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北へ

 天覧試合から二月が経過した。


俺は、今北方の辺境で魔獣討伐に勤しんでいる。いや、廃嫡されたわけではない。加護持ち3人を破っての天覧試合の優勝の効果は絶大だった。

 

 天覧試合後の式典では、国王陛下より「最高の魔法使い(プリームス・マグス)」の称号を賜った。「王国最強の魔法使い」は市井で呼ばれた俗称だが、こちらは国家公認の正式な称号だ。加護持ち3人を倒した魔法使いを特別な魔法使いとして扱うことで、加護持ちが弱い訳ではなく、倒した方が特例なのだということにしたい国側の思惑により今回初めて作られた、「国家を代表する魔法使いに与えられる称号」。同時に加護に匹敵する恩恵も受ける、軍役は俺が赴けば領民の軍役は加護と同じく免除されるのだ。

 この称号と共にウォーディアスの家督は俺が継ぐことに決定した。


「三年連続天覧試合優勝。三人の加護持ちを破り、伝説の域であった七節魔法を操った実力。『最高の魔法使い(プリームス・マグス)』の称号に相応しい。ウォーディアスも素晴らしい後継に恵まれたものだ」


 天覧試合優勝を祝う席で国王から賜ったこの言葉は、八年間廃嫡の瀬戸際にいた俺にとっては福音だった。国王陛下の保証付だ。これで家中の誰も文句は言えない。


 父上からも後ほど、2人きりになった時に、

「よく耐え抜いて後継の座を掴み取った。立場上後押しはできなかったが、お前は私の誇りだ」


との言葉をいただいた。ちょっと泣きそうだった。思えば、「魔法を使えない加護」という理由さえあれど、加護持ちを後継にしないというのも相当反発があっただろうことは想像に難くない。口には出さないが、父上の力で抑えていてくれたのだろう。ありがたい話だ。


 しかし、後継が確定した事でトラブルもまた増えた。


 まず、内々には婚約関係を継続していたが、表に出ることがほとんどなかった婚約者問題。式典の最中から気配は感じていたが、父上の元に婚約の申込みが殺到した。クレアメネスが力を入れていないなら実権を握れるとも思ったのか第二夫人の打診まできたそうだ。俺としては、俺の実力を信じて実家を説き伏せ婚約を継続してくれたフローレンス以外の選択肢はない。そのことは父上にもはっきり伝えてある。


 なお、式典中はフローレンスとアルミアががっちりガードしてご令嬢を寄せ付けなかった。


 ウォーディアス領内のこともある。アルナードに肩入れするのは仕方ないが、民間の冒険者を養子縁組して天覧試合に送り込んでくるのは少々やりすぎだ。男爵家には釘を刺しておかなければならない。下手したら領を割る騒ぎとなりかねない。


 そんな時だが、俺とアルナードには国家からの命令が下された。俺には王国の北の辺境での魔獣狩りだ。現在四人いる成人した王国の誇る加護持ちは、二人は王都と国内の要衝に、二人は辺境での治安維持に努めている。加護持ちを倒し、それ以上の称号を貰ったからには加護持ち並みには働いてもらうということだ。


 同じく、三回戦で戦ったアレクセイ殿も、西の辺境での魔獣狩りの任務が与えられたそうだ。こっちは加護なしの魔法使いに負けた汚名返上のため、家名を上げるためにしっかり働いてこいという公爵家の意向のようだ。


 若年のアルナードには、国内外の魔法闘技大会へ参加が待っていた。天覧試合で評価の下がった加護持ちの強さを証明するために一年ほどは、ひたすら戦って優勝してこいとのお達しだ。


 もう二つばかしの大会で優勝し、はやくも「魔法使い殺し」と呼ばれているそうだ。我が弟ながら恐ろしい。もう一回やったら勝てるかわからないからもう二度と戦わないようにしよう。


「レスティ様、見回りの時間です」


 ティアさんが部屋まで声をかけに来てくれた。魔法使いは一人で一軍以上に値する兵器のため、辺境への配属を命じられたのは俺一人だが、副官としてティアさんがついてきてくれた。アルミアとフローレンスから悪い虫がつかないようにお目付け役をおおせつかったらしいが、五節魔法が使えて魔獣狩りに詳しい一流冒険者の存在は非常にありがたい。本当に彼女には頭が上がらない。


 ちなみにティアさんは冒険者の仕事もこなしてはいるが、ウォーディアス家のお抱え魔法使いにして技術顧問でもある。結局、大容量の魔力を持つ一部の上級貴族以外は大火力広範囲魔法の連発は無理があるので、下級貴族の師弟はプライドを捨てて冒険者の技術を身につけた方が役に立つのだ。公的な場では、儀礼的に広範囲魔法を使うが、自領の治安維持などお偉いさんの目が届かないところであれば収束魔法や吸魔を使った方が無駄がない。という事でウォーディアス領内では積極的にティアさんからの技術指導が行われており、概ね好評だった。まあ、貴族の誇りだなんだと言ったところで命には代えられない。


 今回の天覧試合の影響で大貴族の間でも、幻獣の形に圧縮した収束魔法が流行りはじめているという事なので、今後は大手を振って収束魔法が使える事ようになった。ピクシーやペガサス、不死鳥やヒュドラが舞う魔法戦はさぞ見応えがある事だろう。


 さて、お仕事だ。


 俺が赴任した王国の北方は、この国に四人いる軍に所属した正式な加護持ちの一人、リンドブルム公爵の領地だ。北にはアラーバマス山脈という踏破困難な峻険な山々が並ぶ。その山々から降りてくる魔獣を国境に近づけないのが俺たちの仕事だ。

 

なんでもここ最近魔獣の数が増えているという事で、王都に増援の打診をしていたところ、天覧試合の成果から俺にお鉢が回ってきたという事らしい。しばらくは半年毎に領地と辺境の往復になりそうだ。


「第一小隊は俺について巡回コースの1番、第二小隊は巡回コースの二番、第三第四小隊は砦で待機しつつ訓練。何かあれば伝令を飛ばすように。出発!」


 小隊員は魔獣退治に慣れた軍人で構成されており辺境の要衝をおさめるリンドブルム公爵家に相応しい腕利きだ。三分の一は魔法使いで構成されており中には四節魔法を打てるものもちらほらいる。優秀なだけでなく、魔獣退治が生活に直結しているだけあって、魔獣を倒すことを重視しており、貴族らしい先入観がない。これだけ炎魔法以外をメインの属性として使うものが多い魔法使いを見たのは初めてだった。


 各々が自分の属性に合った魔法を使用して、効率的に魔獣を倒すことを心がけている。収束魔法や吸魔もあっという間に受け入れられた。ティアさんはここでも人気者だ。「姉御」などと呼ばれて慕われている。かくいう俺も、素材を無駄にしない氷魔法を味方を巻き込まずに選択的に放つことができるという事で、赴任当時から尊敬の目を集めた。


 他領ということで一抹の不安があったが、北方は何というか武骨で率直な人柄のものが多く、中央よりだいぶ居心地が良かった。魔獣退治は忙しいが、後継問題で悩まされた六年間を思えば天国だ。しばらくはこんな環境もいいかもしれない。


 おっと、北方の特産物と作物を調べておこう。



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