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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
おみまいするぞー
18/44

18話 後はよろしく!

 

「………はっ!?首、首がっ!!………痛くない」


 リントが目を覚ますと、そこは見慣れた自室のベッドの上だった。


「リント!よかった……即死だったらどうしようかと……」


「フィオナ………?」


 リントの目の前には、瞼を赤く腫らしたフィオナがいた。

 リントは、なぜ自分がこうなっているのか思い出す。


「そっか………俺、負けたのか………」


 自分はこの世界でトップクラスに強いという自負があった。

 しかし、今日、ぽっと出の異世界人に負けた。

 自分と同じ日本人だったが、この世界での経験も技術も、確実に自分の方が上のはずだった。

 しかし、相手のわけのわからない能力に戸惑い、負けた。

 あの自己紹介が本当なら、彼は日本でも相当なリア充だったのだろう。

 こちらに来てから忘れることができていたはずだった、あの頃の日本での嫌な記憶が甦る。


「ここにいても……あいつらには勝てないのか………俺は、弱いままなのか………」


 リントの瞳から、大粒の涙が零れる。


 出会った時からずっと、強い勇者としての姿を見てきたフィオナにとって、それは初めて聞いたリントの弱音であった。

 そしてその姿を見たフィオナは、幻滅などせず、むしろいとおしく感じたのだった。

 気付いた時には、フィオナはリントの頭をその胸に抱き寄せていた。


「リントは……、リントは弱くなんか無いです!私にとってリントは……いつだって、一番強くてかっこいい、私の勇者様です……!!」


「フィオナ……」


 突然抱き寄せられ少し驚いていたリントだったが、フィオナの言葉を聞き、自分もフィオナの背中に手を回して抱きしめた。


「……ありがとう、フィオナ………そうだよな、一回負けたくらいで、へこんでられないよな……」


「リント………」




「おい、ずっと待ってんだから、ここでおっ始めたりすんなよ?」


「ッッ!!!!???」


 心臓が飛び出るかと思う位驚いたリントの視線の先に、先程いくら攻撃しても効かなかった謎のゴリマッチョが椅子に座って頬杖をついていた。


「な、ななななん、いいいいつからみみみ見て」


「お前が目え覚ます前からずっといたよちくしょう」


 リントがフィオナの方をバッと見ると、フィオナもだいぶ顔を赤くしている。


「知ってましたけど、リントが目を覚ました瞬間、夢中になっちゃって……」


「盛り上がってたからクールに去ろうかなとも思ったけど、盛り上がり過ぎそうだったから。そういうのは俺が帰ってからにして、とりあえず待ってるから居間に来てくれ。大事な話がある」


 そう言い残し、ゴリマッチョはさらっと部屋を出て行くのだった。






 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「あ、戻ってきたってことはリントくん目覚ました?」


 居間に戻ると、ルシャナが声をかけてきた。


「…………チッ、元気そうで何よりだよ」


「なんでそれで機嫌悪いの………」


「いいもん見せつけられたからな。あー羨ましい羨ましい」


 ドカッとソファに腰掛け、リントが来るのを待つ。


「……人の旦那を殺しかけておいて、よくそんな態度でいられるわね」


 夫が負けたことにまだ納得いかない様子のマリーに睨まれる。


「やり過ぎても治すから大丈夫って言ってたのはフィオナだろ。しかも、先に山が消し飛ぶ威力の魔法撃ったり、腕貫通させる勢いで殴ってきたのはあいつの方だろうに」


「それは……」


 言い返せなくなり、マリーは悔しそうに顔を背けた。


「まあ治ったんだからいいじゃねえか。しかしアキラ、まさか本当に勝っちまうなんてな。熊から逃げてたくせに」


「いやマジであれは勝てねえから。あれと戦うなら勇者3人と戦った方がマシだね」


「いやーホントよくわかんねえ」


 フィックスと二人でケラケラと笑っていると、マリーがなんとも言えない顔で聞いてきた。


「え、グリズリー系には勝てないの?」


 正直に答えてやる。


「ああ、十中八九無理だね。熊に会ったら逃げるしかないと思う」


「ますますわけがわからないわね……」


「まあ俺に勝とうとしたらその辺がヒントだから。タネがバレたらたぶん俺超弱いからよろしく」


「リントを負かした奴が弱いなんて思いたくないわよ……」


 マリーが落ち込んだところで、リントとフィオナが戻ってきた。


「おう、もういいのか?」


「大丈夫です。それで、何か話があるって言ってましたけど……」


「うん。……ルシャナ、ちゃんと帰りの準備しとけよ」


「……わかったよ。もったいないなあ……」


 俺の指示を受け、ルシャナは先程の中庭へ向かった。

 俺が神様をアゴで使っている光景に勇者夫婦たちは変な顔をしていたが。

 よし、じゃあ始めよう。


「俺が異世界人だと知ってる人が今のところこれで全員なのでちょうどいいから話す。えー、俺が今の勇者だという話でしたが……」



「これにて、元の世界に帰ります!」



「「「「………………はぁ!?」」」」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 俺の宣言に、勇者夫婦たちはもちろん、フィックスも驚いていた。


 嫁二人は、

「リントに勝ってじゃあ帰るって、本当に一体何しに来たの!?」

 と。

 リントは、

「大室さん魔王倒してないでしょう!?まだ帰れるわけないじゃないですか!!」

 と。

 フィックスは、

「アキラのおかげでせっかくここ何日か楽しくなってきたのに!もうちょい残ってくれよ!」

 と、反応は様々だったが。


 フィックスはともかく、リントたちの反応はまあごもっともなので、俺は大まかなこれまでの経緯を説明することにした。

 日本で日々楽しく過ごしていた事、気付いたら突然異空間にいた事、ルシャナの勝手な都合で勇者にされた事、ルシャナの勝手な判断で帰れなくなった事、特例で途中帰還をするために仕方なくこちらの世界に来た事、先程リントに勝ったことで、帰還できるようになった事……


 一通り話し終ると、皆それぞれ複雑な顔をしていた。


 最初に口を開いたのはマリーだった。


「えーと、かいつまんで言うと、あなたは勇者になんかなりたくなかったのに、ならざるを得なかった…って事?」


「うん。それしか帰る方法がないって言われたから。最初から俺の目的は元の世界に帰る事だけだ」


 そう答えると、マリーとフィオナは「そんな人にリントが負けたなんて……」と、余計落ち込んでいた。


「まあ、勝てたのは本当にたまたまだ。相性が良かっただけだよ。そうだよなリント君?」


「えっ!?え、えぇ……そうですね。………そうなんですかね……」


 急に振られて気の抜けた返事をするリント。まあ仕方ない。

 一応彼の名誉を守る為に、先程の話では勇者として選ばれる条件や、神様からのチートボーナス、イケメン化サービスなどの事は意図的に省いて話した。

 もし俺にそれらを話されて、本来の自分のことを知られたらと思うと気が気でないのだろう。


「なんにせよ、そのおかげで帰るために必要な信仰が一発で集まったわけだ!いやー良かった良かった」


「あ、あの……」


「何だ、リント君」


「この家の中で、この人数しか知らないはずの決闘の結果で、信仰ってそんなに集まるものなんですか……?」


 うん、それは俺も思った。のでダーナ様に確認済みである。


「管理神様が言うには、そういった勇者の行動ってのは、誰が見てようと見てまいと世界の歴史として記録されるらしい。詳細はともかく、『今まで存在を知られていなかった人物が先代の勇者と決闘して勝った』という事実は、もう世界中で噂になるらしいぞ」


「何ですかそのシステム!?」


「お前の時も自分の活躍がやたら広く知られてたりしなかった?」


「う………あったかもしれない」


「そういう事だ。……さて皆、ちょうどこの話が本題に関わってくるわけだけど」


「「「「え?」」」」


 皆が一斉に「まだ本題じゃなかったの?」といった顔でこちらを向く。

 そう、帰るにあたって言っておかなければならない事がある。というか、ちょっと頼みごとというか。


「今話した通り、『無名の人物が先代勇者に勝った』というのはもう変えようのない事実になった。が、俺はこれで帰る。帰って向こうで暮らす」


「……………………あ。」


 マリーは気付いたようだな。

 重ねてもっとわかりやすく言う。


「先代勇者に勝った人物ということで、次の勇者はそいつに間違いないと、世界中から期待されるわけだ。もう帰っちゃう俺に」


 ここまで言えば、マリー以外も何が起こるか察したようだった。

 皆の顔が引きつっていく。


「決闘の関係者として、ここにいる皆は世界中から人が押し寄せて質問やら何やらでそりゃもう大変なことになるだろう。たぶん。……だから、上手いこと対応しといてね。よろしく」



「丸投げする気ですか!?」

「なんでそこまでわかってて平気で帰ろうとすんのよ!」

「せめて対応策とか用意してくださいよ!」

「ちょ、勘弁してくれ!そんな面倒なことごめんだぜ!」



 皆一斉に文句が出る出る。

 しかし、悪いのは俺ではない。勝手に人選したあのポンコツ救世神だ。

 用件を伝えたので中庭に向かうと、皆文句を言いながらついてきた。


「後ろめたさとか無いんですか!?」


「知るか、ルシャナに言え!」


「せっかく勇者の務めが終わって隠居してたのに!」


「俺に言うな!」


「なんで決闘なんかしたのよ!」


「お前らが始めたんだろうが!」


「そりゃないぜアキラ!」


「うんごめん、でも決闘する羽目になったのはフィックスも悪いからね?」


 全ての文句を突っぱね、中庭に到着する。

 中庭にはルシャナが、用意した世界移動用の穴と共に待っていた。


「まったく、お前のせいで皆怒ってるぞ」


「いや、僕も悪いけどもう少しやりようあったでしょ」


 いよいよ本気で帰るらしいと見て、みんな更にギャーギャーと騒ぎ出す。


「どうどう、皆の不満はわかるが、全ての原因はこのクソ救世神にある。文句はこちらにぶつけるように」


「まあそうなんだけど、よくそんな他人事みたいに言えるね君……」


「俺の代わりに来る次の人選は正しく、なるべく早くするようにコイツに言っとくから。そいつがリントに勝った奴だということにしてしっかりサポートしてくれ」


「さらっと無茶な要求を……次の子にプレッシャーかかってるし……」



 ルシャナのぼやきを聞き流して穴に近付くと、皆の文句を言う声がどんどん大きくなっていくのがわかる。

 気持ちはわかるが、いちいち付き合ってたらいつまでも帰れない。

 バッサリ切るしかないだろう。


「ちょ、本当に今すぐ帰る気ですか!?」

「待って、せめてもう少し話し合ってからにして!」

「アキラ、もうちょい待ってくれ!」


「すまん!もう全部ルシャナに任せるから!俺は最初から帰りたかっただけなんだよ!」


 いよいよ飛び込もうとする俺に四人とも慌てて駆け寄ってくる。だがもう遅い。



「じゃ、お疲れ様でした!」




 勇者たちの叫びに見送られ、俺は日本へと帰るために穴に飛び込んだ。



 さようなら異世界。よろしく次の勇者。ハードル上げちゃったけど、頑張ってね!

長くなっちゃいましたが、ここまでが一応プロローグです。

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