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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
おみまいするぞー
10/44

10話 腹を割って話そう

 


 さて、明日出発と決めたはいいものの、今日の宿がない。

 ということを恥を偲んで相談したら、フィックスが宿代まで出してくれるという。

 さすがに申し訳ないと一度断ったが、飯に誘って依頼をこなす時間を奪ってしまったのと、ちょうど暇だったときに面白いものを見せてくれて、この先も面白くさせてくれそうなので気にしなくていいとのこと。

 確かに暗くなってきたので、この時間から依頼をこなす気にもなれないし、そこまで言うならと厚意に甘えることにした。



 同じ宿で部屋を取り、フィックスはもう一度飲みに行くと言い出ていった。

 誘われたが、ちょっとアホ神と今後の話や文句が色々とあるので、時間ががあったら後で行くと言って断った。


 そして今、宿の部屋でアホと対峙している。



「…さて、ルシャナ、腹を割って話そうか」


「僕もいい加減君の能力について教えてほしいな」


「じゃあ、それを説明したら、俺の質問と要望にもちゃんと答えてもらうぞ」


「はいはーい」



 軽いなこのやろう。

 では、とりあえず俺の能力について説明しよう。



「スキルとステータスが無効って言ってたけど、それが概要でいいの?」


「いや、無効なのは、『異世界ならではのものすべて』だ。」


「……へ?すべて?」



 そう、すべてである。

 スキルを駆使した物理攻撃は無効。まだ見たこと無いが魔法による攻撃も無効。魔法による回復も無効。回復アイテムの効果も無し。レベルアップによって上がったステータスも無効。そういう感じ。



「いやいやちょっと待って、よくわかんないんだけど」


「何が?」


「色々あるけど…ステータス無効って、わかりやすく言うとどういうこと?さっきの腕相撲のときは特に気にしなかったけど」


「そうだな…レベル1のやつがいて、そいつがスライムを一体、一撃で倒すと?」


「まあ、レベル1ならレベルが上がるだろうね」


「でもそれ、俺の現実世界ではおかしいだろ?」


「何で?」


「変なプルプルを一匹一撃で潰しただけで、力やら知力やら素早さやら、一気に成長するかって話」


「ああ……確かに。」


「だから、レベルアップも異世界ならではのものとして俺は無効。ステータスの概念もない。確かなのは今までのトレーニングで鍛えたもののみ」


「……まさか」


「お前が狭間の世界で説明した、俺への各種チートボーナス、全部無効」


「はああああああ!?」



 お、今日イチの動揺。



「何それ!?全然強くないじゃん!!」



 何を言うか。魔王だろうがSランクだろうが、どんな強者もトレーニングをしてなければ敵ではないのだ。こんなにフェアな条件はない。



「じゃあ今日、あのおっさんやフィックスに勝ったのは……」


「単純に、今までの純粋なトレーニング量で俺が勝っていただけのこと」



 そう、ここがダーナ様に確認しておいたポイントの1つ。

 この世界で戦闘を生業としている強者は、ほぼレベルアップによるステータス依存だと聞いた。

 つまり、どんだけ魔物を倒してステータスをアップしても、純粋な筋トレ量ではほぼ俺の勝ちなのである。ラガーマンなめんな。



「そんな……道理で、勇者の登場なのに可愛い女の子が全然出てこないと思った……」



 ああ、確かに。転生もののテンプレだったら初日で2、3人くらいは美少女とお近づきになってもいいだろう。

 だが俺はすぐ帰るつもりなので、中途半端に可愛い子と知り合っても別れが残念に思うだけだろう。

 もちろんお会いできるならお会いしたいが。



「じゃあ、弱点と対抗策ってのは……?」


「対抗策は、純粋にトレーニングを積み重ねて俺を越えればいいだけ。無論、俺もトレーニングを続けるのでそんなことはさせない」


「筋トレ馬鹿だ……」


「弱点は……色々あるんだけど、まずはスキルに頼らない物理攻撃」


「というと?」


「例えば、高いところから突き落とされれば、普通に怪我するし最悪死ぬ。この世界ならではの回復魔法やポーションも効かないから致命的」


「ホントに致命的じゃん!!」


「あとは魔物かな。例えば、凶暴化した熊の魔物がいたとして、そいつは俺にとっては普通の熊なんだけど…」


「だけど?」


「さすがに、いくら筋トレしてもステゴロで熊には勝てねえ」


「僕のこと馬鹿って言うけど君も大概じゃない?」



 何を言うか。ある程度の人助けをして帰れればそれでいいのだ。過ぎた力を持つ必要はない。

 それに、元から現実に存在しないものだったら比べるものがないので、そいつがやたらとトレーニングをしてない限り俺の勝ちだ。これもダーナ様に確認しておいた。

 まさか筋トレする魔物はいるまい。



「あ!じゃあ、君はやたらと帰りたがるけど、帰るための世界間のゲートも無効になるんじゃー」


「バカヤロウそれは例外にしてもらったに決まってんだろうが」


「なんて都合がいい!!」



 そもそも俺は巻き込まれた被害者なのだ。それくらいの優遇はあって然るべきだろう。


「さて、俺の説明はこんなもんだ。後で質問が出れば随時受け付けてやる」


「くそう、地味なくせに良くできた能力にしやがって……」



 悔しがっているが、次は俺の番である。ルシャナだけでなく、この方からも話を伺おう。

 ポケットからあれを取り出す。



「……何もしてんの?異世界なんだから、スマホの電波なんて繋がらないよ?」


「ところがどっこい、もしもし、ダーナ様?」


『おう、聞こえとるぞ』


「なんで!?」



 ダーナ様にお願いした特権その2、スマホでダーナ様と話ができる。

 もちろん神様パワーの不思議電波なので通話料0円。とってもお得。


 テレビ電話&スピーカーにしてセット。



「さてダーナ様、まず聞きたい事があるんですけど……」


『先代の勇者の事か?』



 おお、さすが鋭い。

 しかし、前回の魔王との戦いが5年前とか、当時の勇者が存命とか、こんな大事な情報、先に教えて欲しかったものだが……



『すまんな、引き継ぎ作業の途中だったもんで、君を送ってから知ったのだ……』



 なんだ、またアホのせいか。

 もうそこは予想の範囲内なのであんま気にしなくていいや。後でまぶた捩り切れば。



「もう1つ質問です。『勇者だから魔王を倒す』のか、『魔王を倒したから勇者と呼ばれる』のか、どっちが先ですか?」


『そんなもん、魔王を倒して初めて勇者となるに決まっとるだろう。実績も無いのに勇者名乗ってたら只のアホだぞ』



 ルシャナのまぶたを引っ張る。



「お前のせいで俺只のアホだよ、どうしてくれる」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!ごめんなさい!次から許可とります!!」


『そっちでも弟子がなにかやらかしとるようだな。本当に申し訳ない』


「いえ、こいつが救いようのない馬鹿なのはわかったんで、もう慣れました」


「慣れたならもうちょっと優しくして!!取れちゃう!まぶた取れちゃう!!」







 こうして、ダーナ様に色々聞いたり、アホに今までのダメ出しや今後の要望を伝えながら、初日の夜は更けていった。

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