第0章 変わったのは、なろうだけじゃなかった
ここまで私は、「小説家になろう」という場所と、そこで生まれてきた作品がどう変わってきたのかを、好き勝手に振り返ってきた。
異世界転移が増え、転生が増え、チートが増え。
ゲームのような世界が当たり前になり。
料理をしたり、農業をしたり、内政をしたり。
追放され、ざまぁし、悪役令嬢になり。
気がつけば現代にダンジョンが生え、配信を始め、異世界から帰ってきた元勇者まで普通に街を歩くようになった。
いや、本当にいろいろ変わったものである。
十数年前、まだ異世界へ行くだけでワクワクしていた頃の私に、
「そのうち異世界に行かなくても、近所のダンジョンで魔物を倒しながら動画配信するようになるぞ」
と言っても、たぶん何を言っているのか分からなかっただろう。
そんなことを第一部で散々書いた。
そして第二部では、それらの作品がなろうの中だけでは収まらなくなり、書籍になり、漫画になり、アニメになり、とうとうアニメを見ているだけの人からも、
「またなろう系か」
なんて言われるところまで来た話を書いた。
ずいぶん遠くまで来たものである。
……などと、すっかり昔を知る古参みたいな顔をして語ってきたわけだが。
ここで、ふと思った。
変わったのは、本当になろうだけなのだろうか。
考えてみれば、私がなろうを読み始めてから十年以上経っている。
当たり前だが、その間に作品だけが歳を取ったわけではない。
私も歳を取った。
そして最近、自分が読む作品を振り返ってみると、昔とは明らかに好みが変わっていることに気がついた。
昔なら、主人公が苦労していても読めた。
仲間に裏切られようが、洗脳されようが、闇落ちしようが、
「うわ、ここからどうなるんだ?」
と先を楽しみにできた。
鬱展開だろうが、重い展開だろうが、それも物語の一部として普通に読んでいた……はずである。
ところが今はどうだ。
仲間が洗脳された。
「うわぁ……」
裏切り者が出た。
「うわぁ……」
主人公が何十話も苦しみそうな展開になった。
「これ、しばらく続くやつか……」
先が気になるより先に、疲れるのである。
我ながら、ずいぶん弱くなった。
その一方で、最近よく選ぶのは何かと考えると、
主人公は最初から強い。
大抵の敵には負けない。
周囲から好かれる。
仲間内でドロドロしない。
嫌な奴が出ても、あまり長く引っ張らない。
コメディ多め。
スローライフもいい。
大事件なんて起きなくてもいい。
主人公がご飯を食べて、村を作って、仲間が増えて、みんなで楽しそうに暮らしている。
……それで満足している私がいる。
ただし。
ここで一つ、勘違いしないようにしておきたい。
私は昔、こういう軽く読める作品を嫌っていたわけではない。
主人公が強くて、安心して読めて、仲間と楽しく旅をする。
そういう作品は昔から好きだった。
変わったのは、
「軽い作品を好きになった」
ことではなく。
昔はその外側にある、重い話や面倒な展開まで、もっと広く読めていたことなのかもしれない。
好きな場所が変わったというより。
読める範囲が少し狭くなって、昔から好きだった場所へ戻ってくることが増えた。
今のところは、そのくらいに考えておいた方が正確そうである。
考えてみれば、「主人公最強」に対する見方だって変わった。
昔は、主人公が少しずつ強くなっていく過程も、今より広く楽しめた。
強敵に苦戦し、新しい能力を手に入れ、さらに強い敵を倒し、ついには世界最強へ。
そして物語の最後には神だの魔王だの、それに近い存在にまで辿り着く。
そこまで行けば、もう終わりだった。
これ以上、何と戦うんだという話である。
ところが最近はどうだろう。
最初から最強。
最初から世界最強。
下手をすると、最初から神みたいな存在である。
昔なら物語の終着点だった場所が、今ではスタート地点になっている。
それでも私は普通に読む。
むしろ安心して読む。
「あ、この主人公なら大丈夫だな」
と思いながら読む。
どうやら私自身も、なろう作品を十数年読み続けるうちに、ずいぶん変わってしまったらしい。
それだけではない。
昔は「鑑定」という能力が出れば、どんな能力なのか説明を読んでいた。
今では、その名前を見ただけで大体分かる。
追放。
ハズレスキル。
悪役令嬢。
冒険者ギルド。
そういった言葉から、この先の展開まである程度想像できるようになった。
作品がテンプレ化したという話はよく聞く。
だが同時に、
読者側もテンプレを覚えてしまった
のではないだろうか。
そして十数年の間に。
作品だけでなく、読む側の私も変わった。
好みも変わった。
苦手なものも増えた。
テンプレにも詳しくなった。
読む前から「これは私向きだな」と分かる作品も増えた。
逆に、
「あ、これはたぶん途中でしんどくなるやつだ」
と避けることも増えた。
そんな私が、
「最近のなろうは変わったなあ」
などと偉そうに語っていたのである。
いや。
一番変わったの、私じゃないか?
というわけで今回は、なろう作品そのものの変遷ではない。
十数年なろうを読み続けた結果、読者である私自身がどう変わったのか。
テンプレに慣れ。
最強主人公を以前より選ぶようになり。
重い展開を避けるようになり。
安心して読める物語を求めるようになった。
それでも新しい流行が出れば、また読んでしまう。
そんな一人の読者の変遷を、今回も勝手に振り返ってみようと思う。




