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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第九十一話 『監房の出会い』

 洞窟の奥で下階段を発見。

 その光景を不思議に思う翔英だが、ちょっと考えたら納得した。


 ここはもともと、ゴアナ族が生活に使用していたという洞窟だ。

 だったら、彼らの手が入っていて階段が作られていても、特段おかしくはない。


 入口付近とは打って変わって、進むに十分な明かりがここにはある。

 その明かりは、下の階から強く出ているようだ。


 おそらくもう、ケバローはこの下に向かったのだろう。


 翔英は再び覚悟を決めると、慎重に辺りを警戒しながら階段を下りて行った。

 意外にも足元は頑丈だった。


 しかし、階段を下りた翔英にまた選択が迫る。


 さらに地下へと続く階段を発見。

 この階のスペースも大分広く、見つめた奥にはさっきと同じタイプの扉が見える。


 ケバローの気持ちになって考えてみよう。


 彼はなんのためにここに来たのか。

 そう、調査のためである。


 だったらきっと、奥へと進んでいくんじゃないか?


 雑だし根拠の薄い推論を立てた翔英は、また階段を下りて行った。


 「………ふう………」と、一息つく翔英。

 もう下に続く階段はない。


 どうやらこの階が、この洞窟の最下層のようだ。


 作りは上と同じ。

 電灯がついていて明るい広大なスペースを見渡せば、奥には例の扉が見える。


 あの奥の扉が怪しい。


 「早く合流しなければ」と思いながら、翔英はそそくさと扉に向かった。


 ガラガラと扉をスライドする翔英。

 奥のエリアに辿り着いた翔英は、その光景に絶句した。


 その扉の奥には、ギリギリ見える程度の明かりを持つ、さっきよりも広い空間があった。

 ただ、その内装はかなり異質だ。


 鉄格子で区切られた人一人暮らせる程度のサイズの部屋が点々と続いているものだった。


 そう、まるで『刑務所』のように。


 だが、その個室の中には誰もいない。なにもない。


 一番奥の個室まで、全部で十二の部屋がある。


 翔英の心臓はドンドンと音を上げていた。

 冷静に考えれば、この刑務所のような構造の部屋も、かつて使われていたものと考えるのが自然だ。


 しかし、翔英にそんな余裕はなかった。


 よく見たら一番奥の牢屋に、手錠に繋がれている人影が見えたからだ。

 ここからでは姿は確認できないが、明らかに人と思われる何かが、部屋の中の何かに両手をそれぞれ繋がれている。


 『なんだこれは』


 体中が震える。


 この洞窟には牢屋があり、しかもその中で人間が捕まっている。


 一瞬、「今すぐこの場から立ち去りたい」と考えた翔英だが、さすがに見て見ぬふりはできないと、奥の牢屋まで前進した。


 『女性』だった。


 両手を上で縛られながら、くたびれたようにぐったりと座り込む女性。

 その金髪は何日も手入れされていないのか、顔に似合わずボサボサになっている。

 当然、着ている衣服もボロボロだ。


 綺麗な状態であれば結構派手目のスタイルだが、汚れや埃で見る影もない。


 その女性は、翔英に気づいていないのか、それとも座ったまま眠りについているのか、目を瞑ったまま顔を上げようとはしない。


 翔英は、この状況とこの女性をどうすればいいのかについて少し考えた。


 冷静になってみれば、この状況は割と受け入れられるかもしれない。


 このエリアもまた、ゴアナ族が使っていた場所と見るのが有力だ。


 そしてその役割は今でも健在で、普通に刑務所として使用されているのでないか。


 場所が場所だけに最初は驚いてしまったが、こういうことならしっくりくる。


 ということは、閉じ込められているこの女性は何らかの罪を犯した『罪人』の可能性が高い。


 助けてあげたい気持ちもあるが、外野がいじれる問題ではなさそうなので、結局翔英はこの場を後にすることにした。


 さて、次はどうしようか。


 「(……ケバローさん、まだここには来てないっぽいな………くそっ……地下一階だったかな………ん? 待てよ。もしかしたら、ケバローさんの方からここに来るんじゃないか? ……いやでも、もう来た後ってことも考えられるか………いやいや、この状況でこの人を放っておくかな、ケバローさんは………)」


 腕を組みながらめちゃめちゃ頭を悩ませていると、横から声が聞こえてきた。


 「――――よう。なにやってんだお前。……いつもみたいにこねえのか?」


 急に話し掛けられ「おおっ!!」と情けない声を上げた翔英は、声が聞こえた方に視線を向ける。

 

 そこは牢屋。

 先の女性が顔を下に向けながら、ギラつかせた目だけをこちらに向けているのが見えた。


 「…………あ? …………あいつじゃねえのか。まだこんな奴がいたなんて知らなかったぜ。……まっ、誰が来たって同じだ。アタシの意思は変わらねえ……」


 錠で繋がれているとは思えない態度と若い女性とは思えない横暴な口調でしゃべるその女を、恐る恐る観察する翔英。

 彼女の立場ももちろんだが、言葉の意味もよくわからない。


 とりあえず鉄格子と手錠のおかげで襲われる心配はないと思われるので、会話をしてみた方がよさそうだ。


 しかしその前に、彼女は不敵な笑みを浮かべながら、牢屋越しの男に再び吠えた。


 「――――何してやがる? 来るならさっさと来いよ。どうせ意味ねえから、さっさと終わらせちまおうぜ。それとも飯の時間か? あの野郎はいねえみてえだが」


 「……いや……あの……ごめんなさい。……あなたが何を言っているのか全然わからなくて。……あの……もしよかったら、初めてここに来た人にも分かるように、説明していただけると嬉しいのですが………」


 「は? 何言ってるんだてめえ。わっけ分かんねえやつだな。じゃあお前は何者なんだよ」


 「……え……! ええっと、俺はショウエイ――――」


 彼女の圧に押され、弱腰で自己紹介を始めようとする翔英だが、その途中で声を出すのを中止した。

 その女も、また翔英に言葉をぶつけることはなく、視線を翔英に向けることもなく、ただ、入り口の方に目をやっていた。


 扉が開く音がしたからだ。


 そして誰かの足音がコツコツと近づいてくる。


 逃げ道はない。

 隠れる場所もない。

 翔英は高ぶる胸を鎮め、その足音を正面から迎えた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その同時刻。


 洞窟、地下一階。


 ケバロー・ホサルトン。


 「――――これは………!! ………………………やはりそうだと考えた方がよさそうだ……………」


 先んじて洞窟へと侵入していた彼が、重々しくそう呟いた。


 手には袋に入れられている小さな粒状の何かと、綺麗に折り畳まれた手紙を持っている。


 「(――――ジュンが心配だな。……すぐに戻った方がいいか…………いや、ジュンにはショウエイくんがついている。今頃目覚めているはずだ。――――リュノンがああ言っていたのだ。彼がいれば心配はいらない。………この辺りももう少し調べよう……)」


 ケバローは袋と手紙を腰のポケットに入れると、洞窟の中に作られた部屋の捜索を再開した。


 ――――彼が折りたたんでしまった手紙には、この世界の言語でこう書かれていた。


 『未来に託したり』


 と。

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