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第四話 『一休み』

 「――――ここは?」


 あの魔物との戦いから丸一日以上立ったころ、翔英は目を覚ました。

 見慣れない真っ白い天井が映る。

 ベッドに寝ていたのを理解した翔英は、寝転がりながら辺りを見回す。

 どうやらここは、どこかの建物の中のようだ。


 右側には空きベッド。

 左側には窓が見える。


 「――――あれ、剣、元に戻ってる……」


 「――――あっショウエイさん!! よかった、目が覚めたんですね」


 ベッドから起き上がり、首元を確認していた翔英に近くに座っていたルンベが声を掛けた。

 記憶ではかなりの重症を負っていたはずだが、いつの間にかすっかり元気そうだ。


 「おールンベ、なんか久しぶりだな――――あっ、ミネカは!? 無事なのか!?」


 「大丈夫ですよ、ミネカさんならもう意識を取り戻して、今は奥の部屋でゆっくりしています」


 「よかったあ~~」


 本気でほっとした様子の翔英。

 自分を救ってくれた彼女に今すぐにお礼がいいたい。


 「……なあルンべ、ミネカのところに行ってもいいかな?」


 「もちろんですよ。もともとあなたが目を覚ましたら、部屋に来るように言われてましたので」


 「ん? ミネカにか?」


 「いえ、ヒナノさんという僕たちを助けてくださった方です」



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――ミネカ!」


 奥の部屋へと案内された翔英はまず目に映った少女の名前を呼び、椅子に座っている彼女に近づいて行った。

 自分でも分かるくらい満面の笑みで。

 

 「あら、ショウエイさん!」と、翔英に気づいたミネカはこちらに目を向け、安堵した様子で言葉を掛ける。


 何気に名前を呼ばれたのは初めてな気がするので、またまた喜びが溢れてくる。

 

 「よかったですわ。お目覚めになられて!!」


 「おう、ありがとう!! ミネカのおかげだよ!!」

 

 またこの心まで美しい少女と話せたことにまずは感動だ。

 昨日のあの戦いは、この時間のために乗り越えたといってもいい。


 「――――目が覚めたのね、おはよう、ショウエイ・キスギくん」


 翔英に声を掛けたこの人物。

 最初からミネカと向かい合う形で座っていたが、ミネカに会えた喜びに視野を奪われていた翔英は、全く意識していなかった。


 どうやら、ミネカは先ほどまでこの人と話していたようだった。

 

 茶髪のセミロングに碧眼の瞳、赤いロングのワンピースに桃色のジャケットを着用しており、上品で大人締めな印象を受ける女性だ。

 容姿はツンとした感じのミネカに負けず劣らずの美人で、翔英とほぼ同い年、いや、若干彼女の方が上だという風に見受けられる。


 「――――私は、ヒナノ・スエリア。だいたい話は、ミネカとルンベから聞いたわ。あなたの力もあって、魔物を倒すことができたって。私からもお礼を言っておくね」


 「この人がそうか」と、翔英は頭を軽く下げて挨拶する。

 さっきルンべから少し話を聞いていた人物だ。 

 その言葉は柔らかい。

 見た目よりも、全然親しみやすそうだ。

 

 「あ、いえ! ……俺は最後に少しやっただけで、勝てたのはほとんど、二人のおかげです。それにさっき、ルンベからあなたに助けてもらったと聞いて……こちらこそありがとうございます」


 お礼の言葉にヒナノは頷くと、彼らを助け出した時のことについて話し始めた。


 ルンベは魔物との戦闘後、本部に緊急要請を送っており、それを受けたヒナノが戦場に駆け付けた。 

 そのまま、近くの町まで三人を運び、回復魔法で治療をしたという流れだ。

 

 「はあ。魔物の力がこんなに上がっていたなんて……こちらの読みも甘かったわね……」


 「ええ。ショウエイさんがいなかったらどうなっていたか。それにあの魔物が変身に使っていたあれ……気になることは多いですね」


 翔英の後ろからひょこッと現れたルンべ。

 手には椅子を持っており、ヒナノの隣に座り出した。


 「ショウエイさんも、そこに椅子を置いておいたのでよかったら座ってください」


 「え、ああ。ありがとうございます」


 気配り上手。

  

 翔英もミネカの隣に椅子を置き、腰を下ろした。

 

 「……でも、これからは調査には一軍が同行した方がいいかもね……こんなことであなたたちに万が一のことがあったら最悪だわ。今回の件で見直すように進言してみる」


 「……二軍でもいいんじゃないでしょうか? 戦った感じだと、先の魔物も二軍以上であれば、問題ないと思われますが」


 「……もしかしたら、そいつよりもヤバいのが出てくるかもしれないじゃない。一番大事なのは、死なないことよ」


 「……そうですね……」


 ルンべとヒナノの会話が続く。

 ミネカは頷いてはいるが、声は出さずに真剣な表情で話を聞いている。

 翔英も適当に頷いているが、全然話にはついていけてない。


 一瞬の沈黙。


 このタイミングを逃すまいと、翔英は声を上げた。


 「………あ、あの……!! すいません。『一軍二軍』ってなんですか?」


 こういうときに話題を振るときは、質問が無難だと彼は心得ていた。


 「聖鳳軍は、一から五の五つの階級に分かれているの」


 「なるほど。一番上が一軍てことですか! ……じゃあお三方はおいくつなんですか?」


 「僕は三軍ですよ。この中では一番下です。それから、ミネカさんは二軍で、ヒナノさんは一軍です」


 「ミネカ二軍!? 五段階で!? めちゃくちゃすごいじゃん!!………すごいよね……?」


 「もちろん、二軍は七人しかいませんから」


 「えっ!」と、最初は声を上げたものの、少し考えればそんなに驚くことじゃない。 

 

 これまでのミネカの働きを間近で見ていた翔英は、彼女の存在がなければ、確実に死んでいたこともあり、この事実に強く納得した。


 なんならミネカの先輩ぽかったルンべの階級の方が驚きだ。


 「昇格したのは、ほんの最近ですわ。まだまだ実力が足りませんので、もっと腕を磨きませんと」


 「でも、十八で二軍昇格は本当にすごいわ。師匠の腕がいいのもあるけどね」


 謙遜するミネカに対して、一軍のヒナノが声を掛ける。

 もっともミネカの能力を開花させた師はヒナノ本人であり、若干の自慢も含まれていたのだが、翔英に伝わることはなかった。

 

 ちなみに、ヒナノが一軍に昇格したのは十七の時である。


 そんなことは存じ上げない翔英は、しれっとミネカの年齢が開示されたことの方に注目する。


 すっかり聖鳳軍に興味がわいた翔英は、「じゃあ一軍はどれぐらい凄いんですか!?」と、今度はその上について聞いてみた。


 「彼らは本当にすごい人たちですよ! 一つ階級が違うだけでレベルは全く違いますが、一軍の六人の方々はまさに、国が誇る最高戦力です。聖鳳軍に所属している者、目指している者は皆、彼らに憧れ、鍛錬に励んでいるんです!」


 熱が入ったルンベの解説で十二分に凄さが伝わり、その一人に名を連ねるヒナノに目を向けた翔英。

 その当人は、誇らしげな顔で嬉しそうに首を縦に振っていた。


 「――――さて、ケガもよくなったようだし、ショウエイ君と話すこともできたし、そろそろ私たちは都市に戻ろうかな」

 

 話がひと段落したところでヒナノは立ち上がり帰還を切り出す。


 二人の戦士も頷き、この町を出る準備に取り掛かろうとする。

 そんな様子を見ていた翔英は、自身の今後について考えていた。


 ――――そして決断する。


 「あの、俺も一緒についてっていいですか!? 俺、特に行くところもなくて……」


 「あれ? ショウエイさんって旅をされていたんじゃないんですか?」と、首だけこっちに向けながら、ルンベが翔英に質問を返す。


 「覚えてたか……」とか思いながら、翔英は必死に理由を考えながら述べた。


 「さっきはそう言ったんだけどさ、実は住むところを探すために旅に出てたんだよ。この辺にいい感じの家ないかなって。だから、ミネカたちに着いていけば、俺の目的も達成できるかもしれないからさ。本部って都市にあるんでしょ?」


 「……なるほど。そういうことなら、一緒に行きましょう。あなたなら、僕たちも大歓迎です」


 「住めるところでしたら、私に心当たりがありますわ。都市に着きましたら、ご案内いたします」


 「おお! 何から何までありがとうミネカ!!」


 ――――ということで、翔英が次に向かう場所が無事に決まったのだった。


 部屋を貸してくれた町の人にお礼を言った後、翔英、ミネカ、ルンベ、ヒナノの四人は町を後にした。

 帰りの足は、ミネカとルンベが調査に向かう際に乗ってきており、この町に預けていた馬車を使うこととなった。

 中央都市までは、約半刻ほどかかるらしく、その間に翔英はミネカやヒナノと親交を深めた。

 ルンベは馬車を操縦していたため、話す機会がなかったが。

 

 ヒナノは都市から戦闘が起こった場所まで、魔法で飛んできたとのことだった。

 飛んで移動すればすぐに着くのだが、三人が負傷明けということもあり、万が一のことを考えて帰りは同伴することにしたようだ。

 

 三十分の間彼らが話した内容は、八割程度はヒナノの自慢話だった。

 だが、その話は退屈するようなものではなく、むしろ興味が惹かれるものであった。

 まずはヒナノがミネカの師であることに驚き、そこからも『二十以上の新たな魔法を開発した』『その半分は伝授させた』『二十二歳にして魔法学校の校長を務めている」など、ヒナノのエピソードには退屈しない。

 

 ミネカがヒナノのことを恩人のように慕っている様子で語っていたこともあり、翔英の関心は最高点に上り、時間はあっという間に過ぎて行った。


 ――――そして、一時間が過ぎた頃、一行は中央都市へと到着したのだった。



  








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