1-2(1)妖魔の土地神!?②
「というわけで実践あるのみ! さぁどこからでも来てください!」
『ドゥ』を出てすぐ環境省支部に半ば──というか襟を掴まれて連行された俺は、道場の真ん中で白神と対峙していた。それも白神は前に見たあの鎧を身につけて。兜だけ被らずに、俺に土地神の刀を渡した。
「どっからでもって……何か間違いがあったらやばいだろ。というか、なんで白神だけ完全防備なんだよ」
というか重い。こんな鉄の棒振り回したら疲れる。
「土地神が本気を出したらひとたまりもないので! 力の暴発さえなければ、大丈夫です!」
「………暴発したら?」
「…………」
白神は一瞬『何を言ってるんだろう』と言わんばかりにきょとんとした表情の後、兜を装着して、
「その時は、その時です!」
元気いっぱいのガッツポーズだった。
確信した。こいつは脳筋だ。話が通じない。種族とか、そう言ったものを超えてる。前にもいたな、こんなやつ。
アホらし、と普段ぼやく言葉が脳裏に溢れる。どうやって早く切り上げようか。そんな思考を巡らせていると白神が距離を詰めてきた。
「はっ────!」
妖魔として相対した時よりかなり遅いだが、白神の獲物が振り下ろされる。
「な!」
咄嗟に両手で刀を持ち上げ斬撃を受け止める。突き放すように押し返す。
「お、おい! 危ないだろ!」
「私は本気ですよ」
白神の具足で板張りの床が軋む。表情は兜で見えない。抑揚のない声だけ返される。
「土地神の力をもっているなら、その能力を存分に碧海の為に振るってもらいます。だから漆葉さん………行きますっ!」
少女の両足は一瞬床にめり込み、一気に俺目掛けて跳躍した。
「はぁぁあっ!」
青みがかった剣が唸り、横一線に薙ぎ払われる。俺は刀を縦にして受け止める──ものの衝撃で吹っ飛ばされる。
「うぉっ!」
床を豪快に滑る。痛みに悶えながら立ち上がろうとしていると、眼前には既に白神が襲いかかってきていた。
「く──このっ!」
反撃。両手に力を込め、刀を振り上げ構える。白神の突進に合わせて一気に振り下ろす。
「甘い!」
視界から白神が消える。否、視界の端、俺の右側に回り込み、得物である剣の切っ先が迫っていた。
(ヤバい────!)
死ぬ。もう擬態を解いて応戦する他ない。思考が行動に移る寸前に、時が止まる。
刃先が眉間を突く刹那、世界が緩慢になり機械音が頭を過ぎる。
『土地神の危険を予測しました──充填した残量で緊急回避に移行します』
全身に電流が駆け巡り最速で回避するように命令される。屈んだ姿勢のまま両足の裏に力が込められ、右に吹っ飛ぶ。軽やかな重心移動ではなく、そのまま道場端の壁に激突する。
「ぐぁっぶ!」
壁にめり込み木造のそれにヒビが入った。
「っつ〜。なんなんだよもう……」
めり込んだ壁から抜けようとすると、目の前に白い手が伸びてきた。
「使えましたね、土地神の力」
「あぁ、そういう」
俺を追い込んで能力を引き出させたのか………発想が過激すぎる気もするが、白神なりのやり方なのだろう。
「よかった! 新たな土地神様誕生です!」
逆上がりが初めてできた子供のようなはしゃぎようだが、はっきり言って迷惑である。
(アホらし………)
正直土地神の力なんぞないほうがよかった。と胸中でぼやく。
しかし力が引き出されるのが擬態でピンチの時のみとは、なんとも割に合わない。仮に元の姿で使えたとしても、現状あれで窮地に陥ることはまずない。ますますいらない。
「こんな能力がすごいのかねぇ」
本来の自分と比べると悲しいほどに弱い。所詮擬態というところか。
「もっとやってみましょう! この調子ならすぐに使えるようになりますよ!」
「む、無茶言うな! お前本気で斬るつもりだっただろ! 誰がやるか!」
危うく妖魔に戻ろうか迷ってしまった。
「そ、そんなぁ」
潤んだ瞳で少女は訴えかける。
「無理なもんは無……り……? あら?」
右手に握っていた例の刀に異変が起きていた。白銀の刀身は桜色の輝きを放つ。白神と対峙していた時はもっと鈍い銀色の光だった気がするが。
「なんだこれ」
「………それは本来の、土地神の力が込められた刀の状態です。それがあれば、あの黒蜥蜴にも負けません!」
「へぇ〜どれどれ」
試しに一振り。切っ先から刀身と同じ桜色の光が迸り、板張りの床から向かいの壁を伝い、天井まで切り裂いた。
「「……………」」
やっちまった……
背中の冷や汗を感じつつ沈黙しながら白神に目を移すと、無邪気な子供のような眼差しでこちらを見ていた。




