買い物しました
薬屋、遠征物資を揃える商会を巡れば既に夕暮れ手前。明日の朝に出発しようと決め、寮を目指そうとしたとき、武器屋が視界に入った。
Sランクなら武器も見直した方が良いだろう。幸いなことに今日換金したモンスターのおかげで財布には余裕がある。
あ、そういえば最推しに授業料まだ払ってない。寮に戻ったら即払おう。
「らっしゃーい。」
「……私武器屋初めてかもしれませんねぇ。」
店員の余りにもやる気のない声。他のお店が元気いっぱいだったからこそ温度差に気が抜ける。
「回復職は杖をよく使うけどミシェルは使ってないよな。」
「装備で能力向上しなくてもミシェル様は最強っス。」
「2人は何か必要なものはありますの?」
「俺は予備の剣を買っておこう。」
「僕は予備部屋にあるんで大丈夫っスー!」
最推しが真剣な表情で予備武器を物色する間、私とメンヘラは店内をぶらり旅。あの剣変な形、あの弓はカッコイイ、なんて冷やかしに近い会話をコソコソとしていたら、店主がどこかをボーッと見ていることに気付いた。
視線の先を辿ると店内の装飾としても、客引き商品としても不釣り合いな壁の高い位置に飾られた杖。
素材は分からないが透明なそれは、窓ガラスから差し込む夕日に反射し、キラキラと光っていた。
こんな存在感のある物に今まで気づかなかったとは不思議だ。きっと物凄いお宝なのだろう。
ドロップアイテムなのか。それとも誰かの名作か。興味が沸いた。
「店主さん、あの杖はおいくらするんですの?」
「っ!!お前さん!あの杖が見えるんかっ!?」
そりゃあんだけ光ってたら見えるだろ。私もはそこまで目が悪くないぞ?
この感じだと売り物じゃなくて、非売品かと思ってただ綺麗だったからで会話を終わらせようとしたのだが、メンヘラの一言に目を見開いた。
「……?ミシェル様、どの杖っスか?あっちは盾しか見つけらんないっスー。」
「……へ?あそこよ、あのキラキラしてる。」
「壁しかないっスけど……?」
え、どいうこと!?あれなに!?私にしか見えないの!?どんなゴースト杖だよ!!
「がっはっはっ!嬢ちゃん!脚立貸してやるから杖を持ってみなァッ!持てたらその杖は嬢ちゃんにタダでくれてやらァ!!」
「……あとから高額請求されたり、とかしませんわよね?」
「俺を誰だと思ってやがるっ!王都一の武器職人ドワーフのミゲル様だぜッ!心配すんなら魔法契約書だって書いてやらァ!」
ドワーフのミゲル。一流職人で知られながらも、客を選ぶ職人気質だと冒険者たちでは有名な方だ。たしか。
こいつ本物かよ。偽者であとから請求されたら犯人は灰にしてやろうと決め、メンヘラが運んできた脚立に足をかけた。
今日スカートじゃなくて良かった。スカートだったら下から聞こえる変態臭漂う荒い呼吸音がもっと酷かっただろう。
「ミシェル?なにやってるんだ?」
「アレン様。あの杖を取ろうとしているのです。」
「……?どれだ?」
えー。最推しも見えないのか。これドッキリ?ドッキリじゃない?
今からカメラ来るのかな。杖持った瞬間ミミックとか出てこないよね?出ても倒すけど。お前らからかってたら許さんぞ。
「ほら、この杖ですわ。」
水晶のような硝子のような。そんな素材でできた杖を手に取った瞬間、武器屋全体に花びらやシャボン玉のようなものが舞う。
それらすべては色とりどりで、とても幻想的だ。
……えぇっ!?なにこれ!!!綺麗なドッキリとか予想外過ぎる!
「ほ、ほんとに取っちまいやがった!……ウオォォォォッ!!嬢ちゃん、そいつァ妖精王の宝と呼ばれた水晶でできた杖だ。持ち主以外にゃ姿すら見えねぇ代物よ。」
「は?」
「それが出来た年の妖精王は悪戯好きらしくてなぁ。見えねぇし触れねぇ俺もほんとにあるのかと爺さんを疑ってたが……。この目で拝める日が来るとは。ガハハっ!こいつァめでてぇや!」
妖精王とは何ぞ。おーい、ドワーフ。私を置いて酒飲み始めるな。ぶん殴るぞ?あん?
そして最推しもメンヘラもそんな目ェきらっきらさせてこっち見ないでぇぇぇ!
私外面と内面全然違うから!大きな猫被ってるだけだから!!許されるならあのドワーフの首元掴んで問い詰めたいんだからァァァ!!!
「持ち主の意思で形を変えるらしいぜ、そいつはな。名前もねぇ、おとぎ話みてぇな杖さ。嬢ちゃん。しっかり使いこなしてやんなァ!」
「は、はぁ……。」
お、ま、え!置いてたのにそういうのテキトーかよ!!殴るぞ?こちとら殴り回復職ぞ?
そう思ったのが間違いだったのか。
杖は見る見るうちに姿を変え、ゴブリンとかが持つこん棒に姿を変えた。
「……いや、これは持ち歩きづらいですわね。」
「ミシェル、今なに考えた?」
「すげー!すげーっスね!その杖!!」
誤魔化すように笑顔だけ浮かべて、小さくなれ小さくなれーと脳内ループ。
おお、可愛らしい鍵のモチーフのペンダントになった!やるな、こいつ!!
「ガハハハハッ!いやぁ、実におもしれぇ!まさに嬢ちゃんに相応しい武器だなぁ!」
お酒を飲んだドワーフは最推しの剣も安くしてくれたから、そこだけは見直してやる。だが普通はアウトだぞ。接客業なめんなよ、こら。
「ミシェル様はそのうち女神にでもなりそうっスねー。」
「クリシー、既にミシェルは女神を越える存在だ。」
「うっわ、アンタの意見に賛成できる。」
「ふん、ミシェルだぞ。当たり前のことだ。」
うん、落ち着いてくれ。
私は転生して聖女やってるけどただの人間だから。
……言っててちょっと人間離れしてるなって思ってない、絶対。
転生の段階であれ?とか思ってないよ。
「んでー?アレンは何買ったんだよ。」
「俺はこれだな。辺境のダンジョンでドロップするレアアイテムらしい。」
最推しがゆっくりとさやから抜いたのは、刀身が黒い小さめの剣だ。短剣よりは大きいがその剣は最推しにとっては使い慣れないものだろうと首を傾げれば、理由を説明してくれる。
「これは使用者に合わせて成長する剣だ。俺がそのとき使い易いように変化していくらしい。だからどんな剣に今後なるかは分からない代物だな。」
す、すごい。そんなん売ってたんだ。
私デザイン担当やりたい。超考えたい。
最推しが私の考えた剣を振るう……。最高では?盾は結界があるし、文字通り最推しの剣となり、盾となれるんじゃ……!!
え、いいなぁ。オタクの夢詰まってる。
最推しと一緒に敵と戦うときはメッチャ剣のイメージが飛ぶように念を送ろう。オタクの執念凄いからいける気がする。
「アンタに似てブッサイクな剣になったりしてなー!」
「む……。お前こそこれの短剣タイプ買って使ったら不細工なのになるんじゃないか。」
「んだと!?喧嘩売ってんのかよ!」
「それはお前が先だろ。」
あぁ。始まった。これ明日馬車でやられたら最推しに手を挙げそうで怖い。
静かに、静かに喧嘩して。いや、でもまた羞恥プレイになりたくないしなぁ。
どうしようかなぁ。
流石に寝るわけにはいかないし。
音を遮るわけにもいかないし。
巷で流行りの小説を何冊か持っていこう。
「……喧嘩は寮でしてくださいな。帰りましょう?」
「……はーいっス。」
「……分かった。」
「出来ることならもう少し仲良くしていただきたいものですわね。」
「そ、れは……ゔーっ。ミシェル様が言うなら努力するっス。」
「俺も……善処、する。」
「結果は伴わないかもしれませんわね。」
多分無理だな、これ。
・撲殺回復職未遂
今後こん棒は殺傷能力抜群の武器になることだろう。回復職の定義を覆しまくるアホの子ヒロイン(笑)爆誕。
・短めな剣は使ったことない剣士
短い剣使ったことないのに買うり割とあと先考えてないのかもしれない。
ポテンシャルは高いのでなんとかなる勢その1。
今後短めな剣が活躍するかは不明である。
・武器はあるので十分シーフ
武器?えー?取り敢えず今ので大丈夫でしょー!な軽い感じ。
冒険者を舐めてかかるがポテンシャル高い勢その2なため問題ないかもしれない。




