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ミミックボランティア 留年妖魔と偽りの土地神少女  作者: ムタムッタ
Chapter 3 研修に行こう

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3-2(5) 特定妖魔・毒嬢(ヤマカガシ)③



 毒霧は数十分後に消え、俺を実験台に安全が確認された後妖魔対策課こがね市支部へ撤収した。居合わせて襲われた例の青年も特に後遺症はなく、一旦支部で保護の運びとなった。


「夜遅くまですまない。件の妖魔は逃走、追跡したが振り切られてしまった。今後の対策のため、今日の内に方針を改めて決めようと思う」


 環境省妖魔対策課こがね市支部内・第一作戦会議室。碧海支部より2回りほど小さなそこには出払った職員を除いて、研修中の俺と白神……あとは篠宮の側に秘書さんが佇んでいた。

 目の前にあるホワイトボードには、『特定妖魔緊急対策会議』と綺麗な字で書いてある。


「まず最初に……二人とも、報連相は怠らないで欲しかったな」

「ごめんなさい仙にぃ……」

「さーせぇん」


 いよいよ態度を取り繕うのが面倒になって素が出てしまうが、篠宮は眉一つ動かない。


「……まぁ、妖魔側から条件を出された上で犠牲者が出なかった……それを踏まえて不問としておくよ」


 話の分かる統括でなによりである。


「でも、漆葉君一人で来るよう指示があったってことは見張られていた可能性もあっただろう? どうやって夕緋を、しかも殻装まで用意したんだい?」

「うぇぅ? あ、それはアレですよ、阿吽の呼吸というかなんというか……」



 ネタは至って単純。それは桧室涼香との通話で前置きに言っておいた。

『前の事件みたく、俺が狙われる可能性があるからな。後で白神に伝えといてくれ』

『具体的になんと?』

『根性で俺を探してくれ、ってな』



 ……今にして思えば、土地神と従者の通信ができたなと反省している。スマホのGPSから割り出してくれてたんだろうが、危うく黒蜥蜴もとの姿でばったり出くわすところであった。


「信頼関係がある、ということは評価しておくよ。これから気をつけるように」

「はーい」「へーい」


 気を取り直して本題に戻る。


「昼に続き同種と思われる妖魔による犯行があったわけだけど、今回は大収穫と言ってもいいね。相手の姿形と目的が判明した」


 ホワイトボードに先刻の妖魔の写真が貼られる。


「敵の見た目はヘビに似た爬虫類種のものだけど輪郭、骨格自体は人間に近い妖魔だね。犠牲者数を踏まえてもコレは特定妖魔と言える存在だ。僕の権限で、今ここで今回の対象を特定妖魔に認定した」


 これからさらに増える可能性もあるしな。


「便宜上、今回この特定妖魔の名称を『毒嬢ヤマカガシ』と命名する」


 写真の上にサラッと秘書さんの字で名前が記される。

 ……まんまじゃねぇか。と、黒蜥蜴は思う。


「仙にぃ……見た目がヘビっぽくても捻りがなさすぎじゃない?」

「現れた妖魔に一々大仰な命名をしていたらそれこそ面倒だよ。本来なら『こがね市妖魔第〇〇号』と呼称するけど……今回は特定妖魔だからね。近似した動物でそれらしい名前にしたのさ」


 なんだか台風みたいだな……まぁ、自然災害みたいなもんなのかね人間からしたら。


「さて──今回まともに戦闘をした二人は貴重な情報源だ。しかも、漆葉君に関しては二度目の遭遇……特徴や気になったことに関して情報を整理しよう、秘書君」

「はい……ではお二人とも、毒嬢に関して知り得たことを何でも言ってみてください」


 こうして新たな情報を踏まえ、特定妖魔──毒嬢について会議が始まった。



 ◇ ◇ ◇



 とりあえず現時点で判明している毒嬢ヤマカガシの特徴を挙げてみることになった。


 まずは外見。言わずもがな、ヘビ人間と表現できる。今まで解決した事件と同じく人型の妖魔。ただし、黒蜥蜴おれやサルと異なり鱗に覆われてはいるがかなり人間のフォルムに近い。


 続いて特徴。なんと言っても毒嬢の名の通り、苦痛を与える毒から動きを制限する麻痺毒まで操る毒の使い手(ポイズナー)である。厄介なのは麻痺毒だが、知らないタイミングでこれを体内に入れられていること。今のところ、経路は不明だ。俺も一度喰らっているから、こがね市に来てからの何かが関係しているはず。


 お次は戦闘能力。腕力は擬態の俺より上、つまり一般の成人男性以上。それに加え鋭利な爪と強靭な尻尾による攻撃、柔軟性のある身体は大抵の攻撃を難なく回避する面倒さである。


 あとは口から吐く毒霧。どうやら吸うと呼吸器系に影響があると推察。数十分その場に滞留後無毒化され土地神の力で無理矢理吹き飛ばすこともできる。



 ◇ ◇ ◇



 特定妖魔・毒嬢ヤマカガシの要点についてはこんなとこだろう。


 問題は能力や強さではない。

 あらかたホワイトボードに毒嬢について書き出されたが、重要なことがいくつか抜けている。


「次は、動機……なぜ人間を襲っているか……」

「なぜって……」


 流し目で白神が視線を送ってくる。

 ついさっき、妖魔が逃亡する際俺に向けた言葉がよみがえる。


 『アンタは必ず食べてあげるから、覚悟しといてよね』

 

「……去り際の発言──それに、今までの犯行が同一人物なら『食欲』が行動原理だろうね」

「でも、何で俺……?」


 肉の柔らかさで言えば、隣に座る少女の方が幾分マシだろう。傷一つついていない生身の彼女はホワイトボードを睨んでいたがこちらの視線に気づく。


「……? どうしました漆葉さん」


 ……あ、白神はさっき殻装着てたから女ってわからねぇか。


「いや、別に」


 うまそうな臭いでもあるのかね。


「そういえば漆葉さんも……あとは弘毅さんもそうですけど、今回の妖魔被害者って全員男性ですよね?」


 前にもらっていた資料をもう一度見直す。……会社経営者、プロレスラー、フリーター、大学生など業種・年齢はバラバラ。しかし性別は全て男。それは今日襲撃を受けた俺と明坂弘毅も該当する。


「今までと異なる点としては、今日襲われたお二人は捕食されていません。弘毅さんの方は単純に暴行を受け妖魔自身による毒の被害に遭っています。そして──」


 秘書さんがホワイトボードの小さな余白に漆葉と追加する。


「漆葉さんに関しては、電話で民間人を襲うと脅迫してまで呼び出しています。実際の狙いは漆葉さんのみで、保護した青年は《《ついで》》……といったところでしょうか」


 本命であることも嬉しかないが、ついでに喰われるのもたまったもんじゃないな。


「漆葉さん……妖魔にモテますね」

「やかましいわ」


 今まで擬態《この姿》で会った妖魔といい……今回の毒嬢といい……どいつもこいつも面倒なことこの上ない。


「捕食対象として何かが共通している可能性があるね」


 全員でもう一度事件について資料を改める。被害者は俺含め全員男性──普通の大学生もいることを含めると、喰ったうえで自分の名前を広めたいわけではない……か。本当に単純な食欲なら、何がきっかけなのか。


「漆葉さん、今日の朝に立ち会った現場の資料ないですよ」


 真面目に資料とにらめっこしていると、白神から言われる。


「あ、マジか……そういや、朝の被害者って身元分かったんすか統括」


 忘れていたが、今日は実質4人襲われているのだ。一日の内容が濃すぎて朝の事が抜けていた。


「……あぁごめん、君達の研修中に判明したよ。今日『こがねっ娘』の中継をしていたテレビ局のディレクターさんだった。30代の独身男性」


 追加の資料を秘書さんが俺達に配る。


「え……テレビ関係者の人なの?」

「どうやらそうらしい……『こがねっ娘』と直接関係があるわけではないけどね、アイドル関連の番組を担当していたそうだ……報告があったのは中継後、漆葉君が毒嬢に呼び出される前だったかな」


 そんな人間がなぜあんな雑木林に来ていたのか……ますます謎である。


「……独身…………」


 ボソッと白神が呟く。


「どうしたよ?」

「いま、被害者についてもう一度見てみましたけど……被害に遭った人たちって、みんな独身じゃないですか?」

「おや、気付かなかったな。確かにそうみたいだ」

「会社経営の男性は20年前に一度結婚していますが既に離婚。他の方は未婚ですね……漆葉さんに関しては──」


 秘書さん含め、統括と白神からも視線が刺さる。


「普通に独身だよ!」


 ただの大学生だぞ……妖魔だけど。


「でもそうなると弘毅君が襲われた理由が分からないね。完全にチャンスと言える状況で毒の攻撃をしただけで逃亡している」

「……たしかに…………」


 俺に関しては強制返戻ハプニングで生み出された分身だったからな。おかげであいつは食いっぱぐれたわけだ……執拗に迫る理由は知らんが。単純にあの土地神の旦那は好みではなかったのか?



 被害者たちの情報を整理したものの、まだ大切なことが出ていない。


 

「結局、この毒嬢は誰なんだ?」

「うん……一番欲しい情報だね。そこがわからないと犠牲者は増えるばかりだ」


 俺も他人のメシにはされたくない。もう少しだけ真面目に考えよう。


「その点については……漆葉君、何か気づいているんじゃないかい?」

「……そうなんですか、漆葉さん?」


 この男、分かっていて言ってるのか。


「……まずおかしいと思ったのは、あいつ──毒嬢は俺のことを碧海市土地神の従者だと知っていたことだな」


 ボードの余白に疑問点を書き加える。


「病院で襲撃された時には既に知っていたな」

「あ! もしかして私に従者のこと知ってる人を聞いたのはそういうことですか⁉︎」


 白神のリアクションを見て、篠宮が頷く。


「なるほど妖魔が……君が従者であることを知ってるのは妖魔対策課の県内関係者と本部の人間、あとはこがね市で紹介した人たちかな」


 ……概ね白神に聞いた時と同じか。


「ただの妖魔ではなく、組織に近い人間に擬態しているってことかい? それはないよ、来栖兄妹による事件以降、県内にいる関係者との身元は全て洗った。間違いなく妖魔はいない」


 いや、俺がその妖魔なんだが…………

 ま、それはいま置いといて。


「………………」


 手詰まりになってポケットに手を突っ込んで天井を見上げる。と、右ポケットに違和感を覚えソレを取り出す。

 あ、そうだ。あの青年からメモ借りたままだったな。


「漆葉さん、なんですかそれ?」

「妖魔からのラブレター」


 冗談混じりに白神へ渡すと、そのサインにすぐ気づいた。


「これ、美奈さんのじゃ……」


 恐る恐る、白神は篠宮へメモを渡す。


「まさか……あの子は確実に人間だ、断言していい。それに彼女の両親も妖魔ではない」

「別に蛇石が犯人──妖魔なんて思ってない。筆跡……それも決まったサインなんて真似れば誰でもできるだろうし」

「じゃあ、『こがねっ娘』の関係者に妖魔が…………?」

「さぁな、関係者以外ならファンかもしれないし…………はたまた『こがねっ娘』にお熱なテレビ局関係者かもだしな、被害者の中にもテレビ業界のヤツはいるし」


 推理はまた振り出しに戻ったように思える。


「でもこれで妖魔がどうやって標的の男性を誘き寄せてたか少しは分かったね……毒嬢は『こがねっ娘』を利用している。彼女たちの名前の入った手紙等を受け取った際は注意するよう本人たちから言ってもらおう……あとは特に男性には夜出歩かないよう可能な限り呼びかけ。明日までは僕と支部職員が受け持つから、二人はもう休んでくれ」

「りょーかいす」

「……了解です」


 お互いに気の抜けた返事で、会議を抜けた。


 なにか忘れている気がするが……やめておこう、疲れた。

 とりあえず今日はもう寝たい。


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