女神の加護と戦うには限界を超えた人の力が必要なようです
氷壁を消す。
アルナードの右の拳が迫る。
アルナードの顔が驚きに歪む。
自殺だと思ったのかもしれない。
攻撃魔法を消し、魔力防壁を解除して、無防備な状態でアルナードの右拳を迎え入れる。
失敗すれば頭が弾け飛んで死ぬだろう。
身体強化した両腕で顔面に向かってくる拳と上腕を抑える。当たり前だがそんなものでスピードに乗った加護持ちのパンチを止めることはできない。顔面にパンチがヒットする。
ゴン!
重く体の芯まで響く衝撃。
一瞬、首がもげたかと思った。
だが、まだ生きている。
「なんで!?」
驚愕するアルナード。加護持ちの全力パンチを無防備に喰らって生きているのだ。それは驚くだろう。
瞬間。
左の手から拳撃が飛んでくる。これもくらう。驚きながらも一瞬で攻撃を選択するセンス。
やはりこいつは天才の部類だ。
連続する攻撃を全て喰らう。酷い顔になっていることだろう。
アルナードが距離をとる。
「痛いなあ」
顔を触ると鼻血に唇は腫れ、頬からも額からも出血している。
ぼこぼこだ。
「痛いなあじゃないですよ。何をしたんですか?」
アルナードの顔に驚愕と、うっすらと恐怖がみえる。俺も全力の魔法を「痛ってえ」で済まされた時はこんな顔をしていたんだろうか。
「魔法使いだからな、魔法を使ったのさ」
まだ種明かしはできない。もう一撃か二撃、それで準備が整う。身体強化で左から旋回しつつ背後から近接攻撃を挑む。
脇腹にカウンターで放たれた一撃を喰らう。
膝がゆれる。
崩れ落ちそうになる。
まだだ、まだ耐えろ!
両足を踏み締めて追撃の拳撃を待つ。
両手を拳撃に添えて誘導、顔面を撃ち抜かせる。
準備ができた!
「何故? 何故無事なんです? 僕の拳打は魔獣の頭でも吹き飛ばす。生きてるのが不思議ですよ?」
まだ種はばれてないらしい。困惑しているアルナードに対して間合いをとる。最後の勝負だ。
「俺にとっても賭けだったよ。多分、今この場でしかできない方法だ」
言いながら、魔力を集中する。
残りの魔力はおよそ7割。
種明かしは簡単だ。
俺は魔力を吸収することができる。
そして、アルナードの力の秘訣は膨大な魔力による身体強化だ。
理論上では魔力を全て吸収すれば、加護持ちの一撃といえど身体強化されていないただの肉体のみでの攻撃となる。
俺は防御全てを捨てて両腕のみ身体強化を行い、アルナードの四肢の、攻撃する部分のみに絞っての魔力の吸収を行った。
アルナードの魔力がここまで減ってなければ吸収しきれずに、残った魔力の破壊力で頭を潰され、一撃で死亡しただろう。なんども模擬戦を繰り広げ、現在も戦闘中のアルナードでなければ波長を合わせることができず、吸収自体が不可能だっただろう。
戦闘の中、直接魔力に触れる事で、少しずつチューニングを行った。それでも自信はなかったが、最後の賭けに成功した。
最初の一撃で死ぬ可能性もあった。
吸収が甘ければ、吸収が遅ければ、残った魔力の乗った拳で頭が砕けただろう。タイミングが早過ぎれば、膨大な魔力は直ぐに補充されて回復した魔力の乗った拳をくらう。
インパクトの瞬間に魔力がゼロになるように間合いとタイミングを合わせ、吸収を行う刹那の接触を可能とする強化を、接触する両腕だけに施して、残りの魔力は全て魔力吸収魔法に当てる。
全力で振り下ろされる剣に、斬らせる事なく刀身にふれるような、奇跡的な呼吸が必要だった。
今振り返っても何故成功しているのわからない。
全身が総毛立つ。
元々近接戦闘で戦う魔法使いなど他にいないので練習することなどできない。理屈の上では可能だが、リスクが高すぎて選べなかった手段。
一撃一撃を撃ちやすいように誘導して、攻撃体勢を予測して波長を合わせ、誘導した腕の、肩から指先までの魔力を吸収、というよりも強奪する。
全力で殴られた顔面はボロボロだが、戦いで減ったとはいえ元々膨大な魔力を持つアルナードの全力を十数発受けて吸収したのだ、こちらも相応に回復した。
そして、七割回復したのなら、アレが撃てる!
「魔力が回復している? まさか?」
こちらが勝負に出ようとしていることに気がついたアルナードが、一瞬にして覚悟を決めた。この切り替えの速さと決断力があいつの強みだ。最速最短で、一直線にこちらに向かってくる。発動前に潰す気だ。アルナードの髪が金色に輝く。
魔力の吸収にも気づかれただろう。拳打にフェイントを混ぜられたら近接戦闘での魔力吸収もあやうくなる。正真正銘ラストチャンスだ。
杖は全てなくなった、だがいまさら魔力を減らした状態の六節魔法でこいつに勝てるわけがない。やるしかない。
身体が壊れたって構わない。ここで勝たなければどのみち俺に道はないのだ。限界を越えろ、できそうでできなかったアレを撃つしか手はない!
最大の魔力を圧縮した超高密度の氷の竜、足りない、さらに圧縮に圧縮をかける。三階席まで届く立ち昇る魔力を人の身の丈の龍にしたもの、それを掌に入る範囲に圧縮、溢れそうになる魔力を速度に変換、弓矢よりも早く、剣の切っ先のように研ぎ澄ます。飛龍のように、光のように。体に残った魔力を全て注ぎ込む、脳が焼ける。腕が震える。内側から破裂しそうな両腕を無理やり押さえつける。ブチブチと何かが切れる音が聞こえる。視界が赤い。目から、鼻から出血している。この後はもうない。
黄金の閃光が迫る。
ギリギリで術の制御は間に合った!
「アルナード、これが通じなければ、お前の勝ちだ」
「瞬閃・凝集・極大・万象・凍結・蒼龍・剣」
「七節⁉︎ 嘘でしょ⁉︎」
アルナードの顔が驚愕に歪む。お前のそんな顔が見れるとは。
意識が飛びそうになる中、全てを術の制御に向ける。
「いけぇ!」
放つ! 今までの最速の魔法が、蒼銀の閃光となってアルナードに向かう。
黄金の閃光と蒼銀の閃光が交錯した。
それだけを確認して意識を手放した。




