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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第一章
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第三話 『始まり』

 彼、来生翔英は、世界中どこにでもいる、ごく普通の人間だった。

 

 学校に通い、勉学に励み、部活動に励み、友人と遊ぶ。

 そんな普通の生活を送っていた彼は、一度『死』を経験したことで、それよりも『やらない後悔』を恐れるようになっていた。

 

 こちらの世界に飛ばされて孤独な思いをしていた時に、初めて訪れた「繋がり」

 そのきっかけを何もできずに目の前で無くすことは、何より恐ろしい、強い呪縛となってしまうだろう。

 彼の心は、動かずにはいられなかった。

 もう一度なくした命だ。

 たとえ命の危険に遭おうとも、立ち向かう勇気を選んだ。

 

 『やって後悔』する方を選んだ。

 

 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 「――――その()から手を放しやがれこの鳥野郎!!」


 こちらに反応した未知なる魔物と目が合う。 

 初めて奴が己を認識した。 

 汗が止まらない。けど、蛇に睨まれた蛙とは言わせない。

 翔英は目をそらさず、自らに注意を引き付けようと睨みつけた。

 

 「……なんだアンタ。後で遊んでやるからおとなしく待っててよ」


 翔英の挑発を全く気にすることなく、魔物はミネカにトドメをさそうとする。

 彼女の首に、異形の爪が牙を剥いた。


 「――――く、くそーーー!!」


 眼前の化物目掛けて特攻する翔英。

 だが、奴の翼から強烈な一撃。

 彼は吹き飛んでしまう。


 しかし、翔英が攻撃をもらったのとほぼ同時に、魔物もミネカから手を放し、吹っ飛ばされていた。


 ミネカとともにこの地を訪れた少年、ルンべ・ランが立ち上がり、蹴りを食らわせていたのだ。


 ルンベは再び、強化された魔物に果敢に立ち向かっていく。



 一方、翔英はまともに攻撃を受けたにも関わらず、致命傷を免れていた。

 

 「……めちゃくちゃ痛えけど、あいつの攻撃を貰っちまったのに、まだ生きてる……! ……俺ってこんな頑丈だったのか……? ……それとも、転生した結果与えられた加護ってやつか……? ――――いや、まさか……!」


 そう、翔英の予想は的中していた。


 ミネカ・ベルギア。

 攻撃を受ける瞬間、彼女が翔英に盾を張っていたのだ。

 弱っていたためノーダメージとはいかなかったが、それでも青年の命を救っていたのは明らかだった。


 「(……なんでだよ……! 自分はそんなにボロボロなのに、なんで会ったばっかの他人のことまで助けようとしてるんだ……!)」


 未知の攻撃を受けたことによる体の痛み。

 彼女に守られるばかりで、助けることができない己自身への苛立ち。

 そんな苦しむ翔英から、体の痛みが突然和らいだ。

 

 ミネカの力だと彼は感じ取った。


 「……ミネカ……!」


 翔英は涙をこぼした。

 何もできない自分。

 異界の地へと飛ばされ、戦いに巻き込まれた残酷さ。

 そして、なおも自分を助けようとしているミネカに対して。



 「――――おい頼む……!!! 俺に……俺に力をくれ……!! ……今……今やらなきゃダメなんだよ!!!」


 彼は願った。

 彼は祈った。 


 彼は自分が今、この世界にやって来たのは、本来いるはずのない自分がここにいるのは、目の前の危機から『ミネカを助けるため』だと確信した。

 


 その時。


 翔英が下げていたネックレスの赤い宝石が眩い輝きに包まれ始めた。


 「……これは……?」


 翔英が宝石を手にした刹那、その宝石は赤く光る『剣』へと変形していた。


 「なんだこれ……剣? ……そうか……神様……俺に護る力をくれたのか……」


 「――――よし、待ってろ、絶対助けるから……!」


 武器を手にした翔英は覚悟を決め、倒すべき敵へと向かっていった。


 一方、魔物と対峙するルンベも、敵の攻撃を抑えるので手一杯な状態であり、肉体の限界も刻一刻と近づいていた。


 「ったく、三軍相手にこんなに苦労するとは思わんかったぜ、全くとんでもない小僧だな……だけど、そろそろ限界みたいだね」


 「……ここまでか……」


 魔物はルンベの首を絞め、思い切り叩きつけようとする。


 二人の戦いに決着が着きようとしていたその時、魔物の背後から剣を振り下ろしている男の姿があった。


 「なっ!?」と反応する魔物の視界に、眼中になかったはずのモブの顔が映る。


 「(くそ! バレたか! だけどここまで近づけば!!)


 突然向けられた鋭い殺気に感づき、後ろを振り返る魔物。

 だが、敵の回避より早く、剣は背中の翼を斬り裂いていた。


 「ぐわあああ!!」と、思わぬ刺客からの不意の一撃に倒れ、悶えるような叫びを上げる。


 「やった……!!」


 凄い切れ味。

 それに完全に腕にフィットしている。

  

 『これなら戦える』

 

 完全に隙を突いたとはいえ、強大な敵に有効打を与えた手ごたえを感じる翔英。


 ルンベもまた、意外な助っ人の登場に驚くと同時に、心の中で彼に賛辞を贈った。

 もっとも、ミネカを助けるために命がけで吠える彼の姿を見ていた時点で、翔英に敬意を表していたのだが。



 「こ、この野郎……!!ただ叫んでるだけだと思っていたが、そんな武器を隠してたのか!」


  翼をもがれた怪物は、再び立ち上がってきた。


 「くそっ……踏み込みが甘かったか……どこかでまだ、びびってたっていうのか……!……それとも「やった」とか言っちまったからか……!? ……でも……!!!」


 一撃で決めたかった。

 だが彼は、望みを捨てることはない。

 

 『最後まで戦う』

 

 それが、この世界に来て、彼が辿り着いた答えだったからだ。


 手が震える。汗が噴き出る。

 しかし、下を向くことだけはしなかった。


 「一撃で決められなかったのは残念だったね……その剣、なかなか良い武器じゃないの。このジャイのだ~いじな翼を持ってったんだから」


 言葉遣いはいつも通りだが、その口調から明らかに苛立ち募らせているジャイと名乗った魔物は、翔英の首に鋭い爪を向けた。


 対する翔英も勇敢に剣を構え、襲い来る魔物を迎え撃とうとする。


 「――――来いっ!!」


 だが次の瞬間、魔物の動きが突如として止まったのだった。


 「おいおい! まだそんな力が残ってるってのかよ!!」


 三度立ち上がったルンベが背後から体を掴み、敵を抑えていたのだ。


 「今だ!! ショウエイ・キスギ!! ――――僕もろともでもいい! こいつを倒してくれ!!」


 「え……!? く……くそっ!! わかった……!!!」


 命を懸けた戦いは、悩む時間を与えてはくれない。 


 ボロボロの身体で必死の叫びを上げる彼の意思を無視することは、何よりも『侮辱』となるだろう。

  

 訪れた最後のチャンスを絶対に捉えるべく、そして、ルンベの決死の覚悟を無駄にせぬためにも、翔英は敵に刃を振り下ろした。


 「うおらああああ!!!」


 「ちょ、ちょっと、ま、待ってくれーーー!!!」



 一閃。


 振り下ろした剣は、邪悪なる魔物の肉体を完全に捉え、見事に真っ二つにしていた。


 「――――ま、まじか……俺がこんなところでやられちまうなんて……まだヤりたいこといっぱいあったのに……」


 二つに分離された身体が地面に倒れた。

 その数秒後、魔物の肉体は跡形もなく消滅していく。

 苦しみながらもついに、彼らは勝利を手にしたのだった。


 「や、やった……! 今度こそ……!!」


 思ってもみなかった、自分の手で敵を倒すことができたことに喜びを滲ませる翔英。


 「す、すごい……!! 本当にあの魔物を倒すとは……」


 共闘した戦士、ルンベが傷を負っている体を引きずりながらこちらに歩いてきた。

 腕をかなり負傷しているようだが、歩く元気くらいは残っていた。


 「ルンべ……!! よかった。無事だったのか……!!」


 翔英は安心したのと同時に少し驚きを見せた。


 敵を確実に倒すために、いや、そんな余裕はなかったと言った方が正確だろう。

 翔英は背後のルンべごと斬る勢いで剣を振っていた。

 しかし、斬られていたのは魔物のジャイのみで、ルンべには少しも傷がついていなかったからだ。


 「(偶然か……? それとも、剣の力のおかげかな。魔物だけを捉えるのか、それとも、斬りたいものだけを斬れる剣なのか……)」


 どちらにしろ、この力はこの世界で生き抜くための力だと、彼は思った。


 「そうだミネカ……!! 今行くよ――――」」


 ミネカの方に歩き出そうとしたその時、緊張や戦いの疲れからか、電池が切れたようにその場に倒れ込んでしまった。


 それと同時に、なんと翔英が振るっていた剣も元の宝石に戻ったのだった。

 

 

 ――――この不思議な宝石の力は一体何なのか、その真実を彼が知るのはずっと先の話だ。



 一方、同じく強大な敵を相手にし続けていたルンベ・ランも膝をつき、そのまま気を失ってしまった。


 ――――しかし、彼らは勝った。勝ったのだ。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 突如として別の世界に飛ばされてしまった、平凡だった青年・来生翔英。


 ――――彼の「最初の戦い」はこうして終わった。

 

 ――――そして、これから彼に待ち受ける数々の物語はこうして始まるのだった。





 



















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