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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百十九話 『スリーラ』

 スリーラがメデュンに住み始めてから、さらに一年が経った頃。

 スリーラは再びあの洞窟へと足を踏み入れた。


 乗り越えておきたかったから。

 乗り越えねばならないと思っていたから。

 

 すっかり綺麗になっていたこの場所を見たスリーラは、過去を乗り越える意味でも「この洞窟を使う」ことを決める。

 ただし、「関係者以外立ち入り禁止」として。

 

 町の人たちがこっそり入らないように、『天罰』のうわさも流した。

 ゴアナ族の力を継いでいたスリーラが言うので、すぐにその噂は浸透していった。


 そんな中、部屋の整理をしていたスリーラは、洞窟の中に一錠の薬と手紙があったことに気づく。


 アボラは処分しようとしたが、スリーラはそれを受け入れなかった。

 

 スリーラは二つの意思を丁寧に保管することにする。

 この薬と手紙は唯一の『ゴアナ族が生きていたという目に見える証明』だとして。

 そして、彼らのことを忘れずにいるために。


 この判断が自身の命運を分けるなんて、スリーラは思いもしなかっただろう。


 また、あの日の悲劇を起こす元凶となった『ジャーザンス』についてスリーラは、少なくない「復讐心」を抱いていたが、奴と会うことがなかったことやアボラが止めていたこともあり、それが行動に現れることはなかった。


 ――――その日の夜には、アボラから自身の力について教えてもらった。

 

 『心を共有させた者を支配できる力』と『自身が負った痛みを共有者に転送する力』

 そして、『力を受け継ぐ力』について。


 あの日、ノマナが傷ついた様子を見ても、二つ目の能力についての予想はついていたが、一つ目については思いもしない力だった。


 それもそのはず、二つ目はスリーラを護るためにオートで発動されるが、一つ目はスリーラが意識しないと発動されないのだ。

 支配には意思が不可欠だから。

 

 だが、彼女が一番驚いたのは三つ目の能力についてだ。


 ゴアナ族の力が自身に継がれたこと。

 

 それがようやく納得に繋がった。

 

 あの日、アボラは「あなたが神に選ばれているから」だと言った。

 スリーラはこの力『自体』が、自身が神に選ばれた故のものと解釈した。

 アボラが言っていたことは、何も間違いではないと。

 

 自身の力の存在を知ったスリーラは、すぐさまメデュンの人々に対して使用するのだった。

 

 『もう二度と理不尽な争いをこの瞳に映さないために』

 

 『人々が笑顔だけを浮かべながら生きていけるように』

 

 また、そのころには、完全にゴアナ族の死を『仕方がなかった』と受け入れていた。

 あの時、アボラが言っていたように。

 

 自分が平和を目指すための、避けられない犠牲だったと。


 第三の能力を理解したことも大きかったのか。

 同時に、『犠牲』という言葉を都合よく使うようになっていった。

 その言葉を建前に、間接的に死を与えたりもした。

 

 『これも全て、世界のため』と、

 『犠牲の裏には、必ず平和が存在する』と。

 『わたくしは平和の使い』と、

 そう、言い聞かせながら。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 『――――そうだ』


 『わたくしは、そう自分に言い聞かせてきた』


 『神に選ばれた者だと』

 『平和の使いだと』

 『希望そのものだと』


 『そう思わなければ、思い出してしまうから』


 『わたくしはただの魔物だって』


 『平和とは正反対の存在だって』


 『――――怖かった』


 『そう思わないと、魔物に戻ってしまいそうで』


 『そう思わないと、生きてはいけないと言われてしまいそうで』


 『――――ああ、そうだ』


 『わたくしは、平和の使いなどではなかった』


 『そう思わないと、やっていけなかっただけだ』


 『コレールとしても、スリーラとしても、たくさんの人を傷つけてきてしまった』  


 『全てが平和のためだと。そんなはずないのに』


 『――――これは、愚かなわたくしへの『罰』なのですね』


 『本当に、申し訳ありません』


 『――――でも、最期に、そう思えてよかった』


 ――――直撃。

 

 無意識下で放ったケバローの拳が、スリーラの顔面にヒットする。


 拳が当たるまえから涙を流していたスリーラは、部屋の向こうまで思いっきり吹き飛ばされた。


 その直後、ケバローはまた前向きに倒れ込む。

 さすがに、人としての限界を迎えたのだろう。


 「…………………」


 一方、吹き飛ばされたスリーラは……


 まだ、ギリギリ命を保っていた。

 ケバローは既に限界だったからか、スリーラの生まれ持った突出した生命力によるものだろうか。


 あちこちに激しい痛みはあるが、まだ生きようと足掻けば死ぬことはなさそうだ。


 ――――だが、スリーラは天を見上げた。


 そして、最後の涙を流し始める。


 「――――今、行きますね」


 一言の呟きと共に、自身の腹部に衝撃を与えるスリーラ。

 それがトドメとなり、徐々にスリーラの肉体が消滅していく。


 肉体とともに消えゆく意識の中で、たくさんのことを考えるスリーラ。


 メデュンのこと。

 ゴアナ族のこと。

 翔英のこと。


 スワナのこと。

 ノマナのこと。


 アボラのこと。


 やがて消滅は全身に及び、スリーラの痕跡は完全に消え去った。

 最期に残っていたのは、彼女が流し続けた涙の跡。

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