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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百四十三話 『勇敢な愚者』

 「――――ショウエイくん……なんで……」


 現れるはずのない男の出現に、さすがのヒナノも驚愕している。

 

 ……まさか、援軍?

 ……でも、彼一人?


 「……この子がショウエイくんか……」


 ヒナノの言葉を耳にしたティローナは、そう呟いた。

 

 ティローナにとっては、翔英は初対面。

 かねがね噂は耳にしていたので存じ上げてはいたが、こうして顔を見るのは初めてだ。

 

 理由は分からないが、ひとまず味方が駆け付けてくれたことが分かり、少し安心するティローナ。


 「……ヒナノさん、リュノン、ソル。……それに、初めましての方もいるみたいだけど、今は自己紹介してる場合じゃないよな。こいつを倒して、ミネカを助けてから、ゆっくり話します!!」


 翔英は剣を、目の前の魔物へと構えた。

 するとワンダフィンはその剣をまじまじと観察し、一つの記憶を思い出す。


 「……その剣……ああ、あの時のあなたですか。確か名前は、ショウエイ・キスギ」


 「……!! なんで……!?」


 「いえね、我が主があなたの戦いを何度か観察していたので、ちょっとね。覚えていませんか? 『ジャイ』という魔物のことを。あいつは私たちの部下だったんですがね。あなたにやられてしまったんです」


 ジャイ。


 鳥のモンスターのような見た目をした魔物で、翔英がこの世界に来て初めて邂逅した、未知なる生物である。

 と、同時に、ジャイとの戦いは、ミネカとのつながりができた戦いでもあり、翔英が戦う力を貰ったきっかけでもある、彼にとっては重要な戦いだ。


 当然、忘れるはずもない。


 だが、ジャイがこいつらの部下だったことなんてどうでもいい。

 重要なのは、


 「……なんでそれが……俺を知っていることになるんだ……どうやって……!?」


 「ふー…………簡単なことですよ。ジャーザンス様は配下の魔物に監視用の菌を感染させているのです。つまり、彼らを通じて見ているのですよ。ジャイと戦ったあなたのことを知っているのは、当然でしょう」


 「……そういうことか。……だいたい、納得」


 今は集結していたが、ジャーザンスの部下たちは常時、世界各地を巡回している。

 

 ジャイもそうだった。

 ジャーザンスは彼らを使って、あちこちの情報を仕入れているのだ。


 そして、翔英はツッコまなかったが、ワンダフィンは言った。

 

 「あなたの戦いは、『何度か』見ている」と。

 

 これが何を意味するのか。

 

 そう、ジャーザンスが見ていたのは、ジャイとの戦いだけではない。

 

 ――――あの戦いも、そうだった。

 

 「…………了解しました」


 ワンダフィンが呟く。

 

 「……あ? 何か言ったか?」


 「……上からの命令です。あなたには残念ですが、死んで頂くことが決定しました」


 「……!! はっ……!! それは無理だ!! まだやらなきゃいけないことがたくさんあるんでな!!!」


 翔英VSワンダフィン。

 

 ――――開戦。


 翔英にとっては、メデュン西の洞窟でのギーコ戦以来の戦闘だ。

 だが、身体は十分温まっている。

 自信だってある。


 こいつがどれほどの使い手かは分からないが、負けるつもりは微塵もない。


 翔英は剣を構えながら、ワンダフィンの距離を一気に詰めていく。


 先手必勝。

 攻撃を貰う前に、速攻で決めてやる。


 「……素晴らしい!! 勇敢ですね。私を相手に怯えずにこうも近づいてくるなんて」


 そんな翔英を余裕で迎えるワンダフィン。

 彼は武器を持っていない。


 手ぶらで腕を広げながら、翔英が来るのをただ待っている。

 まるで、抱き着いてくるのを待っているかのような体勢だ。


 「(……なんだこいつ……!?)」


 逆に不気味だ。

 その姿は、翔英の警戒を向上させた。


 しかし、翔英は速度を緩めない。


 そのまま、敵の懐へ突進だ。


 「……素晴らしい素晴らしい。あなたの勇気、本当に素晴らしいですよ」


 だが、翔英の歩みはワンダフィンに辿り着く前に止まった。

 翔英の意思で止めたわけではない。

 

 『止められた』と言った方が正しい。


 翔英の身体が突如重くなったのだ。

 それも、歩くことができないほどに。


 「……なんだこれ……!! ……重い……!!!」


 「お疲れさまでした。さようなら、勇敢な方」


 地面に這いつくばる翔英にゆっくりと迫るワンダフィン。

 そして、手刀を翔英の首へと刺しだす。


 「――――おらっ!!!!」


 しかし、翔英が動いた。

 圧し掛かる重みを何とか跳ね除け、辛うじて腕を回した。


 手刀は剣にブロックされ、そのままワンダフィンを押し返す翔英。


 そして、立ち上がった。


 数倍もの重力空間にいるような状態だが、根性と気迫で何とか立ち上がる。


 それを見たワンダフィンは目を輝かせながら、


 「おおお!! 素晴らしい素晴らしい素晴らしい。本当にやりますね」


 と、拍手しながら言う。


 すると、


 「――――がっ……!!?」


 さらに翔英の体重が増加した。

 

 完全に、翔英の動きが止まった。


 「(……これがあいつの魔能……!? 取り合えずショウエイくんを助けなきゃ……!!)」


 唯一動くことのできるティローナが翔英を助けに向かう。

 

 しかし、


 「邪魔ですよ!!」


 ワンダフィンに軽く吹き飛ばされてしまった。

 全快なら負けることはなかっただろうが、今のティローナでは分が悪すぎる。


 「……では、さよならです。ショウエイ・キスギ。一瞬とはいえ、あなたのような者に出会えたこと、心から嬉しく思いますよ」


 地面にめり込み続ける翔英。

 トドメに入るワンダフィン。


 翔英は苦痛の顔を下に隠していた。


 重いのもあるが、せっかく助けにきたのに、一瞬で無力化されてしまった悔しさに対する苦痛を。


 「――――待ちやがれ!!!」


 しかし、翔英が攻撃される直前、部屋の向こうから声が聞こえてきた。


 その声の方を振り返るワンダフィン。


 そこには、金髪の女性が走ってきていた。


 「じゃまだボケ!!!」


 その女性は、驚いているワンダフィンの顔を殴り飛ばす。


 「――――おいおいなんだあ? この状況はあ……? 揃いも揃って情けねえなあ!!」


 レランカ・レルン、登場。

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