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エンディング
門が、開いた。
誰も、声を上げなかった。
ただ一歩、また一歩と、六十人分の足が、恐る恐る境界線を踏み越えていく。何度踏み越えても連れ戻される。何度挑んでも無駄だった境界線は、少年少女の足を止めることはなかった。
そして、その先にあったのは、草原だった。
足首を叩く草の感触は、屋敷の床の冷たさとは似ても似つかなかった。風は青い匂いを孕んで、六十人の鼻腔を容赦なくくすぐっていく。
少女が立ち止まり、少年がしゃがみ込んで草を触った。二人が手を繋いで、その場でくるりと一回転する。
長い髪の毛が風に引っ張られるのを、不思議そうに眺めていた。飛びそうになる帽子を二人で抑える。
風に煽られた洋服の隙間から、古い傷痕が陽に晒された。
たからは、その全部を見ていた。隣でミヤビが、珍しく何も言わずに立っている。
どれくらい経っただろう。慧衣が、ゆっくりと顔を上げた
男の瞳に映ったのは、屋敷の重力から解き放たれた、どこまでも無責任な自由の形だった。
「……これが、空か」
誰も笑わなかった。誰も泣かなかった。
ただ、風だけが答えるように、全員の髪を優しく撫でて、通り過ぎた。
たからとミヤビは、それを見届けてから、静かに踵を返した。




