第六十四話 『五将悪』
『魔凰軍』
ラスドラーゴが率いる、聖鳳軍と敵対する魔物の勢力である。
前述のとおり、現在軍を統率しているのはラスドラーゴであり、四十年前の戦いに敗れ、一度は壊滅まで陥った軍を立て直したのも、このラスドラーゴである。
彼は、同じく四十年前の戦いで生き残った二体の魔物と共に、長い時を経て軍を復活させたのだった。
そのうちの一人は、『ファンドル』である。
ラスドラーゴやファンドルは、主にどこかの地下にある本拠地で活動しているが、その他にも、東西南北中央と五つの拠点が存在する。
その拠点のトップを任されているのが、新生・魔凰軍に新たに加わった五名の魔物だ。
彼らは各々私設軍と側近を持ち、自身の目的のため、基本的には自由に動いている。
時々、拠点同士あるいは本拠地から仕事を頼まれることもあるが、従わないことがほとんどで、各拠点同士の仲はよろしくない。
しかしラスドラーゴは彼らをひとまとめにして、『五将悪』と名付けている。
普通に絡みづらい『性悪』と自身の配下という意味の『掌握』から名付けているが、彼らにその意味は全く伝わっていない。
彼らの中には、一緒くたにされるのが受け入れられない者もいるだろう。
そんな五将悪だが、翔英は既に二人出会っている。
一人目は、ロッツ山にて出会った東拠点のトップである『レウラ』
もう一人は、中央拠点をまとめ上げる『ロジェ』である。
ロジェが他の奴らと一緒にまとめられているのが気になるかもしれないが、ラスドラーゴにとってはロジェも違う方向にぶっとんでいる、話しづらい奴なのだ。
そして、今回、翔英が戦っているジックルとデゼスポ。
二人ともそれぞれ、レウラとロジェの側近を務めている。
五将悪はそれぞれ、『副官』を一人置いているのだ。
言うならば、二人とも各拠点のNo.2だ。
そんな相手と、いつの間にか戦うことが出来るようになっていた翔英。
条件や相性がいい、使用している武器が強いといった理由はあるものの、運や武器を含めて本人の強さだ。
本人は気づいていないが、翔英はもはや三軍以上の実力はあると言っていいだろう。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――おりゃああ!!!!」
翔英のけたたましい掛け声とともに、彼の斬撃が炸裂する。
ジックルもそれを難なく受け止め、攻撃をお返しする。
高上ったやる気とは裏腹に、互いに敵の動きを睨み合う時間が続く。
翔英だけではなく、実はジックルの方も、慎重に戦況を進めるタイプなのだ。
「――――ジックル様っ!!! お待たせいたしました!!!」
すると、そこに新たな魔物たちが姿を現した。
なんとその数二十名。
彼らはジックルを追いかけ、こちらにやってきたようだ。
「(げ……なんだよあいつら………まだ来るの……? 何人来るの……?)」
現れた魔物の軍勢を目の当たりにして、ため息をこぼす翔英。
二十人全員が人外だったことも拍車を掛ける。
「おお、来たかお前たち。悪いが、少しだけそこで待っていてくれ。大事な仕事ができたのでな」
「あ、はい、了解いたしました。…………えっ!? あ、あなたは……ロジェ様!!? それに、あれは……デゼスポ様!!? い、一体何が!!!?」
雑兵たちは、傷ついたロジェとデゼスポに気づくと、モブキャラ特有のテンションで声を出した。
「――――やあ、君たちはレウラ軍の者たちだね。悪いけど、君たちに説明している暇はないんだ。ジックルの言う通り、ここでじっとしていてくれ」
ジックルと翔英の戦いを観戦していたロジェは、彼らに目を向け、そう答えた。
「…………分かりました。……ですが、その前に一つだけやらせてください。少しだけでも、あなたとデゼスポ様のお手当てを……!!! お願いします……!!」
「…………ふっ、あはははははっ!!! ……なんて真っすぐな目と言葉だよ。ジックルの指導の賜物なのかな。とてもあの……レウラの軍とは思えない。……分かった、君たちのその言葉に甘えよう」
兵隊たちは元気よく返事をすると、各々仕事を果たすべく動き始めた。
半分ほどは待機。
もう半分はさらに二手に分かれ、ジックルの家から簡単な医療器具を持ってくると、ロジェとデゼスポの手当てを開始する。
傷を刺激しないように、手当ては慎重に行われた。
「……ふっ、あいつらめ……」
ジックルは少し口元を緩めながら呟いた。
その指示を自らが出さなかったことは、重症を負った二人が、素人の手当てなどを受けたところで何も変わらないと分かっていたからだ。
だが、彼らを見たジックルは、部下たちが自らの意思で動くことができるようになっていたことに、内心喜びを感じていた。
「なあおっさん、あいつらなんなんだよ」
「ん? ああ、あいつらは我がレウラ軍のメンバーだ。といっても、率いているのはほとんど私だがな。貴様が戦った、ステップラーを覚えているか? 奴もその一人だった」
よく覚えている。
何も持っていなかった自分が、戦士としての一歩も踏み出せた。
ステップラーとの戦いは、そんな戦いだったと認識している。
レウラ軍にはステップラーの他にも、ハサミ、グーリュ、ルラールといった魔物がいたが、いずれもガロトやリュノンに倒されている。
また、ステップラー達四人は、レウラに貢ぎ物を捧げるためにロッツ山を訪れていたが、その任務が与えられるのは、レウラ軍の中でも上位四人だけである。
つまり今のレウラ軍は、上位陣がごっそり抜けて、滅茶苦茶弱体化していた。
「………ステップラーを殺したことは、恨んでないのか?」
「……ああ、奴は貴様との一対一の戦いで敗北したのだ。貴様を殺そうとしたのだから、貴様に殺されるのは仕方あるまい。そんなことで恨みはせん」
「ふーん。……レウラの部下なのに、ジックルって意外と話ができるやつなんだな」
「……くだらんことを言うな。まるでレウラ様は話が通じないみたいな言い草ではないか。あの人のことを何も知らないくせに」
「いや結構知ってるよ!! 俺ボコボコにされてっから!!」
「ふん……それは貴様があの人に傷を付けたからだろう。――――さあ、おしゃべりはここまでだ。本来ならば我がレウラ軍はこれから合同訓練の予定だったんだ。さっさと終わらせるっ!!!!」
ジックルが動いた。
再び鎌を振り、空間に裂け目を入れる。
またしても吸い寄せられる翔英。
さっきのように、武器を変化させて対応するつもりだ。
しかし、二度目はそうはいかない。
フェイントを入れることでタイミングをずらしたジックルは、翔英の肩から胸に掛けて傷をつけた。
痛みの声と共に、地面に転がる翔英。
ついに、この戦いで初めて翔英は攻撃をもらってしまった。
「食らうがいいっ!!!」
倒れ込んだ翔英の隙を見逃さず、腹目掛けて鎌を振り下ろすジックル。
翔英は急いで剣を腹に備えたが、わずかに間に合わない。
『これはヤバいかも』
翔英は、瞬間的に思った。
――――キンッ。
金属同士がぶつかる音が響く。
翔英の腹は守られていた。
何者かが投げつけた、日本刀によって。
一瞬の動揺を見せたジックルはもう一度鎌を振る。
しかし、今度は翔英との間に割って入った男によって、その攻撃は防がれた。
「――――やれやれ……大変なことになっていたみたいだ……」
黒髪を束ね、ワイルドな髭を蓄えたその男はジックルを弾き飛ばすと、投げつけていた刀を拾った。
その男の顔を見て安堵した翔英は、ゆっくりと身体を起こす。
「……助かった……来るの遅いっすよ、まじで………」
「いやー本当にすまない。返す言葉もないよ。……だから、謝罪はこれからの行動でさせてくれ……」
現れたのは、オー・ラッセ。




