広げて飛び上がろうとする。テスが一番近くの一体を撃った。――成功だ。ガーゴイルはエントランスの中にいるテスには興味を示さない。イオンはチャカに頼んで、うしろから体を支えて貰っていた。亡者に飛びかかろうとしていた一体を撃つ。一撃で消滅し、近くの台座が破壊に巻き込まれた。石材の砕けた破片が飛散する。その破壊のあとを見て、テスは少し迷ったがこのまま続行を決めた。後はルーチンワークだった。
あっけなく四体の守護者は破壊され、一行はダンジョンからの脱出に成功した。
「なんだかなー。」
エントランスを出て、ヤラッサがクレーター状の陥没のある地面を眺めた。納得がいかないという顔をしている。ナニワが手のひらを上に向け、肩をすくめるジェスチャーでヤラッサに答えた。ノーザは得意そうな笑みを浮かべている。
「さあ帰ろう。」
盾を担ぎ直してアレスが云った。一行は巨石群に向かって歩き出した。




