第三百三十四話 『行き先』
「――――はっ……!!」
「あっ……!! ……もう目が覚めたのですね……!!」
数分眠っていたロジェ。
起きて最初に映るのは、ミネカの顔。
肉体にはかなりの負担が掛かっていたのに、昼寝にも満たない時間でお目覚めとは。
さすがは、ロジェ。
「ショウエイ……!! ……ミネカ……!! そうか……僕としたことが、気を失っていたなんて……」
「ありがとな、ロジェ。お前のおかげもあって、こうしてミネカが帰ってきた。ありがとう、本当に」
「……礼を言うのはこっちの方だよ。……治療もしてくれたんでしょ? 僕のこと」
身体中の痺れが消えている。
ジャーザンスに付けられた傷もだ。
「……はい。ショウエイさんが、あなたを信じていますので。ショウエイさんが信じる人は、私も信じます。……それに、私もあなたの姿を見ていましたし」
「……ミネカ……」
「だから、過去のことは忘れますわ。これからよろしくお願い致します。ロジェさん」
ミネカの言葉に棘はない。
人ではない自分を、彼女は心から認めてくれている。
翔英と最も親しいのも納得だ。
「…………ありがとう……」
彼女の優しさに触れ、ロジェは涙を流した。
人間の物と何も変わらない、綺麗な涙だ。
翔英とミネカは顔を合わせ、朗らかな表情で強く頷いた。
「……ごめんよ。みっともないものを見せてしまって。……そういえばミネカ、意識が戻らないって聞いたけど、大丈夫だったんだね」
「……はい。おそらく、ジャーザンスさんが入ったことで、私の眠っていた意識を呼び起こしたのだと思います。彼に与えられた力も、私の身体には残っていますから」
「……そうか。それは……複雑だね……。…………それで、ショウエイ、ミネカ、これからどうするの?」
「勿論、向こうに帰るよ。……っていうか、俺たちじゃ帰り方分からないから、ここでお前が起きるの待ってたんだ。こんなに早く起きてくれるとは思わなかったけどね」
「そうか……。……なら、ショウエイにはさっきも言ったけど、君たちの町まで歩いていくのは現実的じゃない。だから、ファンドルを探すよ」
「ああ……例のどこでもドアか。よし、わかった。じゃあ行こう」
ロジェも復活したところで、ジャーザンスの隠れ家を後にする翔英たち。
とりあえず、ロジェが最後にファンドルと話した場所まで彼の案内の元、向かっていく。
「……そういえば、向こうはどうなってるんだろ……」
その道中、肝心すぎる事を思い出す翔英。
攻めてきたレウラを倒してそのままこっちにやってきたわけだが、中央都市にはレウラ以外にも強い邪気が有った。
あの時はミネカの事を一番に考えていたが、彼女が戻ってきた今、皆のことも心配になってくる。
リュノンは、ヒナノさんは、ティローナさんは、レランカさんは、ソルは、ルンベは、無事なのだろうか。
「……おそらく、もう決着はついていると思う。聖鳳軍の勝利という結果でね……」
「……!! なんでそう思うんだ……? ロジェ」
「誰も戻ってこないからさ。ラスドラーゴ達が戻ってくれば、僕に感覚が伝わってくる。……でも、それは感じない。彼らが戻ってくる場所はそんなに遠くないから、この距離なら絶対に分かるよ」
「……戦いが長引いてるって可能性は……?」
「なくはない。でも、ラスドラーゴ達が敗けたって思える理由はもう一つある。……僕の父、魔王ザラボラスが戦っていることだ」
「……!! ザラボラスって……あの……!!?」
翔英とミネカに衝撃走る。
ミネカは当然知っているが、翔英も最近本で読んだばっかだ。
「最強の魔物」だと、称されていた。
「うん。この間復活したんだ。今まさに、誰かと戦っている。相手は多分、ラスドラーゴ達を倒した人間。だから僕は、彼らは負けたって思う」
「……今……!? 聖鳳軍の誰かと戦ってるのか……!? ……どこで……!?」
「本部から少し離れた所だよ。最初に感じたのは地下だったけど、今は場所が変わっている」
「…………っ……!!」
誰だ。
歴史の本越しでも強さが頭に来るほど伝わってきた魔物と戦っているのは。
そんな奴と戦ったら、どうなってしまうんだ。
「……ショウエイさん……」
歯を食い縛りながら歩みを止めた翔英を、心配そうに見つめるミネカ。
と、同時に、喉から出てくる言葉を必死に飲み込んでいる。
「……ショウエイ?」
「……ロジェ。そこまで案内してくれ」
だがその言葉は、翔英が先に口に出した。
彼ならばそう言うと思っていたが、口に出して欲しくはなかった。
せっかくまた会えたのに、こんなにもすぐに戦場に戻らなければいけないなんて。
もっと話したいのに。まだまだ話したりないのに。
でも、仲間を置いていくこともできない。
何よりそれを翔英にして欲しくない。
自分だって助けに行きたい。
大切な人たちだから。
矛盾した気持ちを抑えるミネカ。
何が最適解なのか考える。
だがその前に、ロジェが口を開いた。
「……!! ダメだ……!! 君たちは帰るべきだ……!!」
「それじゃあ……今魔王と戦ってる人はどうなるんだ……!! 失いたくない人かもしれない……。これから失いたくない人になる人かもしれない……。俺は助けに行きたい……!! 勿論戦うつもりはないけど……このまま帰るなんて……!! それに魔王が勝てば、いずれ俺たちの町にも……!!」
「……はっきり言おう。君が行ってもどうにもならない……」
「……だからって……このまま帰るのは寝覚めが悪いよ……」
「……ああ、それは分かってる。だから、君たちを送った後、僕が戦いに行く」
「……!! ロジェが……!? どうして……!!」
「魔物と人間の戦いは僕が終わらせる。父を説得できれば、或いは倒すことができれば、この戦いは終結する。その役目は、僕が務める」
「……ロジェ…………」
元々ファンドルの力で二人を送った後は、父の元へ行くことを決めていた。
翔英に敗れた時から、ずっと決めていたことだ。
「漸く解放されたんだ。君たちは二人で待っていてくれ。必ず、やり遂げてみせるから」
「…………分かった。……でも、俺も行く」
「ええっ……!? 何が分かったのそれ……!!」
「魔王はロジェに任せる。俺はただ、やれることがないか見に行くだけだ。流石にちょっとは時間が貰えるだろ……」
「ショウエイ……」
「……でしたら、私も行きますわ。私は、ショウエイさんについていくと決めていますので」
「ミネカも……。…………しょうがない。分かったよ。でも、危険に突っ込むことは許可しない。君たちは僕が護るからね」
「ロジェ……。ありがとう……!!」
ザラボラスと戦闘になった場合。
自分が足止めすることを決めるロジェ。
二人の同行を認めた。
と言うことで、目的地変更。
魔王の戦場へと、向かっていく。




