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常夜灯と点灯夫のワルツ  作者: 和泉トモノブ


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6/8

平行世界

「いやー早坂ノボルにするか、下坂オチルするか迷ったんだよ、でも縁起悪いの嫌でしょ?」

 川辺さんは笑顔で俺に言った。


「戸籍の名前決められるんですか?」

 俺は疑問を口にする。


「ううん、決められない」

 川辺さんは、さも当然かのごとく答える。真面目なのかふざけているのか、まさに食えない人といった印象である。警備会社の主任なのだが、堅気なのかそれとも⋯


「僕のことやばいヤツだと思ってる?」

「ええ、ちょっと」

 失礼だとは思うが、俺は素直にそう答えた。


「でしょうね、こんなもん揃えられるんだもん、まぁ反社とかヤクザとかそういうんじゃないからね、安心してちょうだい、結構やり手なのよ僕」

 

 あ、自分で言うんだ。そう思いながらも、かなりの実力者である事は納得出来た。


「お待ちどうさま」

 そう言ってチトセさんはナポリタンを2つお盆に乗せて運んできた。

「来た来た、早坂君、本当に美味いものってなんだと思う?」

「はい?」


 唐突な質問に面食らってしまう、質問の意図が分からない。


「僕はね、美味しすぎない事が大事だと思うんだ、ステーキとかお寿司とかさ、高級で超美味いやつってさ、いつも食べれないじゃない。そんでさ一回食べたらなんかもう満足しちゃうわけ。本当に美味いもんてさ、例えば昼飯何食おうかって考えた時に、ああ昨日も食ったけど、あれ食べようって思えるものが本当に美味いもんなんだよ、このナポリタンはさ美味すぎずちょうど良いのよ」


 川辺さんは嬉々としてナポリタンついて語る。


「一応聞くけどそれ、褒めてるんだよね?」

 チトセさんが川辺さんを睨みつける。

「ほ、褒めてるんだよ、ほら、不味いって言ってないじゃない、ね?」

「ったく、減らず口め、さっさと食べちゃいなよ」

 チトセさんはそう言ってカウンターの向こうへと戻り、椅子に座ってSUVの最新車種が特集のカー雑誌のページをめくり退屈そうに眺め始めた。


「さて食べようか」

「あーはい、それじゃいただきます」


 フォークを突き刺してくるくると麺を巻きつけ口に運ぶ。玉ねぎとトマトの甘みをしっかり感じられる、美味しいナポリタンだ。また食べたくなるというのは納得出来る味だった。


「さて、食べながらで良いから聞いてくれるかな」

 川辺さんは、おしぼりで口元を拭きながら言った。

「あ、はい」

 仕事の事、これからの生活の事、気になる事は多い。自然と背筋が伸びる。


「うちの警備会社で働いてもらう事になるんだけれども、まぁ知っての通りこの世界色々と危険なわけさ、早坂君の意思とか関係なく物事進めちゃって申し訳ない無いんだけどさ、うちの会社で()()()()やってみて欲しい、いろいろ手当もつくからさ」


 仕事や住む家まで面倒見てくれる、こちらとしては良いこと尽くめで逆に怖いのだが。


「すいません何から何までありがとうございます」

「いやいや、こっちの都合もあるからね、人手足りなくてさ」

「それで、すいません、あのしばらくって、その、いつまでですか?」

 

 俺は恐る恐る聞いてみる、いつ帰れるか、これが一番大事なことだ。


「次の皆既月食まで、皆既月食の時に異界に繋がるゲートが開くのよ、早坂君の場合、月が赤く染まった時に下碑高駅から電車に乗って帰ることになるかな、俺も次の皆既月食がいつか分からなくてさ、気象庁のホームページ見るしか無いんだけど、あ、スマホも用意しあるから後で渡すね」


「ありがとうございます」


「いやいや、()()()()()()だから、もうふんぞり返って受け取っちゃってよ」


 今度は()()()()()()という言葉に引っかかった。

「あの、すいません、もう一つ質問なんですが、都合とは?」


「ああ、なんでも聞いて、気になるところだよね。こっちの都合ってのはさ、人手が足りないって事と、迷い人って特殊な何かを持ってこちらの世界に来るんだよ、もうこれ100%でそうなんよ」

 

 なるほど面接無しの一発採用って事は、俺の特殊な何かに期待しての事なのか、とは言っても超能力が目覚めたわけでも無い。


「聞きたいんだけど、ホテルにいる間なにか変わったこと無かった?なんでも良いんだ、なんか無い?」


 川辺さんの目が鋭くなった。なんか無い?と聞かれてもこの5日間変わった事ばかりなのだが。変わった事といえばシルクハットを被ったイケオジと話したぐらいだ。


「幽霊なのかな?部屋の窓でシルクハットを被った男性と話をしましたけど」


 ホテル滞在中の一番変わったエピソードと言えばこれだろう。窓越しに幽霊と会話する機会など今まで無い事だ。


「へぇ、幽霊と話したのかい?」


 川辺さんは鋭い目付きで俺を見て言った。思わず目を逸らしてしまう。

 ーー俺、なんか変なこと言ったか?


「ちょっと、怖がってるでしょーが」

 カウンターの奥で雑誌を読んでいたチトセさんが、川辺さんに声をかけた。雑誌を見る振りしてこちらの様子を伺っているのだろうか。


「こわ、、あーいや、、申し訳ない、、」

 川辺さんはそう言って、バツが悪そうに頭を掻いた。

 大きくため息をつき、空気を整える様にポツポツと語りだした。


「この国では年間で3万件程の行方不明届が警察に出されるんだけど、その6割~7割くらいが生存、もしくは遺体として見つかるのよ、特に遺体に関しては、割と簡単に見つかるケースが多い、なんでか分かるかい?」


 なんでかと言われても…考えを巡らせてみたが適当な答えが見つからなかった。

「すいません、分からないです」


「この世界じゃ、死者が見えるのが()()()()だからだよ、山奥に埋められたり、海に沈められても、必ずその人が幽霊になってそこに立っているんだ」 


「なるほど、、ん?、死者が見えるのが()()()()?」


「そう、()()()()

 

 文字通り生と死が地続きの世界、信じ難いがそう言うものなんだと納得するしか無い。

 だとすれば、事故や自然死を含めても尋常じゃない数の死者が出ていると思うのだが。

 

「それじゃこの世界は幽霊で溢れかえっていることになるんですか?」


「いや、ちゃんと供養すれば成仏するよ、実際大半は天に召されてるし。まぁおかげで寺や神社やらがボロ儲けしてるし、除霊専門の会社はあるし、フリーランスのエクソシストなんかもいる、除霊や供養専門の資格もあるし、どこの大学も宗教学科の受験者数は毎年トップで花形なわけさ、多くの人は陰陽師やらエクソシストやらになりたがっているんだ、人間の死亡率は100パーセントだからね、恨みつらみを持って寂しく死んでいく人間も多い、要は食いっぱぐれがないわけさ」


 需要があるから供給もあるわけか、理屈は分かるが、なんというか違和感が拭えないし、妙な気持ち悪さを感じる。

 大事な事の様な気がするのだが、今考えても、違和感の正体を掴めそうもない。

 モヤモヤした気持ちはとりあえず横に置いておく事にする。この世界に来てまだ1週間も経っていないのだ、考えるには情報が足りなすぎる。


「気をつけないと連れてかれると聞きましたが、幽霊って皆そうなんですか?」


「連れてっちゃうのは、この世の恨みやらなんやらで自我を無くした奴だね。「成れの果て』と呼んでる人もいるけど。僕たちは『亡者』って呼んでる。それ以外の幽霊は大体無害だよ」


「じゃあ、とりあえず亡者に注意してればOKなんですね」 


「単純な話をすればそうだね、でもさ、死者と話が出来るのは、ほんの一握りの人間しか居ないわけさ・・・」

 再び川辺さんの目が鋭くなる。


「話せちゃうとヤバいんですか?」

 今度は目を逸らさず答えた。


「ヤバいっていうか、めちゃくちゃ面倒くさい目に合う、だからお互い楽しくやろうね」

 そういって川辺さんは笑顔を見せたが、目が笑っていない。

 この世界での今後の生活は前途多難と言った所なんだろう、気が重い。


「さっさと食べちゃいなさいよぉ--、片付かないからぁ」

 チトセさんの怠そうな声がカウンターの奥から響いた。


「ごめんねー、長々と」川辺さんはカウンターに向かって声をかけてから「じゃあ食べて店出ようか、寮に案内するから」と言ってナポリタンをすすり始めた。


 俺も再び麺にフォークを刺してくるくると巻いてから頬張る。


「あ、冷めても美味しいですね」


「だろーー、ここのマジで美味いんだよ」

 川辺さんは、口の回りにべっとりとケチャップを付け、満面の笑みで言った。

 どこまで真面目で、どこまでふざけているのか、、本当に食えないな、この人。


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