第十一話 0.1秒の盲点
死を覚悟した瞬間、
世界から音が消えた。
眉間に届く寸前で銃弾が真っ二つに割れる。
そこで私は確信した。
圧倒的な素早さと絶技……。
硝煙の向こう側に立つ、鉄壁の背中。
その背中を見て、私は心底安心する。
「……遅いですよ、隊長。死ぬかと思いました」
軽口を叩きながらも、私は銃を構え直す。
「よっ。待たせたな」
そこには、完全復活した神代空和がいた。
この背中がある限り、私の役目は終わらない。
――――――――
視線を交わすまでもない。俺は地面を思いっきり蹴る。
その音を合図に、鷹宮は無駄のない動きで後方へと飛んだ。
鷹宮なら、俺が暴れるための『死角』を完璧に埋めてくれる。
信頼という言葉すら生ぬるい、戦場での契約だ。俺は、俺の役割を全うする。
「零動の剣士だ!あんな腰抜け、恐れるな!」
「誰が腰抜けだって?」
俺は敵の目前にまで迫り、木刀で気絶させる。
その瞬間、一発の弾丸が横から迫るが、難なく切飛ばす。
だが、それは囮だったようだ。
視界と意識が弾丸に向いたその時、何かが投げられた。
――ッグレネード……!
さすがに避けきれない。
木刀で衝撃を与えたら確実に爆発してしまう。
だったら……。
木刀で思いっきり遠くへはじき飛ばし、そのまま地面に伏せた。
ドオォォォォン!!
「ぐわぁッ!?」
俺みたいに伏せていなかった敵の殆どがグレネードでやられた。
これで、数はだいぶ削れた。
残りは葛城と側近だ。
突如、足元に殺気を感じる。
葛城だ……。
サブマシンガン二丁で素早い動き。
…………。
――鬼塚の動きに似ている。
だが、決定的に何かが足りない。
あいつには、理屈を叩き潰す「純粋な狂気」がある。
俺の『鎮める力』が、あいつの『昂ぶり』に追いつかなくなる日が来るかもしれない。
ただ、こいつを予行練習として使わせてもらうか。
油断を見せていた自分の体を反らせる。
後退し、戦闘モードにはいる。
「このっ……腰抜け剣士がァァァ!!」
銃持ちのくせに距離を取らず、まっすぐ突っ込んでくる。
自分の長所を捨てたか。
無意味な乱射は全て見切って躱す。
もう、十分だ。
予行練習にしようと思ったけど、鬼塚の実力に全く及んでいない。
相手の動きを読む。
足の動き、弾道、目線。
全てを予測して集中する。
《刀術・電光石火》
視界の端が歪み始める。
だが、今はまだ倒れるわけにはいかない。
俺は、肺が焼けるような呼吸を一つき、無理やり足を動かす。
地面を踏み込み、一直線に敵の眼中に迫る。
葛城は、俺の姿を認識することさえできずに斬られた。
殺しはしていない。
だが、骨の数本は砕かれてるはずだ。
しばらく動けないはず。
「鷹宮ー!どこだ?もう終わったしコイツら回収してとっとと帰るぞ」
俺が鷹宮に帰りの呼び掛けをした直後――
勝利の余韻が、一瞬だけ思考の歯車を狂わせた。
「カチリ」
鼓膜を突き刺す、冷徹な機械音。
地を這う葛城の手が、俺の足首を万力のように締め上げる。
そいつは、俺を見てニヤリと笑った。
「お前さえ……お前さえいなければ!」
その掌の中で、安全ピンを失った鉄塊が、死のカウントダウンを開始していた。
足首から伝わる狂信的な熱量。
「……っ、この土壇場で、自爆だと――!?」
主人公の挫折から立ち直り早くね?って思った方。この程度の挫折で終わらせるわけがないじゃないですか。




