1-3(3)出撃準備②
「………」
なんともまぁ、不用心である。白神が殺したいほど憎んでいる(勘違いだが)存在は、今こうして刀を手に取っているというのに。
『おはようございます土地神様。どのようなご用件でしょうか?』
「うぉ」
不意打ちよろしく、女の音声が話しかけてくる。というより朝緋の声だと今更気付く。
「あー前と同じで力の充填を」
『了解。両手で柄をお持ちください』
言われた通りに刀を両手で掴む。一瞬わずかに鞘から光が漏れ、元に戻った。
『充填終了。全容量の四十パーセントを充填しました』
「え………少な」
試しに鞘から引き抜くと、桜色の光は刀の上身半分も覆っていない。切っ先に至っては鈍い銀色のまま。不恰好そのもの。
「おいおい、充填量間違ってないか?」
『土地神様ご自身の奉仕量が不足しています』
思えば……街中はパトロールする職員がゴミ拾いをしていたからほとんど綺麗になっていたんだ。まさか俺がやったことになっていないとは。本体でも頑張っていたのに…………
「で、でも! ゴミ拾い以外にも妖魔を倒したりしたぞ!」
刀に抗議するのも滑稽ではあるが、こんな無様な状態はまずい。
『申し訳ございませんが、妖魔討伐は土地貢献に含まれません』
「えっ?」
これは意外。人間に仇なす妖魔を討つことが土地神の生業と聞いていたのに、どう言うことだ?
「困るよーそこを何とか」
『……………』
無言。
「おい、なまくら! 肝心なところでダンマリか!」
ブンブンと振り回してみるものの、用件を終えた刀は黙りこくってしまった。
「漆葉さん、さっきからどうしたんですか?」
奥の扉が少しだけ開き、白神が顔を覗かせる。腰から下は既に武装していたが、上半身は真っ黒なインナーを胸に抱えているだけで無防備だった。
「あー気にするな、こっちの話。………つーか、ちゃんと着てから来いよ」
刀を振りながら白神の上半身を顎で示す。
「あっ! し、失礼しました!」
なんとも緊張感のない。さっきまでの威勢は何だったのか。
「………ま、なんとかなるだろ」
刀への抗議は諦め、納刀する。無駄遣いしなきゃ一回分の戦いには間に合うだろう。
それから数分、白神が武装を整えて奥から戻ってきた。
「お待たせしました!」
少女は見慣れた青い鎧、もとい強化外装を全身に纏った姿でガッツポーズを取る。
「いつも思ってたんだが、重くないのかそれ」
「全然! 元々がとても軽い素材ですし、最新の技術で筋力補助も機能しているんです!」
「前線に出すんなら、むしろ俺に提供してくれよ…………」
「すみません、予算が決まっていて私の分までしか作れなかったんです」
気まずそうに白神はかゆくもないであろう頬をかいた。
「じゃあ、あの壁にかけてあるのは?」
武器庫(仮)の壁には白神が装備している外装パーツが置かれている。色は様々だが、籠手、胴、兜、脛あてなどなどある。
「あれは試作品ですね。開発段階で一定の水準に達しなかったので資料としてだけ置いてあるんです」
「どうせ使わないなら俺が使ってもいいよな!」
「あ、漆葉さん!」
壁に安置されていた左の籠手パーツをもぎ取りはめようとする、が入らない。
「あらら?」
他のパーツもつけてみるが、そもそも入らない。
「当たり前ですよ。漆葉さんじゃ小さすぎますから」
なにやってんだと言わんばかりに白神は目を細めた。
「どうせ入らないんですから、さ! 行きますよ!」
襟元を引っ張られそうになるが、負けじと振り払い粘る。
「あーちょっと待った! あとこれだけ!」
無造作に散らかした上で、壁に残っていた真っ白な籠手をとり、左手に通す。若干窮屈ではあったが、装着に成功する。
「お! できた!」
右手で籠手をノックしてみると、コンコンと高い音が返ってきた。うん、硬い。
「準備万端ですね、早く行きましょう!」
戦闘態勢が整ったところで、部屋を後にした。




