畑を作る!
♢9♢
「だだいまー」
玄関を開け、そう人がいる家の中に声をかける。
昨日までは自分だけだった家に、人の気配がする。
……ただ、誰もお出迎えにこない!
「出迎えもできんのか! せめておかえりー、くらい言わんか……何をやってるんだ。お前たちは」
「「トランプ」」
楽しそうだな。儂はひどく疲れているというのに。
流石は遊び人。暇さえあればこんなことをしてるのか、全員で。
「お前ら、やることをやって遊んでるんだよな?」
「「…………」」
全員が同じ反応をする。1人もこっちを見ない。
まさか、何もやってないのか? 一日中遊んでたのか?
あー、こいつらもイライラする!
「──言われたことをすぐにやれ! 全員外に放り出すぞ!」
「そんなこと言っても大目に見てくれますよね?」
「そんなわけないだろうが。勇者が一番ダメでどーするんじゃ!」
もうあれだ。もう、ボッコボコにしよう。全員。
「──痛い」「……ぐはっ」「アウチ」
オラオラしよう。
「ちょっと待って! シャレにならない。死んじゃう……」
「「無言で攻撃しないで!」」
効果音がないから分かりにくいと思うが、ヤロウ共はチンピラたちのようになっていく。
ヤツラのように地面に埋めてやろう。首だけ出して。
「「ギャーーーーーー!!」」
さて、これでヤロウ共は土の中。残るは……。
「イヤ、こ、こないで。次からちゃんとやるから……ね?」
「儂は指示して出掛けたよな? それぞれに仕事を割り振ったはずだ。アンはヤロウ共をちゃんと叱ると思っていたのに。自分も一緒になって遊んでいるとは……」
「ごめんなさい。だから、ゆるして」
「今、ヤロウたちは土の中。家の中には儂ら2人しかいない。何をしていても外には聞こえない。ぐふふふふ……」
お仕置きだから。多少は許されるはず。
昨夜は一緒に寝てくれなかったし。
「きゃーーーーーーっ」
少しだけイヤラシイことをしました。
そのおかげで少しだけイライラがなくなりました。
さーて、明日からの仕事を説明するか。
「反省したか?」
「しました。だから出してください」
「……謝ったのに、あんなことするなんて」
生首が三つ生えている。畑にしようと思う家の前に。
庭と言ってもいいかもしれんな。ひろーい庭と。
その生首の前に儂とアン。
「貴様らの明日からの仕事を説明する! 否定的な意見を発せば、またドメスティックなバイオレンスが吹き荒れる。嫌なら大人しく作業に従事しろ。作業開始は朝5時からとする。1人でも遅れれば連帯責任。全員平等にしばく。アンもあれで許されるのは今日だけじゃからな? 明日からはヤロウたちと同じく扱う」
「……それで、何もないここで何を?」
「畑を作る」
「──そんなダサい作業、嫌だ! 勇者関係ない!」
「じゃあ、勇者はやんなくていい。そこで一夜を明かせ。ほれ帰るぞ」
勇者以外の2人。スケさんとカクさんを生首から解放してやる。
ズボッと音がして野菜を収穫するように引っこ抜ける。
「夜に徘徊するモンスターに出会わないように祈るんだな。そこから自力で抜け出るのは不可能。きっと明日の朝には……──想像したくない」
「──嘘です。俺もやります! 一生懸命やらせていただきます!」
「なら、仕方ない。今回は大目に見よう。アン、儂らちょっとやることあるから晩飯の用意しておいて。お風呂も沸かしといて」
帰ってから晩飯の支度をしたんじゃ、めんどくさいからな。
「やる気のある勇者くんが一生懸命やってくれるらしいので、明日の準備を今の内にやっておく! これを持って走れ!」
「杭……どうするんですか? これを?」
「杭は打ち込むに決まってるじゃろ。これ全部立てるまで今日は終わらないからな? 早く始めた方がいいと思うよ。明日も5時からだし」
「そんな無茶な」
「ウルトラスペシャルなコース設定だから。朝までかかったら、そのまま次の作業に入るからな? 今日は遊んで英気を養っていたし、丸2日くらい寝なくてもいいよね?」
「すごい数の杭があるんですけど、これ全部……」
「モンスター除けの柵にするから。目印は必要じゃろ。柵の中は全部畑にする。印というか、道を挟んでこっち側は全部畑にする予定だから。杭はなくなったら用意するから遠慮なくやってくれ! ほれ行け!」
勇者も生首から解放しこれで男3人。
頑張れば何とかなるじゃろ。
「絶対終わらない……」
「役割分担して効率よくやればいいんじゃ。儂、黙って見てるから。飽きたら帰るし、早く取りかかれ」
畑は作る。ついでに勇者たちも鍛える。
最初は体力から。技術は後からでもつけられる。
遊び人に足りないのは体力と根性。