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40話:弟子の異常な愛情 または如何にしてジャムを心配するのを止めてオートマティックを愛するようになったか

2015/12/20 誤字を修正。

2015/08/02 表現を一部修正。


 師匠達の話は終わったようで会議室のドアがノックされた。


「はーい」


 エミリーが返事。同時にドアが開きベック師匠が入ってくる。


「おまたせ、おまたせ。いやー思ったより長引いちまった」

「なにか問題でもありましたか、師匠」


 特に気になった訳でもないがなんとなくの場つなぎ的に声をかける。


「んー、商売のほうは問題ないんだ。ムラタ式の銃器も予定通りにさばけたしな。それより途中で遭遇したライカンスロープのほうが問題でなぁ」


 かるくため息をつく。


「例の、ハグレじゃないグループに襲撃されたというやつですか」


 ジョン・トヨダも多少なり気になるようだ。


「そう。あいつらがどこの森から移ってきたやら。今までは北都市と西の間はわりと安全だったんだが」


 師匠は厳しい表情だ。


「来るとしたら東のほうでしょうね。王都を突っ切ってってことはありえませんから、ぐるっと北回りに山森を渡って遠征ってとこでしょうか」


 地理がわからないのでざっくりした地図を書いてもらう。


「中央に王都があって、周りは平野だ。その北を森が囲んでいる。もうちょい北に行けば北都市と王都の間に山が広がってる。ここまではいいな?」


 俺は生返事だ。


「で、北都市と西都市はその山深くを避ける形で街道が交易路として通っている。西都市と王都は森を挟んではいるが、割と平坦な道だ」


 王都は一番古い街らしい。平野が広がり農業で成り立っていると聞く。南西は内海もあり魚介類も捕れるとか。飯が美味い都市。一度は行ってみたい場所だ。


「そういえば王都、北都市間の交易路にモンスターが出たって話はあったか、トヨダのせがれよう?」

「そういう話は聞きませんね。一応、商隊は護衛旅団レベルでがちがちに固めて行き来してますから。とはいえ最近は商隊の本数も少ないみたいで、遭遇してないだけかもしれません」

「王軍も装備を整えて久しいみたいだからな、しかたあるまい。北都市は最低限の食料輸入と弾丸出荷でなんとかしてるんだろ?」

「ですね。鍛冶ギルドも今は王軍相手の商売より開拓村の開発と、その防衛需要のほうに注力してます」


 師匠がため息をつきつつ。


「ふぅ、やっぱりシラカベギルド長と同じか。ライカンスロープの件もあるし、しばらくは西のギルドも開拓村への納品がメインかなぁ……」


 俺もエミリーも話を聞いてはいるがほとんどお飾り状態だ。


「おっと、時間をかけすぎちまったな。遅くまですまんね、トヨダの」

「いえ、ジョニー君とも非常に興味深い話ができましたし、決めかねていた今後の方針も開拓村支援の方向に進みそうだってのも聞けましたし助かりましたよ」

「そりゃお互い様。今後とも、うちの若いのをよろしく頼むよ」

「こちらこそ。ジョニー君と話しているといろいろ面白いアイデアが湧いてきますから」

「それじゃ今夜はこの辺で。明日は商談行くんで親父さんによろしく」



 宿に戻る道すがら師匠と今後の商売の話をする。


「うちも開拓村向けの商売に転向していくんですか?」


 そうは思えなかったが一応聞いてみる。


「いや、うちは今まで通りだな。西のギルド、ムラタのおやっさんはたぶん北と協調路線でいくだろうが」

「なんでですん?」


 エミリーが聞く。方言出てるぞ、ミリー。


「開拓村の自衛つっても銃と弾渡してハイおしまい、ってわけじゃない。村民は畑で喰ってかなきゃならんだろ」

「防衛に回せる人材が足りない訳ですね。人材派遣でもやりますか?」


 半分冗談だったが、ある意味で当たりだったかもしれない。


「それもいいな。村に行って護衛やりながら飯と土地を対価にもらって安住したいってガンスリンガーや人足もけっこういる。持ってないやつには不良在庫の銃を安く売りつけようと思ってたが、それよか信用できるヤツを斡旋あっせんして紹介したほうが今後の……」


 途中からベック師匠は考えを巡らし始めたのか黙り込んでしまった。

 俺とエミリーはその邪魔をしないようにおとなしくついていく。



 宿では一度師匠の部屋に集まって明日の段取りを聞くことになった。


「明日はトヨダの親父さんと商談だ。昼飯食ったら行くからついてこい」

「シラカベさんの工房との商談は今日終わったんですか?」

「おう。前に発注してた分は用意してくれてるから、そっちは帰りに積んで終わりだ」


 うちの店って複数メーカーの製品を扱ってたのか。交換部品の確保やらなんやらで面倒なんじゃなかろうかと思ってしまう。


「トヨダの親父さんの店は珍しいもんを出してるからな。倅のジョン君もけっこう面白いやつだったろ」

「はい。いろいろ新しい技術にチャレンジしているようですね」

「へんな形の拳銃を見せてもらっちゃいましたっ」

「お、やっぱり新しいの作ってたか。親父さんのほうは長物、ライフルやカービンの改良に、ジョン君のほうは新型自動式銃の開発でがんばってるみたいだからなぁ」

「師匠、提案があります」


 意を決して師匠に進言する。


「ジョン・トヨダさんの自動式拳銃、うちで扱うべきです」

「理由を言ってみろ」

「今までの拳銃サイズ、重量でほぼ同じ威力の弾を、5割増しも装弾できます。しかも素人でも連射できます」

「それだけか?」


 師匠は納得していない。


「さらにその連射自体は片手で可能です。ハンマーを起こしなおす必要がありません。もう片方の手は純粋に銃を保持するのに使えるので命中精度が段違いになります」

「ガンスリンガーは使い慣れたリボルバーを好むんじゃないか?」

「一時期はそうでしょう。しかし評判を聞きつけたら違ってくる。さらに、最初に売り込むべきはガンスリンガーじゃありません。動物やモンスター相手の護身用に弾数を多く持ち歩き、対象に大量に撃ち込みたい開拓民です。その次は軍隊相手の商売にもいけるでしょう」

「続けろ」


 たぶん今の俺は目がらんらんと輝いていることだろう。端から見たらヤバい人だ。だが気にしない。


「弾の入れ替えがボルトアクションライフルのクリップに似た方式なんです。弾切れでピンチになった時には弾倉と呼ばれる弾が込められた箱をボタン一つで外せます。再装填は予備の弾倉を挿し込むだけでフックに噛んで固定されます。差し込み、スライドを引いて初弾を送り込むだけでまた9発撃てるんです」

「魅力的に聞こえるな。でもまた初弾を送り込むのは面倒じゃないか?」

「そこについては改良案があります。撃ちきったらスライドが後退した状態で固定され、弾倉を入れ替えたら解除バーをずらせば片手で初弾装填が可能になります。すでにジョンさんに伝えてあります」

「……馬鹿野郎。商売のネタをくれてやるやつがあるか」


 そこには怒りを押し殺した師匠の顔があった。


「……」


 俺は気圧けおされ、黙り込んでしまう。エミリーがひどく心配そうにこちらを見ている。


「まあ、教えちまったもんはしかたない。次からは俺に相談してからにしろ」

「はい。あと……言い訳じみてしまいますが、その仕組みは多少複雑なので最初から銃に仕込まれていたほうが動作が確実になります。後付けのカスタムだと加工箇所が多くなって高くなるでしょう。安く普及させたいなら無くてもいいかもしれません。しかし、命のかかっている場合に一手間増える元の銃が受け入れられるかは自信がありません」


「そこまで考えた上で言ったんなら今回は許してやる。今後は俺が採用するかどうか決めてから教えてやるようにしてやれ。まったく、こいつは根っからの技術屋気質(かたぎ)だな……」

「まだまだ利点はあります」

「あるのか。まあいい、つきあってやる。言ってみろ」

「弾倉は銃のグリップに差し込む形です。リボルバーのシリンダーのように左右に出っ張りません。全体がグリップとほぼ同じ厚みです。装弾数を多くしても縦に長くなるだけです。持ち運ぶときは最初の9発入りを挿しておけばリボルバーより薄いので邪魔になりにくいです。9発以上の弾が必要な状況なら長い弾倉に交換すれば10発以上、カービン並みの装弾数が実現できます。リボルバーのシリンダー交換よりよほどすばやくできますよ」


 俺はまだ続ける。


「トヨダさんと契約するときは予備の弾倉が開拓村では足りなくなる可能性があるから、などの理由付けでうちの工房でも作れるようにすれば、長いマガジンはうちが最初に出せます。これはうちの売りになるでしょう。

 プレス加工と鋳造からの削り部品、バネだけで作れますから生産のコストはそれなりに安くいけると思います。リボルバーの予備シリンダーと比べるとかなり安くなります」

「ふん、一丁前に製造コストも考えてるのか」

「しかもその拳銃はバレル長が4.5インチほどです。銃弾の火薬量に合わせた高威力のロングバレルもカスタムパーツとしてうちで出せます。割高になるでしょうけど」

「あ、言い忘れてました。リボルバーとの一番の違いは火薬が無駄になりにくいんです」


 師匠の頭に一瞬、クエスチョンマークが浮かぶ。ミリーはすでに理解していない顔だ。


「リボルバーだとシリンダーとバレルの隙間からガスが漏れますが、自動式だとボルトアクションのように薬室と銃身が一体型なのでガス漏れのロスがありません」


 師匠が納得した顔になる。


「さらに発射の反動を利用して次弾を自動で装填する仕組みなので、その機構に反動が使われてガンナーの手に伝わる反動が減ります。なので加工精度が上がればリボルバー以上に精密な連射がリボルバーサイズで実現できます」

「……えらくジョン・トヨダの新型に惚れ込んでるんだな。熱意は伝わった。明日の商談で実物を見てから考えてみよう。しかし今のところ利点しか聞いてないな。リボルバーに比べて悪い点はないのか? 今のうちだぞ、ほれ言ってみろ」


 師匠の口元が僅かに笑っている。少なくとも俺の熱意は伝わったようだ。


「正直に言います。機構がリボルバーより複雑ですし、削り出し加工も多いので値段が上がります。さらにリボルバーからの乗り換えだと多少の慣れが必要です」


 頭の中でリボルバーとオートマティックの比較をしながら一つづつ挙げていく。


「グリップの中に弾倉を納める形になるのでグリップ形状は人に合わせられる範囲が大幅に減ります。今の試作品だとトリガー周りに削り加工を入れたい部分もあります。手の小さい人には合わないかもしれません」

「ほかには?」

「リボルバーではトラブル時には次弾をすぐに撃つことができますが、トヨダ式自動拳銃ではスライドを引いてトラブルを起こした弾を抜く必要があります。ボルトアクションと似たようなものです。それでもグリップを握りながら反対の手で対応できるので多少はマシです」

「分かった。では一番の利点と一番の難点を一つづつ簡潔に説明しろ。その後、難点の解決手段を提案してみろ」


 ごくりと喉が鳴る。


「……利点は連射性能です。難点は価格です。価格の解決手段は大量生産および、強度が多少落ちても問題ない部分であれば鋳造からの削り出し工作によるコストダウンが可能です」

「分かった。そこらへんの提案を切り札に明日の商談に行ってみるか。ジョニーが惚れた銃だ。可能だったら現物の2、3丁を買って研究してみたいもんだ」


 決戦は明日の商談が鍵だ。


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