第百五十七話 『継がれる』
――――立ち上がった。
翔英は再び、戦場へ。
そして、戦闘続行の意思を剣に込める。
「……ありえねえ。一度悪化したのに、立ち直ることなんて…………抗体でも持ってなきゃおかしいぜ………」
ジャーザンスが能力で作り上げているこの毒。
ジャーザンスの力が体内で生産している物だ。
時間が経つに連れて、どんな巨大生物の意識をも奪っていく代物。
しかしこの毒は、一種類しかない。
また、割と解毒しやすい。
そのため、この毒は彼の切り札の一つである。
相手が詳細を知っていて解毒する手段を持っていたり、もし一度喰らっていて抗体ができていたりすると、あまり効果を発揮できずに終わる。
だが、今は違う。
このショウエイ・キスギは、明らかに毒について知らなかったようだし、初めて出会う男だ。
一度この毒から生還しているなんて、ありえない話だ。
しかし、実際に目の前の男は毒に抗い、進む意思を見せている。
「…………まさか……お前……………」
ジャーザンスは、先の自分の発言と自身の能力を照らし合わせ、一つの可能性に辿り着いた。
よく翔英のツラを観察するジャーザンス。
そして、いつかの記憶と一致させる。
「……なるほどな。通りで会ったことがあると思ったわけだ」
ジャーザンスが出した結論。
それは、ジャーザンスが翔英を初めて見た時に思ったこと。
そして、彼がこうして立ち上がって来ていることに、納得がいくものだった。
「――――ショウエイ・キスギ。お前も、父の敵討ちに来たというわけだな。その首に付いている、ガロト・クラーニクと同じで」
「…………あ? 何言ってんだ…………」
「とぼけるんじゃねえよこんな時に。お前の父親は、ショー・ランペールだろ? ああ、そう思えば似てるもんな、お前ら二人」
「……………どういうことだよ……?」
翔英は戸惑いを隠せない。
毒に侵されていなかったとしても、ジャーザンスの言葉をすぐに理解することはできなかっただろう。
それほど、すぐに飲み込むのが難しい言葉だ。
そんな翔英の様子を見たジャーザンスも眉をひそめる。
「……何? じゃあ、何、ホントに違うの? …………いや、そんなはずはねえ。そうじゃないと、お前が立ち上がれることに納得がいかん。じゃあ、てめえの父親は誰だ? 言って見ろ!!!」
『こいつ』にこんな質問をされるなんて思ってもみなかった。
自身の過去については、誰にも話していない。
ミネカも含めてだ。
何と答えていいか、分からないから。
しかし、翔英は口を開き、彼の問いに答えた。
自分が知らない真実があるならば、知ってみたいと、知らなればならないと思ったから。
「…………父の名前は、翔…………来生…………」
「……ショーキスギ…………間違いねえ。お前の父親は、ショー・ランペールだな。姓を変えていたようだが。……生きていやがったとは驚きだがな。まあ、もうどうでもいいけど」
「………!! ……そう……なのか…………」
翔英は考える。
父との記憶を思い起こしながら。
ジャーザンスが言っていることが真実であるならば、父は元々『この世界』の住人だった、ということになる。
普通ならば強い驚きを覚える事実だが、妙な納得感があった。
そもそも、実際に自身がこっちに来ているのだ。
父が逆にこっちから向こうに行っていたとしても、何ら違和感はない。
そして、一番納得感を強める要因となっているのは、この『剣』だ。
この剣の元となっている宝石。
それは、父から貰った形見なのだ。
元々父がこっちの世界で持っていた物だったのだろう。
だから、こんな不思議な力を持っていたのか。
気になることもまだたくさんあるけど、とりあえず今は――――
『ありがとう、父さん』
翔英は剣を顔の前に掲げ、そう呟いた。
こうして戦うことができているのは、この剣のおかげだ。
その剣は、世界を越えて父から託された物だった。
翔英は気づくことはできなかったが、もう一つ。
彼が立ち上がれた理由。
それは、父親の存在だった。
父が一度毒を受けていたことで、息子の翔英にもその耐性が受け継がれていた。
完全な抗体とはいかないが、それでも、こうして立ち上がって動けるくらいには。
ガロトの意思、そして父の意思が、翔英に再び戦う力を与えたのだ。
『敵討ち』という意味が、この戦いには込められていた。
「(……ショウエイ……やはりそうだったのか…………)」
二人の問答を聞いていたガロトも理解する。
翔英と初めて会った時からずっと、そんな気はしていた。
翔英があの男の意思を継いでいるのは、ひしひしと伝わってきていた。
『親子』なのだから、当然だった。
その事実を知ったことで、聞きたいことも山ほどできた。
――――いや、それは、この男を倒してからだ。
「(ショウエイ、行くぞ……!! 時間もない……この一撃で終わらせるぞ!!!)」
「(……分かりました、ガロトさん……!!!)」
想いをシンクロさせる翔英とガロト。
そして、この戦いを終結させるべく、ショーの意思を全うするべく、全てを剣に込める。
「……はっ……!! ちょっと毒が効かねえからって、勝ったつもりになるのはまだ早いぞ。全開で力を込めれば、ガロトの防御を壊せるはずだ……!!!」
対するジャーザンスも渾身の一撃を溜めていく。
ガロトのマフラーごと翔英を貫き、決着を着ける算段だ。
そして、
「…………来い、ジャーザンス……!!」
「俺の前で余裕こいたこと、後悔しやがれ!!!」
勝利を懸けた、全てを掛けた衝突。
死力を尽くした両者の限界が衝突した。




