星屑の記憶
校門付近には先ほどの喧騒はなく、人もまばらで、卒業式の看板を外して、職員が台車に載せているところだった。
「さっきの話だけど・・・私たちは何を残せるのかな?後世に・・・」
愛莉の問いに菜穂子が答えた。
「そんなに大げさな事じゃないよ。何かの協力者になればいいのよ。自分ができる事をして誰かに話したり、つくったり、何でもいいのよ。人間なんてちっぽけなものなの。自分で出来る事をそれぞれやって、あとは協力してすればいい。そうすれば自然にできているものよ。昔からよく言う、< お陰さまで・・・> あれは誰かのおかげで、今の自分があるっていう意味。それは親、兄弟、友人、知人、そのほかお世話になった人。愛莉ちゃんと紀子ちゃんは、まず大学でしっかり学んで、それから・・・ね」
「はい!」
そう言いながら、菜穂子は自分の車に向かって歩き出し、ふたりは元気に返事した。
「菜穂子さん、もう行くんだね?」
愛莉の寂しそうな声に菜穂子は静かに頷く。
すると、紀子が尋ねた。
「菜穂子さん、省吾さんと幼馴染だよね?二人に恋愛感情は存在しているの?」
紀子はそう言ったあと、愛莉を見た。
戸惑う愛莉に笑いながら菜穂子は答えた。
「私たち?年が離れているから、お兄ちゃんって感じね。それに、あんな人でしょ?ないなぁ!参考になった?紀子ちゃん」
「う~ん、どうかな?」
紀子はもう一度愛莉を見た。今度はむくれた愛莉が菜穂子に尋ねた。
「前に省吾さんが、男は幼馴染を忘れないって言ってたけど、女は?菜穂子さんは?」
しばらく菜穂子は考えて満面の笑みで愛莉に答えた。
「愛莉ちゃんと一緒・・・かな?」
「ズルイ!菜穂子さん!でも私と一緒なんだぁ」
口を尖がらせて愛莉が言うと紀子が聞いた。
「どうなの?愛莉」
「う~ん、それは内緒!っていうか、宇宙の謎と同じ!解いてみる?紀子」
「愛莉もズルイよ!」
紀子が突っ込むと、菜穂子が静かに言った。
「そうよね。人間の中に宇宙があるっていうもんね。そろそろ行くわ」
菜穂子はそう言うと、目の前の赤いスポーツカーの鍵を開けた。
「ホントに行くんだね?」
愛莉が寂しげに言った。
「また日本に戻ったら連絡するわ。その時にまた謎解きの経過を教えて!」
菜穂子は車に乗り込んだ。
「ありがとう。菜穂子姉ちゃん」
愛莉は涙を浮かべながら、従姉の名を呼んだ。
横で紀子も涙を拭っている。
「じゃあ、またね」
そう言ったあと、菜穂子は車の中から手を振りながら走り去っていった。
ふたりは見えなくなるまで赤い車を見送った。
「あ~あ、行っちゃったね」
愛莉のその言葉は菜穂子との別れのほか、三年間通った学校と隣にいる親友をはじめ、多くの友人への寂しさの言葉でもあった。
「三年間ありがとうね。紀子」
「何よ!湿っぽいし、最後の別れみたいに言って・・・愛莉らしくない!」
「ゴメンね。なんか、紀子ともう一緒に学校に通えないって思ったら・・・」
そう言いながら涙を流す愛莉につられて紀子も泣きだした。
「学ぶ道は違うけど、私たちには天観や謎解きがあるでしょう!行こうよ!いつでも、いくつになっても・・・自分たちの趣味でしたらイイじゃん!特に愛莉は本職になるんだし・・・ね、ワトソン君!」
「なんでぇ!ホームズがいい。まぁいいかぁ!いっぱい行こう。まだまだ謎解きも終わらないし、紀子は歴史の分野から私は天文の分野から解いていこう。菜穂子さんも言ってたしね。今からはひとつの分野では無理だって、色んなところから協力しないとね。まさに、私たちが協力者になればいいのよ」
愛莉がそう言ってハンカチを出して、涙を拭いている手を止め、空を見上げて言った。
「紀子、ケータイの天文ソフト開いて!」
驚く愛莉の顔を見て紀子は、ケータイをポケットから出しながら振り返った。すると、青空に眩しい光がひとつ輝いている。
「あれ、太陽じゃないよね?太陽は愛莉の後ろにあるもんね」
紀子がゆっくりそう言うと、慌ててケータイで天文ソフトを見た。愛莉は目頭を押さえながら言った。
「ずっと見るのムリ。目が痛い」
愛莉は紀子のケータイを覗き込んだ。
「愛莉、かざすよ!」
そう言って紀子は、ケータイを輝く光に向けた。ケータイを向けた方角にある星座を、天文ソフトが表示して、どの時間、どの方角でも今ある星座を表わす。
ケータイを見ながら紀子は言った。
「さそり座のアンタレス」
愛莉は頷きながら言った。
「いよいよ来たのね。超新星爆発」
ふたりとも言葉は少ないが興奮を抑えきれない様子である。数百年に一度見られるか見られないかの現象に興奮せずにはいられない。アンタレスは愛莉が天体観測会の時、皆にレクチャーした、次に超新星爆発を引き起こす可能性の最も高い星のひとつであった。
「このあと、どうなるのかな?」
紀子の疑問に愛莉が答えた。
「数か月間、昼は今みたいにふたつ太陽があるように輝いて、夜は満月よりも明るく、それで静かに消えて行くんだって。それから、今度は星雲に姿を変えるんだって。五万年前の人たちもこうやって、ベテルギウスが超新星爆発したのを見ていたのかな?それから五万年経って、いま私たちがインフィニティ星雲を見ている。五万年前の人はどんな気持ちで見ていたのかな?そしていま私たちは、新たに超新星爆発を見ている。五万年後の人
にはどういう風に見えるのかな?」
そう愛莉が言うと、今度は紀子が言った。
「きっと今の私たちと同じだよ」
「そうだね!」
これからの将来に希望と不安で胸がいっぱいのふたりは空を眩しく眺めた。
「希望で胸が膨らむけど、紀子は私より大きいもんね」
そう言って愛莉は紀子の胸を触った。
「ちょっと!愛莉。確かに・・・」
紀子も愛莉の胸を触ってそう言った。ふたりは太陽がふたつ輝く青空を見上げた。愛莉と紀子、ふたりの未来は超新星爆発を起こした星よりも眩しく輝いている。
(完)




