2-2(4)白神vs涼香②
こうして、白神がけしかけた模擬戦は涼香の勝利で終わったわけだが。
「ん~やはり近接系一辺倒の装備だと銃火器を装備した殻装相手は難しいねぇ。それに駆動系はやはり走行可能にした方が…………」
二人の戦闘を見て、隣の桧室博士はもう研究者の顔になり考察を始めていた。戦いを終え、白神へ涼香が手を伸ばすものの、へたりこんだ少女は無反応。博士も自分の世界に入ってしまったので白神を茶化しに行くことに。兜越しでどんな表情をしているのか分からないのでとりあえず外してみる。
「おーい、大丈夫か?」
目の前で手を振ってみるが、これにもノーリアクション。シカトは別に気にならないが、呆けている少女の両頬を両手で潰してみる。柔らかい頬がぶにゅっと圧迫され、見事な変顔。
「お前の負けだぞ、白神」
改めて敗北を伝えると、潰していた頬が膨らみ抵抗する。
「分かってます!」
このクソ忙しい時にわざわざ模擬戦をする意味はわからんが、果たして納得したのか。
「………やっぱり、涼香さんは強いですね」
手を引っ込める。いつになくしょんぼりとする少女にかける言葉が見つからない。というより、掛けようとも思わんが。
「この1週間、私なんかがいなくても量産型殻装と涼香さんのおかげで街に大きな被害は出ませんでした…………そもそもすぐ退院した後の騒動でも鎮圧したのは涼香さんでしたし」
「…………………」
頭上の涼香は頷くこともなくただ耳を傾けていた。
「早く元に戻らないとって焦ってもなんだか調子が全然上がらなくて…………」
休めって言ったんだけどなぁ。こいつとしては他の人間が動いてるのに自分が何もしてないのは許せないのか。
本当に、わからん。
「漆葉境」
「んぁ?」
「土地神は…………白神夕緋は本当に不調なのですか?」
「ん〜、いつもは無駄に元気。今は空元気って感じかな」
何故ここまで白神が現場復帰を急ぐのかは理解できないが、この強迫観念じみた行動理念が戦えるだけの力を生み出しているとも──言えなくはないか。
「まぁ、黒蜥蜴に受けた攻撃が影響ある………とも言えなくはないけどなぁ」
そうだったらすまん、と胸中で言い訳。
「いえ、そうではなく」
涼香の求めていた意見ではなかったらしい。
「殻装での動き自体、決して悪いわけではありませんでした。殻装の装備状態でこれだけ動けるのは並外れた身体能力があるからでしょう────しかし、」
途端に饒舌となった涼香は止まらない。
「悪い意味で元々の能力に依存しているところが見受けられます。それが土地神の力というなら頼りすぎていますね………だから言ったでしょう、非効率だと」
「な、またっ────!」
「だったら効率化すればいい話です」
「え?」
真紅の手甲は、地面に座る少女を指さす。
「殻装の性能を引き出せていないのに勝手にわたしの方が強いと言わないでください。それに今回の殻装性能テストは、貴方のためでもあるんですよ?」
少女は真紅の兜を脱ぎ、俺に寄越す。そして膝を折り、白神と目線を合わせる。
「妖魔と肉薄した際に頼れるのは、確かに土地神の力かもしれません…………でも、それ以外にも使える武器があればもっと強くなれます」
「涼香さん………」
意外や意外。喧嘩でもおっ始めるかと思いきや涼香は白神に寄り添う。柔和な笑みを浮かべ、蒼い鎧を纏う少女の肩に手を置き、
「せっかくお父さんの作った殻装を十二分に使いこなせないのは見ていてもどかしいですからね。これから徹底指導です!」
「え、え? 涼香さん?」
涼香は白神の殻装の背部をつかみ、車輪でゆるーく走行し支部内へ消えていく。なんというか、どこかで見覚えのある光景に手を振って見送る。
「う、うるはさん! 助けてー!」
「お達者で〜」
俺にはどうすることもできん、がんばれ白神。
「白神、南無」
合掌。白神が俺に受けていたように素晴らしい指導を受けさせてもらえるだろう。まったく羨ましい限りである。
「いやいや、同じ年頃の仲間ができて我が娘ながら嬉しそうだ!」
博士の下に戻ると、嬉しそうに笑っていた。
「………しかし、白神クンの不調といい君の不調といい土地神と従者はなんらかの繋がりがありそうだね。今までこんなケース見たことないけどなぁ」
純粋な疑問を口に出す博士にすっとぼける他ない。ハハハ、と苦笑してごまかしていると左腕をがっちりと掴まれる。
「ちょうどいい機会だし、従者であるキミのことを調べさせてもらう! ハハッハハー!」
「ちょ、ちょっと博士⁉」
涼香の兜を持っていることもあり、無理に振り払うこともできない。
「本部ならしょっちゅう行っている簡易的な検査だよ! 心配いらないさ!」
「いや、マジで結構なんで! ちょっと、博士!」
「ハハハ! ボクも楽しくなってきぞぉ!」
重心を落としてもズルズルと引きずられ、博士の言う『検査』へ向かう羽目に。




