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大変遅くなって申し訳ありません!そして王様ターンではなくなりました!
豪華な部屋に綺麗なドレス、毛の長い絨毯、美しい宝石。そしてそこにいるのは…そう。場違いな平凡女。
はぁ…
「こらっ!淑女たるもの溜め息をつかない!つくならもっと優雅になさい!」
「っひ!もっ申し訳ありません」
もー!優雅な溜め息ってなんだよーーー!わーん…
…………っと。
なぜ私がこんな目にあっているかというと、まぁそれは先日王様もといベルさんの爆弾宣言により受けることになったお妃様修行のせいである。
なんでもお妃様には気品と知性と優しさが必要だそう。
どんだけ超人だよ!とかツッコミたいけど取り敢えず受けてみようと案内された部屋での猛特訓を始めて二週間。
はい!完全にやつれました!
動きは多少優雅になったかもしれないし、この国の歴史は全て頭の中に収まったけれど、大切ななにかを置いてきた気がするのは何故だろうか。
思えばこの二週間。鬼のように恐ろしいスパルタ練習に耐え抜いた。ある時はご飯抜き。またある時は二時間ひたすらお辞儀の練習。冗談ではなく、本気で殺されるかと思った。
そしてそんなスパルタ練習をして下さったのが、先程優雅な溜め息などと、無理難題を押し付けてきたリナロットさんである。
細い銀縁眼鏡にきつく結い上げた髪。いかにもな方だが、ONとOFFの差が激しいとわかった。
指導中は甘さのあの字もないほどだが、指導が終了すると、こちらを気遣って優しい口調でお話して下さる。付け加えると、例によってリナロットさんも美人である。ほんとこの国の遺伝子どうなってんだか…
そして話は冒頭に戻り私は最後のレッスン、「殿方に不快感を与えない為の扇子講座」という必要なのかよくわからないレッスンの最中だ。リナロットさん、怖い。扇子、怖い。
最早扇子にまで恐怖を覚えていた私が、リナロットさん地獄から抜け出せたのは、日が傾く頃だった。
「疲れた…」
本当は足を伸ばしてソファに寝転がりたいが、そこはリナロットさんの手前、ゆっくりと腰かける。
「トオル様!よく頑張りましたね。この短期間に素晴らしい成長を遂げられて、わたくし鼻が高いですわ!」
リナロットさんの今日一番の笑顔を見ながら、
美人は笑うと十倍綺麗になるな…
などとボンヤリ考えていると部屋の扉が叩かれた。
「入るぞ」
ん…?この無駄に良い声は?べルさん?
「久しぶりだなトオル。作法は身に付いたか?」
久しぶりのベルさんに若干驚きながらも、私は習った作法で答える。
「はい。陛下。このようなところにわざわざお出で頂き嬉しく存じ上げます」
そう言って礼をし、顔をあげるとベルさんが満足そうな顔をしていた。
どうやら合格点は頂けるみたいだ。
ほっとしたのもつかの間、ベルさんがこちらに近付いてくるので気は抜けない。次はどんな一手だ!かかってこい!
などと考えていると、ベルさんは私に椅子に座るよう言った。
どうやら普通に話があるみたいだ。
「少し王妃と二人きりで話す。退出してくれ」
そう言ってベルさんは、こちらを向き口を開いた。
「どうやら作法は完璧のようだな」
「恐れ入ります」
「今は二人きりだから、楽にしていい。それで、本題に入るが、明日王妃の紹介も兼ねての夜会が開かれる。トオルには悪いが、一週間早まった。ダンスは無理だと思うから、誘われても断れ。」
目の前の美形は、納得した顔をしているけど、全然良くない。しかしここは大人の対応だ。
「わかりました。明日ですね」
私が動じなかったことに驚いたのか、少し眉を上げたベルさんは、なんだかしたり顔をしてこちらに手を伸ばしてきた。
「明日は俺も傍にいる。今日はゆっくりと休め」
あれ?
そう言って甘く笑ったベルさんに違和感を覚えた。美形が笑うともの凄い破壊力だけど…
これは…
ぐるぐると思考の海を漂っていたから、少しぼんやりしてしまった。
「トオル様!陛下はトオル様をとても大切にしていらっしゃるのですね!とても素敵ですわ!」
いつの間にかベルさんに変わってリナロットさんがいた。
私がぼんやりしていたから、大方出ていったのだろう。
それよりも…
わたしの中で感じた違和感はリナロットさんの言葉で確信を帯びたようだ。
ベルさんは何を隠しているんだろう??