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第六十二話 『過去の因縁』

 「――――だ、誰だっ!! 新手か!?」


 ロジェへの攻撃を受け止め、翔英を弾き飛ばしたその男。

 

 オールバックに口ひげを蓄えた、隻眼の中年男性のような見た目だ。

 背中には黒い翼。

 右手には、巨大な『鎌』を持っている。

 比較的人間に近い容姿をしているが、その眼力からはただならぬ威圧感を感じさせる。


 「誰だも何も、状況を聞きたいのは私の方だ。一体、何がどうなっているのですか…………若様」


 倒れている魔物一人と人間一人、疲れ果てた様子で座り込むロジェを確認すると、彼はロジェを「若様」と呼び、そう問うた。


 「ありがとうジックル、そろそろ来てくれると思っていたよ。あ、そうそう、悪いけど、ここちょっと借りてるから」


 「いえいえ、若様であれば、ご自由に使っていただいても構いませんよ。…………いや、そんなことより、ここで何をされていたんです!? それに、あなたともあろうお方が、なぜそんな姿になっているのですか!? ……まさか、この男に……?」


 「そう、そのまさかだよ。――――僕たちは、そこの彼が持っている鍵を奪えという父の命で来たんだ。でも、色々あって、僕たちは負けた。そこの彼と、向こうに倒れている女の子の二人ね。そんなところにジックル、君が来てくれたんだ」


 「……なんと……」


 ジックルと呼ばれたその魔物は、横たわるデゼスポ、剣を構えながら警戒する翔英に目を向けると、静かに天を仰いだ。

 そして、ジックルは翔英を無視し、後ろで倒れ込んでいるデゼスポのもとへと向かった。


 「……ようやく来やがったか………ジックル…………もう少しで、俺だけでなく、坊ちゃんも……殺られるとこだったじゃねえか……」


 デゼスポは致命傷を負っているものの、なんとかその肉体を保っていた。

 だが、このままでは命尽きるのも時間の問題だろう。


 「バカを言うな。若様をお守りするのは、『貴様の』使命であろう。それなのに、あんなわけもわからん小僧にこの様とはなんとも情けない。この私と競い合ってきた男とはとても思えぬ醜態だな」


 「う……うるせえよ………ちょっとしくじっただけだ…………本来なら、俺がこんな奴に負けるはずがない………」


 「言い訳ならあとで聞いてやる。ここは私がやる。貴様はただ私を見上げているがいい」


 ジックルは再び、ロジェの元へと戻る。


 そんなジックルを見たデゼスポは、とても死にかけだとは思えない笑みを浮かべながら、


 「へっ……だから、うるせえってんだよ……ボケ………」

 

 と、呟いた。

 

 翔英の警戒網をすり抜けたジックルは、さっきの続きをとロジェに話しかける。


 「若様……私は、何か嫌な予感がしていたのです。その予感は当たってしまっていたようですね。……部下たちを置いて、一足先に帰ってきたのは正解でした…………あの男から、鍵を奪えばよろしいのですね!? ここは私にお任せを……!!!!」


 鎌を構えて、戦闘態勢へ入るジックル。

 仲間たちを傷つけられた痛みを翔英にぶつけようと。


 「ああ、頼むよ、ジックル。でも、ショウエイは強い……お前なら負けないと思うけど、油断するな……」


 「御意!!!」


 ジックルは最初の一歩で、翔英との距離を一気に近づけた。

 彼の表情は怒りに満ちている。


 「小僧……よくもやってくれたな………生きて帰ることはできんと思え……!!」


 「くそ……もう終わりだと思ってたのに……!! ……よしっ!! ここまで来たら、最後までやってやるっ!! 来やがれおっさん!!!」


 まずはジックルが仕掛ける。

 彼の武器は死神のような変幻自在の鎌。

 翔英の首を狩ろうと鎌を振りまわす。


 翔英は殺気を読み切り一撃目を躱すと、ジックルの胸に一太刀入れる。

 ジックルが驚いた隙を突いて、さらに突きを喰らわせた。


 「……なるほど。若様が油断するなと仰るわけがわかった。……貴様、名は何という?」


 「ショウエイ……キスギ。……あんたは?」


 「私はジックル。……そうか、ショウエイというのか。……ショウエイ、信じがたいが、貴様がデゼスポに重症を負わせたこと。今の貴様の動きを見て、全く不可能ではないと思ったよ。若様に勝てるとはとても思えんがな……」


 そう言うと、ジックルは何を思ったか、野球のバッターのように鎌を構えた。

 そのポーズから危険な香りを感じとる翔英。 


 「だから貴様にはこいつを使う必要があると判断した!!! これで、一気に片をつけてやる!!!」


 気合いの叫びと共に、鎌をフルスイングするジックル。

 すると、なんと鎌が通った空間が切り裂かれた。


 その切り裂かれた箇所へと吸い寄せられる翔英。

 強風で物が飛ばさせるように、物体が重力に引き付けられるように、ジックルの元へと引き寄せられる。


 「もらったっ!!!」


 引き寄せられた翔英の胸に向けて、鎌を振るうジックル。

 瞬間、翔英は動いた。


 咄嗟に剣の形を大剣へと変化させたことで、狙われた部分を剣で受け止めることに成功する。

 すぐさま距離を取る翔英。

 ジックルが開いた裂け目は、いつの間にか元に戻っている。


 「な、なんだと!! ……おかしな武器をつかうやつだ」


 すぐに扱い慣れていない大剣を元のサイズに戻し、再びジックルに戦意を向ける。

 そして、先の能力を見た翔英は、ある記憶を呼び覚ました。


 「……思い出した、今の技。あんた、この前の任務の時の魔物だな!! ……ああ、そうだこの顔だ……なんで忘れてたんだ、俺……!!」


 「は……? 貴様は私とどこかで会っていたというのか? 一戦交えた者を私が忘れるはずないのだが」


 「まあ確かに一戦交えたとは言えないけど……あの時だよあの時……!! ロッツ山の……!!」


 「…………はっ!! そうか貴様、あの時の……!! ステップラーを殺した小僧か……!!」


 そう、翔英とジックルは一度出会っていた。

 もう随分前の出来事だが、翔英が初めて調査にあたった時のこと。

 リュノンと共に魔物を追って入った洞窟の中で、二人は邂逅した。


 もともとそんなに関わってはいないが、翔英にとってあの日のことは苦い記憶のため、思い出すのに時間がかかったのかもしれない。


 「やっとわかったか……!! どうやら、実は再会だったみたいだな……!!」


 「……ということは貴様が……!! ……確か黒髪の男……あの場に黒髪は貴様一人だった…………ふっふっふっふっ、はっはっはっはっはっ!!! そうか、貴様がそうだったのだな……!!!」


 突然何かを思い出し、笑い始めるジックル。

 驚いた翔英は、当然ジックルに聞いた。


 「な……なに? そんなに嬉しいのか……? 俺にまた会えたことが」


 自分でも何を言っているのかという感じだが、本当にそうだった。

 俺だと分かった瞬間にこの笑い様だ。


 「そうだ。嬉しいんだ。貴様に会えたことがな。私はお前を探していた」


 「えっ!? 何で!? …………何で!? 何で急に!?」


 翔英の方はこれっぽっちも会いたくなかった。

 

 ジックルが翔英を探していたわけは、彼が仕えているある魔物の存在にある。


 「――――私の任務が一つ増えたようだ。お前を私が働いている東拠点へと連れていく。さあ、さっさと終わらそう。この戦いを」


 「いやいや、ちょっと待って!? そんなことする意味全然わかんないから、理由だけでも教えてください!!!」


 「……まあ、いいだろう。知ったところで意味はない。私が長年仕えているお方が貴様に会いたがっているのだ。貴様にはひどく傷つけられたため、その恩返しがしたいとな」


 「傷つけた? 俺が? …………まさか……」


 「そうだ!! わが主、『レウラ様』だ……!!」


 過去の因縁、再び。 

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