10話 腹を割って話そう
さて、明日出発と決めたはいいものの、今日の宿がない。
ということを恥を偲んで相談したら、フィックスが宿代まで出してくれるという。
さすがに申し訳ないと一度断ったが、飯に誘って依頼をこなす時間を奪ってしまったのと、ちょうど暇だったときに面白いものを見せてくれて、この先も面白くさせてくれそうなので気にしなくていいとのこと。
確かに暗くなってきたので、この時間から依頼をこなす気にもなれないし、そこまで言うならと厚意に甘えることにした。
同じ宿で部屋を取り、フィックスはもう一度飲みに行くと言い出ていった。
誘われたが、ちょっとアホ神と今後の話や文句が色々とあるので、時間ががあったら後で行くと言って断った。
そして今、宿の部屋でアホと対峙している。
「…さて、ルシャナ、腹を割って話そうか」
「僕もいい加減君の能力について教えてほしいな」
「じゃあ、それを説明したら、俺の質問と要望にもちゃんと答えてもらうぞ」
「はいはーい」
軽いなこのやろう。
では、とりあえず俺の能力について説明しよう。
「スキルとステータスが無効って言ってたけど、それが概要でいいの?」
「いや、無効なのは、『異世界ならではのものすべて』だ。」
「……へ?すべて?」
そう、すべてである。
スキルを駆使した物理攻撃は無効。まだ見たこと無いが魔法による攻撃も無効。魔法による回復も無効。回復アイテムの効果も無し。レベルアップによって上がったステータスも無効。そういう感じ。
「いやいやちょっと待って、よくわかんないんだけど」
「何が?」
「色々あるけど…ステータス無効って、わかりやすく言うとどういうこと?さっきの腕相撲のときは特に気にしなかったけど」
「そうだな…レベル1のやつがいて、そいつがスライムを一体、一撃で倒すと?」
「まあ、レベル1ならレベルが上がるだろうね」
「でもそれ、俺の現実世界ではおかしいだろ?」
「何で?」
「変なプルプルを一匹一撃で潰しただけで、力やら知力やら素早さやら、一気に成長するかって話」
「ああ……確かに。」
「だから、レベルアップも異世界ならではのものとして俺は無効。ステータスの概念もない。確かなのは今までのトレーニングで鍛えたもののみ」
「……まさか」
「お前が狭間の世界で説明した、俺への各種チートボーナス、全部無効」
「はああああああ!?」
お、今日イチの動揺。
「何それ!?全然強くないじゃん!!」
何を言うか。魔王だろうがSランクだろうが、どんな強者もトレーニングをしてなければ敵ではないのだ。こんなにフェアな条件はない。
「じゃあ今日、あのおっさんやフィックスに勝ったのは……」
「単純に、今までの純粋なトレーニング量で俺が勝っていただけのこと」
そう、ここがダーナ様に確認しておいたポイントの1つ。
この世界で戦闘を生業としている強者は、ほぼレベルアップによるステータス依存だと聞いた。
つまり、どんだけ魔物を倒してステータスをアップしても、純粋な筋トレ量ではほぼ俺の勝ちなのである。ラガーマンなめんな。
「そんな……道理で、勇者の登場なのに可愛い女の子が全然出てこないと思った……」
ああ、確かに。転生もののテンプレだったら初日で2、3人くらいは美少女とお近づきになってもいいだろう。
だが俺はすぐ帰るつもりなので、中途半端に可愛い子と知り合っても別れが残念に思うだけだろう。
もちろんお会いできるならお会いしたいが。
「じゃあ、弱点と対抗策ってのは……?」
「対抗策は、純粋にトレーニングを積み重ねて俺を越えればいいだけ。無論、俺もトレーニングを続けるのでそんなことはさせない」
「筋トレ馬鹿だ……」
「弱点は……色々あるんだけど、まずはスキルに頼らない物理攻撃」
「というと?」
「例えば、高いところから突き落とされれば、普通に怪我するし最悪死ぬ。この世界ならではの回復魔法やポーションも効かないから致命的」
「ホントに致命的じゃん!!」
「あとは魔物かな。例えば、凶暴化した熊の魔物がいたとして、そいつは俺にとっては普通の熊なんだけど…」
「だけど?」
「さすがに、いくら筋トレしてもステゴロで熊には勝てねえ」
「僕のこと馬鹿って言うけど君も大概じゃない?」
何を言うか。ある程度の人助けをして帰れればそれでいいのだ。過ぎた力を持つ必要はない。
それに、元から現実に存在しないものだったら比べるものがないので、そいつがやたらとトレーニングをしてない限り俺の勝ちだ。これもダーナ様に確認しておいた。
まさか筋トレする魔物はいるまい。
「あ!じゃあ、君はやたらと帰りたがるけど、帰るための世界間のゲートも無効になるんじゃー」
「バカヤロウそれは例外にしてもらったに決まってんだろうが」
「なんて都合がいい!!」
そもそも俺は巻き込まれた被害者なのだ。それくらいの優遇はあって然るべきだろう。
「さて、俺の説明はこんなもんだ。後で質問が出れば随時受け付けてやる」
「くそう、地味なくせに良くできた能力にしやがって……」
悔しがっているが、次は俺の番である。ルシャナだけでなく、この方からも話を伺おう。
ポケットからあれを取り出す。
「……何もしてんの?異世界なんだから、スマホの電波なんて繋がらないよ?」
「ところがどっこい、もしもし、ダーナ様?」
『おう、聞こえとるぞ』
「なんで!?」
ダーナ様にお願いした特権その2、スマホでダーナ様と話ができる。
もちろん神様パワーの不思議電波なので通話料0円。とってもお得。
テレビ電話&スピーカーにしてセット。
「さてダーナ様、まず聞きたい事があるんですけど……」
『先代の勇者の事か?』
おお、さすが鋭い。
しかし、前回の魔王との戦いが5年前とか、当時の勇者が存命とか、こんな大事な情報、先に教えて欲しかったものだが……
『すまんな、引き継ぎ作業の途中だったもんで、君を送ってから知ったのだ……』
なんだ、またアホのせいか。
もうそこは予想の範囲内なのであんま気にしなくていいや。後でまぶた捩り切れば。
「もう1つ質問です。『勇者だから魔王を倒す』のか、『魔王を倒したから勇者と呼ばれる』のか、どっちが先ですか?」
『そんなもん、魔王を倒して初めて勇者となるに決まっとるだろう。実績も無いのに勇者名乗ってたら只のアホだぞ』
ルシャナのまぶたを引っ張る。
「お前のせいで俺只のアホだよ、どうしてくれる」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!ごめんなさい!次から許可とります!!」
『そっちでも弟子がなにかやらかしとるようだな。本当に申し訳ない』
「いえ、こいつが救いようのない馬鹿なのはわかったんで、もう慣れました」
「慣れたならもうちょっと優しくして!!取れちゃう!まぶた取れちゃう!!」
こうして、ダーナ様に色々聞いたり、アホに今までのダメ出しや今後の要望を伝えながら、初日の夜は更けていった。




