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ミミックボランティア 留年妖魔と偽りの土地神少女  作者: ムタムッタ
Chapter 1 留年妖魔の帰郷

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1-1(5)目覚め②



「はぁ……はぁ……ったく、なんつー馬鹿力」


 店内を逃げ回り、隣接する立体駐車場の屋上にあった車の陰に身を隠す。辺りに人気はなく、避難自体は成功したらしい。


「どうした! 威勢が良かったのは最初だけか!」


 妖魔は挑発してくるが、とても乗る気にならない。


「土地神頼りの人間どもでは歯が立たないだろうな ハッハッハ」


 本来妖魔の身分なので気にする必要はないのだが、偽物にそこまで言われる筋合いもないわけで。


「やかましぃな。お前らだってその土地神様が怖いから無抵抗の人間から襲ってるんだろ」


 妖魔の嘲笑が止まる。つい口が滑った。

 ………もしかして、怒った?


 機嫌を伺う前に、空から軽自動車が降り注ぐ。駐車してあった車と衝突し、激しく爆発する。


「うぉっ!」


 爆風に流され、転げ回る。体勢を立て直して立ち上がろうとするが、目の前に大きな影。


「遊びは、ここまでダァ!」


 右脚で蹴り上げられる。すかさず左腕で構えたが、妖魔の足はその腕を折りながら俺を吹き飛ばした。受け身も取れず、アスファルトに叩きつけられる。


「がはっ…………や、やっべぇ」


 軽口だけはまだ出るものの、肘から先がきれいに九十度曲がり、直後激痛が襲う。


「力もないのに出しゃばるからこうなるんだ」


 妖魔は地面を踏み鳴らしながらこっちに近づいてくる。そして、倒れた視界の上で止まる。

 力はある。ただ出せない状況だから出してないのだ、なんてことを返すこともできない。


 仕方ない──妖魔もとに戻るしかない。


 妖魔に戻るのに、特別なことはいらない。ほんの一瞬、ひと呼吸で前触れなく戻れる。


「終わりだ!」


 頭蓋を潰そうと妖魔は腕を上げる。両目を見開く。妖魔に戻る合図で酸素を吸い込む。コンマ数秒後には反撃する瞬間に、割って入る影があった。


「はぁッ──」


 銀色の軌跡が弧を描き、妖魔を切り裂いた。そのまま奴はよろめいて後退する。


「大丈夫ですか!」


 青白い甲冑のような出立から、女の声。前に聞いた。土地神、白神夕緋だ。


「大丈夫、じゃないかも……な」


 痛みを我慢しながら左肩を上げて怪我を見せる。


「すぐに応援が来ます、じっとしててください!」

 少女は俺の前で、再び剣を構える。

「来たな土地神ィ! そこの人間を守りながらどう戦う!」


 停めてあった車からタイヤを二つもぎ取り、妖魔が一直線に放る。


「はっ──!」


 白神は投擲物に怯むことなく突っ込み、二つとも刀で切り裂く。そのままさらに踏み込み、妖魔の間合いに入る。


(すげぇ)


 感嘆を漏らすまもなく、人間が妖魔を追い詰めている。やはり白神の持つ刀は脅威だ。

 視界から二者の姿が消え、衝撃音のみ耳に届くようになった頃合いを見て、上体を起こした。


「く……思ったよりヤバいな」


 本当は絶叫したいくらい痛いが歯を食いしばる。どうせ元に戻れば擬態も修復される、それまでの辛抱だ。

 気合を入れて立ち上がった途端、何かが車に飛来する。フロントガラスを割るように、白神が叩きつけられていた。兜は割れ、身を守る外装も壊れている。


「…………マジかよ」

「土地神とはいえ、結局一人だと大したことないな」


 視界の端から妖魔が現れ、白神を片手で吊り上げる。


「こ、この………!」

「ぬん!」


 なすすべもなく、白神は俺の前に投げ捨てられる。


「ち、力が……出ない……」


 状況理解が追いつかない様子で、白神が呟く。


「お、おい!」

 左手を押さえつつ、白神に駆け寄る。

「う、うるは、さん………逃げ、て」


 覚えてたのか、俺の名前。


「逃げる必要はない。ここで土地神もろとも消し去ってくれる!」


 妖魔は白神を叩きつけた車を持ち上げようとする。不意に右手を少女に掴まれる。


「逃げ、て!」

 こんな状況でも、少女は他人の心配をしていた。

「………はぁ」


 脳裏に似たような光景がフラッシュバックする。白神に似た女が、俺の両腕の中で静かに眠った奴の──遠い過去の記憶。



『キミのその手は、生き物を傷つけるものじゃないよ』



 傍らにあった刀に視線が移る。


(………アホくさ)


 ただのおつかいがとんでもないことになってしまった。



『人間もキミの仲間もみんなを幸せにできる、だから──だからあとは、キミに任せる』



 昔看取った女の言葉。……結局『みんな』を幸せにしたためしはないが、この状況を打破しなければ幸福など訪れないだろう。


(まったく…………アホらし)


 答えはまだ探している。さっきとは状況が変わった。土地神のいるここで擬態を解くわけにはいかない。


「ちょっと借りるぞ」


 白神の握っていた刀を奪い取る。何かできるわけでもないが、擬態での最後の抵抗だ。


『新たな土地神を認識しました。仕様を変更、緊急充填を開始します』


「うおっ! 刀が喋った!」


 刀からさっきから俺に語り掛けていた女の静かなと共に、刃の根本、柄から切っ先に向けて刀身がゆっくりと桜色に染まり始める。


「な、なんだその光は!」


 こちらの光景を目の当たりにして妖魔は動きを止めた。


「しらねぇよ!」

『充填完了しました』


 声と共に、全身に活力が巡る。折れていた腕が一瞬にして元に戻った。


「今更足掻こうが無駄ダァ!」

 妖魔は一気に車を持ち上げ、こちらに放り投げた。放物線を描かず、真正面に襲いかかる。


「ふぅ……」


 唐突な状況にも関わらず、とても落ち着いている。まぁ、いざとなれば妖魔に戻ればいいか。

 両手で刀を握りしめ、真上に振り上げる。


「ラァァッ」


 力任せに、一気に振り下ろす。半円を描いた切っ先から桜色の閃光が放出され、飛来する車両を真っ二つに切り裂く。分断された車は左右に飛び、屋上から落下していった。爆発音が届く前に、一直線に疾駆する。


「あぁぁぁぁぁぁぁ──」


 絶叫と共にもう一度刀を構え、動揺する妖魔に斬りかかる。


「な、お前は──」


 言葉を交える前に、斬撃を浴びせる。鈍い衝撃が両腕に走る。刃は右肩から袈裟斬りに軌跡を描いた。


「ぐはぁっ!」


 妖魔の口から黒い液体が吐かれ、全身に浴びる。構わず刀で刺突を繰り出そうとすると、妖魔は後退した。


「ぐ、ぬ、ぬぅ……予想外だが計画に狂いはない……命拾いしたな人間ども」


 追い詰める前に妖魔は屋上から飛び降りた。


「あ、おい! ………あの偽物………」


 ここまで自分の姿で滅茶苦茶に荒らされるとおつかいどころではない。


「…………」


 いつのまにか回復した左手、そして銀色に戻った刀を見つめる。


「一体なんだったんだ………」


 無我夢中で暴れていたから今になって疑問が浮かぶ。女の声………夢に出てくる女のような………


「………あ、あの! ………その、力」


 背後から兜を脱いだボロボロの少女がよろめきながら歩み寄ってきた。体勢を崩しそうになるので、やむなく受けとめる。


「おっと……動くなよ、危ないぞ」


 ふと受け止めた拍子に白神の頭に触れてしまう。その瞬間、自分の体から力が抜け、白神の方へ流れ込んだ。ような気がした。


「あ………え? 体が」


 ついさっきの状態が嘘のように、白神は元気に立ち上がった。


「な、治ってる!」

「………マジかよ」


 これも土地神・白神夕緋の力か。と、一人驚いていると、白神に両手を握られる。



「うぇ?」

「やっと見つけました──本物の、土地神

様!」


 突拍子もないセリフに開いた口が塞がらない。


「は? え? おれが?」


 妖魔だぞ? お前らの敵だぞ? 確かに今は人間に擬態しているが…………こいつは何を言ってるんだ?


 混乱する俺を前に、白神は満面の笑みを浮かべていた。




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