第百六話 『町巡り』
進化したスリーラにケバローが追い詰められていた頃。
メデュンに戻って来た翔英とレランカは、いざスリーラの能力の解除へと赴いていた。
「――――よし、こっからのアタシたちの任務は、『こいつ』を町の連中全員に飲ませることだ」
ケバローから受け取り、情報を読み取ることにも使用した『小さな粒』を取り出すレランカ。
レランカはこの白い粒から読み取った記憶から、これがスリーラへの対抗策だと分かった。
『ではこれをどうするか』
普通に考えたら、飲ませるしかないだろう。
「…………分かりました。……でも、それ一粒でどうやってやるんですか……?」
翔英の疑問は当然だ。
「全員に飲ませる」と宣言しているのに、粒は一つしかない。
まさかこれを全員分に分ける訳じゃないだろう。
「安心しろ。そのために――――こいつを探し出したんだからよ」
レランカは翔英のおかげで取り戻せた愛剣『ドスベセス』を指差し、自信満々に告げる。
そう、この『ドスベセス』には、特殊な能力が備わっている。
能力を使うことができるのは持ち主のレランカ一人だけだが。
レランカは、左手に粒、右手に剣を持った。
そして、粒を手放し一刀両断。
粒は綺麗に真っ二つになった。
「――――ん? あれ?」
翔英が目の前で起こった光景に目をこする。
半分にしたはずの粒が、元の形に戻っていたから。
さらに一閃。
今度は四つになった。
「――――こうしていけばよ、人数分足りるぜ」
「なんですかそれ!!?」
『ドスベセス』が持っている特殊能力。
それは、斬った物を分裂させる能力である。
一見便利極まりない能力に聞こえるが、これにはある厳しい条件がある。
その条件とは、『完全に均等』に斬らなければならないことだ。
さらにそれに加えて、一閃で半分にしなければならない。
慣れてない者がこの剣を使おうとしたところで、意味がないのだ。
だが、幼い頃から二十年以上、この剣だけを使い続けてきたレランカは難なく使うことができる。
『レランカだけが使うことができる』というのは、そういうことだ。
もっとも、『あの女』だけはその限りではないが。
その後もレランカは、一回、二回、三回、四回と剣を振り続けた。
そして、
「――――す、凄い……!! 全然意味わかんないけど、めちゃくちゃ増えた!!!」
白い粒は、全部で六十四粒となった。
その六十四粒をだいたい半分ずつ、近くに置いてあった二つの袋へとしまうレランカ。
「――――よし……この町の人口はだいたい六十人だ……!! こいつを二人で手分けして、この町の馬鹿どもに飲ませっぞ!!」
「あ……そうなんですね。意外と……」
レランカは半分を翔英に渡した。
頷いた翔英。
二人は、町中の人たちに怪しげな薬を飲ませようと動き出す。
だが、レランカには二つの不安があった。
一つは、この薬の効果だ。
「『死が解放』みたいなヤバい感じの一族だったらどうしよ」
レランカはそう考えていた。
「まあ『見た』感じ良い奴らぽかったし大丈夫だろ」と、無理やり納得する。
二つ目の不安。
それは、スリーラの支配が及んでいるのは『この町の人間だけなのか』ということである。
もし、さらに広い範囲に広がっていたら、もう今スリーラを倒す方法は露と消えてしまう。
「まあ『あんな馬鹿女』の言うこと聞く奴なんてそうそういねえだろ」と、また無理やり納得する。
不安解消。
レランカは東の方から順に家を回ることに決めた。
翔英には、西の方から回るように指示する。
「――――でも、レランカさん。こんなの飲んでくれますかね……普通警戒しますよ……」
「そりゃそうだろ。――――だが、アタシに作戦がある。こいつをあの女が作った薬ってことにして配るんだ。なんか新種の病気が発生したとかってことでよ。特効薬だこいつは」
「ええ……なんか気が引けるなあ……完全にやってること犯罪じゃないですか……」
「うるせえな。文句はやってから言えよボケ。それに、この町が病気なのは本当なんだ」
二人は、メデュンでの最後の任務に取り掛かり始めた。
レランカの指示通り、翔英は西の方から周っていく。
「げ……」と、苦い顔を見せる翔英。
一番西側には、怖そうなおじさんが一人で立っていたからだ。
「しょうがない」と勇気を振り絞り、その男に声を掛ける。
「あ……あの、ちょっとこれ飲んでくれませんか……」
口を開いた瞬間、翔英は思った。
この仕事、俺に向いてねえと。
ていうか、現代人にはハードル高すぎる仕事だろう。
「え……? 何言ってんの?」
「……そりゃそうですよね。
(……じゃあ、しょうがない。レランカさんの言う通りにやってみるか……)」
翔英は何らかの犯罪者になることを決めた。
「……今のは冗談です。ちょっとあなたに話したいことがあっただけです」
「話? 俺に? 何の?」
「……スリーラさんからの伝言なんですが、なんか、新種の病気が発生したみたいで、これ、スリーラさんから皆さんへの特攻薬らしいです」
「え……!? 本当ですか!? スリーラ様は今、どこに!?」
「……薬を作ってて忙しいそうで、だから……僕が代わりに配ってるんです」
「そうだったのか……分かった、ありがとう。これを飲めばいいんだろ!?」
「……はいお願いします」
水なしで小さな粒を口へ放り込むおじさん。
それを見た翔英は逃げる体制に入った。
どうなるかわからないから。
しかし、おじさんは前に倒れてしまった。
「……え……? どうしたの……? ……ま、まさか……死んだの……?」
翔英は慌てておじさんの呼吸を確認すると、ひとまず胸を撫で下ろす。
生きている。死んではいない。
じゃあ、どうしたのだろう。
いや、今はそれを考えている暇はない。
レランカの言う事が本当ならば、おそらくこれでスリーラとの繋がりが切れたはずだ。
翔英は外で寝ているおっさんをほったらかしにして次へと向かった。
さらに同じようなやり方で何人かを眠らせた頃、翔英に違和感が生じ始める。
一時回復していたスリーラの力がまた強くなってきたのだ。
『そろそろ動けなくなる』
自分でもそう思えた。
「(――――や、ヤバい……まだ二十人以上いるのに…………でも、後はレランカさんに任せればいいか………協力してくれる人なんていないし………いや……!!)」
『一人いる』
それを思い出した翔英は、自分たちが泊っている部屋へと急ぎ向かった。
「――――ジュン!!! いるか!!」
翔英と共にメデュンへ訪れていた少年、ケバローの息子でもあるジュン。
彼のことを思い出したのだ。
「あっ!! おかえりショウエイ!! ……父ちゃんは?」
布団の上で本を読んで待っていたジュン。
現れた翔英を声を弾ませて向かい入れるが、ドデカい父の姿が見えないことを不思議がる。
「……ケバローさんは、遠くで今戦っている……その手伝いをジュンにもしてほしい……!! このままだと、俺もケバローさんも、帰って来れなくなる……!!」
「え……!? そ、そうなの……!? な、何をすればいいの……ショウエイ!? 俺にできることなんてあるのかな……!」
「この町の人全員に、こいつを飲ませて欲しい……!! それができれば、ケバローさんは帰って来れるんだ……!!」
「え!? なにそれ!? ……でも、分かった、やってみるよ……!!」
さらに詳しい説明を受けたジュンは、父の危機を救おうと動き出した。
翔英は自分が持っていた半分以上の粒をジュンへと渡す。
「頼んだぞジュン!! 何かあったら東の方で同じ薬を持っている金髪の姉ちゃんを頼ってくれ!!」
「分かった!! ……え? ショウエイは?」
「俺はもうすぐで動けなくなっちまうんだ……だから、ジュンしか頼れる人がいない」
「……うん……!! 俺、頑張るよ!!」
意識が朦朧とし始めた翔英はジュンを加えて、再び異物挿入に赴いていく。




