第二百九十七話 『背負う』
「……あれは…………ヴァナベールさん……!!」
ラスドラーゴとの戦いにより重傷を負っていたヴァナベール。
思うように動けないで横たわっていたが、彼の元に駆け付ける男がいた。
リュノン・アーリーだ。
ミワルナ戦を乗り越えたリュノン。
残り一つの大きな邪気の元へ向かってきていた。
「大丈夫ですか!? ヴァナベールさん!!」
倒れる老人に手を置くリュノン。
まだ生きていることを確認し、すぐに応急措置に入る。
近くに敵はいないことから、ヴァナベールが勝利したことも分かった。
「……おお……リュノンちゃんか……。助かるわい……」
「ヴァナベールさん……!! 少し待ってて下さい……!! とりあえず、できるだけ治します……!!!」
回復は得意分野ではないリュノンだが、この状況では自分がやるしかない。
胸に空いた穴。
少なくともこれだけは治さなくては。
懸命なリュノンの治療。
ヴァナベールの驚異的な肉体。
それらが合わさり、みるみる内に回復していく。
だが、それでも、戦闘可能な状態にまでは持っていけない。
あくまで応急措置にしかならない。
「……ありがとうリュノンちゃん。……だがまだ、戦いは終わっておらん……」
「え……!? まだいるんですか……!? 魔物の気配はもう感じられませんが……」
「まだ一番ヤバイのが残ってるらしい。いつ攻めてくるか分からない。準備をしなくては」
「……!! ヴァナベールさん……!! すみませんが、俺の力じゃ全然治せません……!! 今のの状態じゃ戦いなんて無理だ……!! じっとしていてください……!!!」
魔王の存在を知ったヴァナベール。
すぐに次に備えようとする。
突如、ラスドラーゴ達が出現したように、ザラボラスもまた、今現れたとしてもおかしくない。
リュノンは彼を制止し、ちゃんとした治療を受けるように伝える。
と、そこに――――
「リュノンさん……!! ヴァナベールさん……!!!」
駆け付ける影が、もう一つ。
ルンベ・ランだ。
「ルンベ……!!」
「ルンベちゃん……!!」
「お二人にもお話があります……!! ……!! ヴァナベールさん、そのケガ……!! 私が治します……!!」
やはりリュノンの回復では不十分。
ヴァナベールの傷を確認し、今度はルンベが治療に入る。
そして治療がてら、二人にも状況について説明を始める。
「――――これか……!!」
治療を終えたヴァナベール。
ルンベの話を受け、ラスドラーゴが所有してした玉を発見する。
「ルンベちゃんよ。こいつを壊せば、奴らの所へ行けるんじゃな?」
「はい。間違いありません」
「なるほど。こいつでラスドラーゴ達はここへ……。そして、ザラボラスもこの先にいると見て、良さそうじゃな…………」
「……ザラボラスって、まさか……!! あの……!?」
「ああ、そうらしい。奴をもう一度倒さねば、戦いは終わらない」
「……『ヤバイの』って、本当にヤバかったんですね……」
目を伏せるリュノンとルンベ。
だが、現在の人間で唯一ザラボラスを目にしているヴァナベールは、前を向き続けている。
そんな彼の姿を見て、二人は恐れを薄めていく。
「よし……!! ……と、その前に、この町にいる敵は全滅した。となれば、同じようにこれが落ちているはず。一旦集めるんじゃ」
「はい。既にヒナノさんやルナさんには、伝えてあります」
「そうか……。そうしたら、この町にいる聖鳳軍を一旦集合させるか……。リュノンちゃん、頼んでいいかな?」
「了解……!!」
分身を大量生産するリュノン。
と、同時に町中へと探索させる。
「それから、俺にも一つ心当たりがあります……!!」
「分かった……!!」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数十分後――――
都市の中心。
ヴァナベール・ソルシード。
ルナレジェン・ペサンテ。
バール・バーランド。
リュノン・アーリー。
ラフェル・フルミーネ。
ティローナ・カルダート。
そして、ルンベ・ラン。
この町に立っている聖鳳軍全員が集結した。
オー・ラッセ。
ソル・スエリア。
フェルフラム・ボンバ。
レランカ・レルンの四人は、命を落としている。
「――――そうか…………」
「はい…………」
各地に散らばったリュノン軍団が、レランカとフェルフラムを発見。
また、病室に寝ていたティローナとラフェルとも合流。
仲間の死は共有された。
そして、ダクライズ、ハビニック、ミワルナが所有していたワープも無事に回収された。
痛いほどの悲しみはある。
だがまだ、後ろは向けない。
彼らが繋いでくれたもののためにも、今日ここで決着を。
「……ヒナノは……? ……後、ショウエイくんも……」
辛そうに座っているティローナが、辺りを見回しながら不在者について尋ねる。
関わりが強い二人がいないこともあり、気になってしょうがない。
「……ショウエイさんは、既にこれらを使い、先へと向かっています……」
「……!? なんだって……!?」
「すいません……。どうしても、止めることが出来なくて……」
ルンベの言葉を受け、初耳の者は驚きを強める。
特にリュノンは、動揺を抑えることができない。
今すぐにでも、真ん中に集められている四つの玉を使って、向こうへと行きたいくらいだ。
「……じゃあ……ヒナノは……? まさか……ヒナノも……?」
「……ヒナノさんには、さっきお会いしましたが……。……ここにいないということは、そういうことなのだと思います……」
「……町中を見たけど、ヒナノさんはいなかった……。ヒナノさん、一人で行ったのか……」
「……ヒナノが? そんな焦って一人で行くような人間やないのに。何かあったんか?」
「……おそらくヒナノさんは、ショウエイさんを助けに行ったのだと思います……。私がそのことを伝えた時、ひどく焦っているようでしたので……」
「……そうか……」
ショウエイ・キズキとヒナノ・スエリア。
両者が、先んじで決戦の地へと参じていることも把握した一行。
二人と繋がりが深い者は、心配や不安が強まっていく。
「皆。大丈夫じゃ。ショウエイちゃんもヒナノちゃんも強いし賢い。そう簡単にはやられんて」
ヴァナベールがその場を収め、全員が前を向くのを確認する。
「……かといって、ゆっくりしている時間はなさそうじゃ。――――では、この四つを使って、今すぐ向こうに飛ぶぞ」
魔物の主力はほぼ壊滅した。
残るは、敵大将の首一つ。
敵の準備が整う前に。
今度は此方から仕掛ける番だ。




