第百四十三話 『勇敢な愚者』
「――――ショウエイくん……なんで……」
現れるはずのない男の出現に、さすがのヒナノも驚愕している。
……まさか、援軍?
……でも、彼一人?
「……この子がショウエイくんか……」
ヒナノの言葉を耳にしたティローナは、そう呟いた。
ティローナにとっては、翔英は初対面。
かねがね噂は耳にしていたので存じ上げてはいたが、こうして顔を見るのは初めてだ。
理由は分からないが、ひとまず味方が駆け付けてくれたことが分かり、少し安心するティローナ。
「……ヒナノさん、リュノン、ソル。……それに、初めましての方もいるみたいだけど、今は自己紹介してる場合じゃないよな。こいつを倒して、ミネカを助けてから、ゆっくり話します!!」
翔英は剣を、目の前の魔物へと構えた。
するとワンダフィンはその剣をまじまじと観察し、一つの記憶を思い出す。
「……その剣……ああ、あの時のあなたですか。確か名前は、ショウエイ・キスギ」
「……!! なんで……!?」
「いえね、我が主があなたの戦いを何度か観察していたので、ちょっとね。覚えていませんか? 『ジャイ』という魔物のことを。あいつは私たちの部下だったんですがね。あなたにやられてしまったんです」
ジャイ。
鳥のモンスターのような見た目をした魔物で、翔英がこの世界に来て初めて邂逅した、未知なる生物である。
と、同時に、ジャイとの戦いは、ミネカとのつながりができた戦いでもあり、翔英が戦う力を貰ったきっかけでもある、彼にとっては重要な戦いだ。
当然、忘れるはずもない。
だが、ジャイがこいつらの部下だったことなんてどうでもいい。
重要なのは、
「……なんでそれが……俺を知っていることになるんだ……どうやって……!?」
「ふー…………簡単なことですよ。ジャーザンス様は配下の魔物に監視用の菌を感染させているのです。つまり、彼らを通じて見ているのですよ。ジャイと戦ったあなたのことを知っているのは、当然でしょう」
「……そういうことか。……だいたい、納得」
今は集結していたが、ジャーザンスの部下たちは常時、世界各地を巡回している。
ジャイもそうだった。
ジャーザンスは彼らを使って、あちこちの情報を仕入れているのだ。
そして、翔英はツッコまなかったが、ワンダフィンは言った。
「あなたの戦いは、『何度か』見ている」と。
これが何を意味するのか。
そう、ジャーザンスが見ていたのは、ジャイとの戦いだけではない。
――――あの戦いも、そうだった。
「…………了解しました」
ワンダフィンが呟く。
「……あ? 何か言ったか?」
「……上からの命令です。あなたには残念ですが、死んで頂くことが決定しました」
「……!! はっ……!! それは無理だ!! まだやらなきゃいけないことがたくさんあるんでな!!!」
翔英VSワンダフィン。
――――開戦。
翔英にとっては、メデュン西の洞窟でのギーコ戦以来の戦闘だ。
だが、身体は十分温まっている。
自信だってある。
こいつがどれほどの使い手かは分からないが、負けるつもりは微塵もない。
翔英は剣を構えながら、ワンダフィンの距離を一気に詰めていく。
先手必勝。
攻撃を貰う前に、速攻で決めてやる。
「……素晴らしい!! 勇敢ですね。私を相手に怯えずにこうも近づいてくるなんて」
そんな翔英を余裕で迎えるワンダフィン。
彼は武器を持っていない。
手ぶらで腕を広げながら、翔英が来るのをただ待っている。
まるで、抱き着いてくるのを待っているかのような体勢だ。
「(……なんだこいつ……!?)」
逆に不気味だ。
その姿は、翔英の警戒を向上させた。
しかし、翔英は速度を緩めない。
そのまま、敵の懐へ突進だ。
「……素晴らしい素晴らしい。あなたの勇気、本当に素晴らしいですよ」
だが、翔英の歩みはワンダフィンに辿り着く前に止まった。
翔英の意思で止めたわけではない。
『止められた』と言った方が正しい。
翔英の身体が突如重くなったのだ。
それも、歩くことができないほどに。
「……なんだこれ……!! ……重い……!!!」
「お疲れさまでした。さようなら、勇敢な方」
地面に這いつくばる翔英にゆっくりと迫るワンダフィン。
そして、手刀を翔英の首へと刺しだす。
「――――おらっ!!!!」
しかし、翔英が動いた。
圧し掛かる重みを何とか跳ね除け、辛うじて腕を回した。
手刀は剣にブロックされ、そのままワンダフィンを押し返す翔英。
そして、立ち上がった。
数倍もの重力空間にいるような状態だが、根性と気迫で何とか立ち上がる。
それを見たワンダフィンは目を輝かせながら、
「おおお!! 素晴らしい素晴らしい素晴らしい。本当にやりますね」
と、拍手しながら言う。
すると、
「――――がっ……!!?」
さらに翔英の体重が増加した。
完全に、翔英の動きが止まった。
「(……これがあいつの魔能……!? 取り合えずショウエイくんを助けなきゃ……!!)」
唯一動くことのできるティローナが翔英を助けに向かう。
しかし、
「邪魔ですよ!!」
ワンダフィンに軽く吹き飛ばされてしまった。
全快なら負けることはなかっただろうが、今のティローナでは分が悪すぎる。
「……では、さよならです。ショウエイ・キスギ。一瞬とはいえ、あなたのような者に出会えたこと、心から嬉しく思いますよ」
地面にめり込み続ける翔英。
トドメに入るワンダフィン。
翔英は苦痛の顔を下に隠していた。
重いのもあるが、せっかく助けにきたのに、一瞬で無力化されてしまった悔しさに対する苦痛を。
「――――待ちやがれ!!!」
しかし、翔英が攻撃される直前、部屋の向こうから声が聞こえてきた。
その声の方を振り返るワンダフィン。
そこには、金髪の女性が走ってきていた。
「じゃまだボケ!!!」
その女性は、驚いているワンダフィンの顔を殴り飛ばす。
「――――おいおいなんだあ? この状況はあ……? 揃いも揃って情けねえなあ!!」
レランカ・レルン、登場。




