20.会合
やっと作業が一段落着いたみたいな顔をして、(わざとらしく)肩を回しながら出てきたマジューレが(観念して)全員を奥の食堂兼居間に案内した。インベントリから椅子を何脚か追加で出してテーブルに並べると、銘々勝手に座ってくれといって茶を入れに行った。
ロンサムは自分に『縮小』の魔法を二回かけると、椅子の上に乗せてくれるようイオンに頼んだ。彼女は亀を抱き上げ、椅子に座るとそのまま自分の膝の上に乗せた。テスは部屋の隅に椅子を動かして全員を視界に入れて座る。ノーザは亀とイオンを見ていたが、チャカが光るランタンをテーブルの上に置くと、初めて見るアイテムに興味があるらしくランタンを見ながら亀と話し始めた。イオンがそれを聞いて説明を始める。
テスは自分と同じように、シェリルが全員を観察出来るように座っている事に気が付いた。彼女はノーザが来てから一言も話さない。
マジューレが戻って来て茶を配り終えて座ると、ノーザが唐突に本題に入った。
「昨日の火事は皆さんご存じですか?」
「ああ、災難だったな。鍛冶屋が吹っ飛んだらしいが。」
ノーザに見つめられてマジューレが答えた。カップに頭を突っ込んで茶を飲んでいた亀がマジューレを見た。
「お陰様で消火作業で徹夜でした。先程『粉塵爆発』と仰ってましたが、詳しく聞かせていただきたいのですが。」
身を乗り出して口の前で手を組むノーザ。笑いながらマジューレを見てる。わざとらしい。
「粉塵に引火したんだろうね。《スラム》には行ったことが無いが、鍛冶屋は何か変わったものを作っていたのかな?」
亀が答えた。マジューレがボロを出しそうな気がしてテスが会話に入る。
「そういえばロンサムさん、さっき『やってみたことがある』と云ってました?」
「私は《錬金術》の《スキル》を持っていてね、色々な事を研究してるんだ。《スキル》や生産ツールに依らずに同じものが作れないか試した事があるんだが。イヤイヤ甲羅が無ければ死んでいた。」
そう云うと甲羅の中に首を引っ込めて見せる。
「ロンサム様は街の教会にお住まいになって、様々な学問の研究をなさっておられます。」
初めてシェリルが口を開いた。
「亀さん偉い人ニャ?」
「この世界では、喋る四足の爬虫類は大切にされるんだ。ドラゴン達が作った世界という神話もあるしね。」
「イオンさんはロンサム様がお好きなようですが、《プレイヤー》の世界ではまた違う価値観が有るのでしょうか。」
シェリルが《プレイヤー》という言葉を使った事に、ノーザとマジューレが驚いて彼女を見た。そういえば何も説明していなかった。テスは他のメンバーをさりげなく見回した。チャカは興味が無さそうだ。イオンと一緒に亀を弄くっている。亀は何か知っているようだ。
「今日彼女が私を訪ねて来て話をしたんだが、彼女は他の《NPC》達と違って我々《プレイヤー》の事を正確に認識出来るようだよ。」
亀が云いながらシェリルを見た。今彼はチャカの手の中で仰向けになっている。ノーザは笑うのを止めて何か考え込んでいる。チャンスだ。テスは思った。これを利用して話題を変えよう。
「おっと、そうだった。アレスから相談を受けてたんだ。シェリル、何か訊きたい事が有ったら何でも訊いてくれ。答えられる事は答えるよ。」
「ありがとうテス。それで、その『粉塵爆発』というのはどの様な物でしょうか?」
「……(それかよ!)」
「要するに、細かい粉のような物が連続で燃えて、連鎖反応を起こして広がる爆発ですよ。シェリルさん。」
ノーザが答えた。
「……その爆発が昨夜起きたのですか?」
シェリルは、ノーザが答えた事に驚いている。そして彼への対応を決めかねているようだ。彼女から見ればノーザは停戦中とはいえ『敵』なのだ。俺にとっても敵だけど。テスは思った。
「それで困った事になりましてね。スラムにはもう鍛冶屋は居ないんです。そこでマジューレさんにお願いがあります。」
「……うちを使いたいって事か。」
「はい。」
「しかし、うちだって他の客や《ギルド》への体面が有るんだぜ?」
腕を組みながらマジューレがシェリルを見る。
「停戦中に限定、PKの被害者が一人でも出たら出入り禁止と云うことでどうでしょう? もちろん素行の悪いものは、すぐに出入りを禁止して貰って構いません。」
「《ギルド》には停戦交渉に続き、他の店と交渉に入る前のテストケースとして、マジューレさんが協力するという形で話を進めていただきたい。」
「上手いわね。それにしてもPK達がそんなに上手く纏まるかしら?」
イオンが始めて会話に入ってきた。
「そこだね先生。実は何かやらかしそうな連中は、昨日の全員死んでるんだ。」
「何人?」
「全部で八人。」
「随分都合よくいったな。都合よく《魔法抵抗》を持ってる奴がいなかったのか?」
テスは訊き返した。ノーザは笑って答えなかった。イオンは亀を取り返していた。亀はシェリルを見ていた。シェリルは青ざめて、何もない宙を見ていた。




