買い物に行く!
♢14♢
次の日の朝。早朝の作業も終了し、朝ごはんも食べ、少し休憩したらヤロウたちは筋トレです。
「……きつい。これが毎日続いたら死ぬ。というか午後からもあるとか死ぬ」
今日も勇者はこんなんなので、飯作りはアンが担当です。
きっと勇者は料理しないと思う。できるできると言うばかりでやらないと思う。
「少し出掛けてくる。筋トレメニューは作っておいた。特に勇者、サボらずにやれよ? スケさんカクさんは見張ってやらせろよ。儂らは出掛けてくるから」
「──どうしてアンだけ一緒に! ずるいぞ!」
「黙れ。儂はヤロウとお出掛けなんてしたくない!」
ただの買い物であってもな。
「……どこにいくの?」
「買い出しだ。この家に5人分の食料は無い。少し買いだめに行く。お前らも欲しいものがあったら言えよ。聞くだけは聞いてやるから」
買い出しのメモを作っていこう。とはいえ、ほとんど買わないといけないからメモは必要無いかもしれんがな。
今日の買い出しで1週間分くらいは買いだめたいな。まず米をけっこう使う。1人の時とは違う。それから──。
「「──が欲しい!」」
全然聞いてなかった……。
まぁ、買うとは言ってないしいいじゃろ。
「わかった、わかった。あったら買ってくるから。だから、ちゃんとやってろよ?」
もう出発しよう。
店は開いてるし、早く行って早く帰ってこよう。
「アン、もう行くよ。お昼までは帰ってこれるようにね」
「じゃあ、行ってきます」
意外。大人しくついてくるとはな。まあ、何もない場所じゃからなここは。
買い出しであったとしても出かければ、気晴らしになるはず。儂はアンとデート気分!
今日は週に一度の特売日。チラシはないがあっちで確認すればいい。
「……家の裏なんだけど。買い出しに行くんじゃなかったの?」
何故だかアンは儂から離れていく。
目的地は家の裏じゃが……そんなに身の危険を感じてるの?
「誤解があるようじゃが、別に中央や町にいく訳ではない」
「それじゃどこで買い物するっていうの!」
隠してはいないが週一でしか使わないから、家の裏に持っていってあるドアに手をかける。
「ドア? ……どうしてこんなところに。それ開けても何もないでしょ」
ドアがポツンと立っている。
ドアはドアでしかないが重要なのは鍵。
鍵穴に鍵をさし、鍵を回す。
「アン、ここから先は口外禁止。勇者たちにも言うなよ? 見たもの聞いたこともナイショにしろよ」
ドアノブを回しドアを開くと、向こうの景色が見える。そこは不毛な大地ではないところ。おそらく世界が違う。文明とか異なっていると思う。
陽の光が降り注ぎ、人々が沢山見える。
アスファルトで出来ている4階建ての建物。
「どこかにある何でも売ってるお店。アクマート。ここはその屋上駐車場に繋がっている。ほれ、行くぞ」
「……嘘。何がどうなって」
それは答えられない。この事は、おそらく神も知らないだろう。
世界中で自分しか鍵は持ってないし、何故鍵を持っているのかもよく覚えてない。
「ショッピングモールというらしい。いろんなお店があるぞ? 1人では食料品部分にしか行かんが、今日は食料品以外にも用がありそうじゃからな」
「反対からはやっぱりドアにしか見えないのに。こっちからは中がある」
「この先には勇者も魔王もない。一般客と揉めなければ何の心配もいらん。そんなところだ」
アンに先に行かせるのは酷なので、自分がドアをくぐり向こうから手招きする。
おっかなびっくりではあるが好奇心には勝てなかったようで、アンはこちら側に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。ドアをお預かりします」
そう人間の見た目ではない、男であろう警備員の格好のヤツが話しかけてくる。
「──ひぃ、な、なにこの人?」
アンは男の顔に驚いているようだが、これくらいのヤツは自分の世界にも、少なくとも魔王の部下にはいると思う。
「頼む。今日のチラシが欲しいんじゃが、どうしたらいい?」
「でしたら受付で申していただければ。ドアはこちらに……帰りにお間違えないように」
ドアを駐車場の車一台分のところに置き、男は去っていく。
「アン、念のためドアの形や色。この場所も覚えておけよ?」
「もし、覚えてなかったら?」
迷子案内されるだけじゃが、ひとつ脅かしておこう。ぐふふふふっ。
「二度と帰れなくなる。そしてあの警備員に……──こ、これ以上は言えない!」
「……帰ろう」
「いや、せっかく来たんじゃから帰んないよ? 迷子にならなければ大丈夫じゃから。勝手にどっかいくなよ」
♢
店内に一歩踏み入れると軽快な音が聞こえてくる。陽気な宣伝ソングが流れていて楽しそうな雰囲気。
「いらっしゃいませ。あら、こんにちは」
よく見る顔の受付の女性。
交代制なんじゃろうが、いつも同じ顔。
「両替と今日のチラシが欲しい」
「ちょっと待っててね。ところで……そちらは?」
「あー、彼女のアンじゃ。これからよろしくね」
既成事実。外堀から埋めれば、いずれは──。
「彼女って何! 全然違うから!」
「でしょうね。分かってるから大丈夫よ」
……埋まらなかった。もう少し空気読めよ。
「はい。両替完了です。今日のチラシはこれね。どうぞごゆっくりー」
ヒラヒラ手を振り送り出される。
ここにいても仕方ないし行くか。
「最初は日用品から買っていこう。順に下りていけば1階が食料品じゃな。まずは──」
どこから行くべきかと見取り図を確認しにいく。
「ねぇ、他の人たちも見た目が……」
「慣れろ。儂らのように人間の見た目が全てではない。まあ、あそこの2人は人間じゃな」
小僧が女の子と歩いている。
2人とも人間と言ったが女の子は混ざりものか。しかし、仲よさそう。ムカつく。
そして女の子可愛い。洋服こそ普通じゃが、見た目麗しいお姫様みたいな子。
「あの小僧がムカつく。ちょっと行ってくる」
「──揉めちゃダメなんでしょ! 何考えてんのよ!」
「あれは一般客じゃない。ここは一般客は入れないフロアだから。だから大丈夫だって」
「いいから行くわよ!」
アンに腕を掴まれ引っ張られていく。
向こうの小僧も同じように女の子に引っ張られていく。命拾いしたな小僧!
「服。最初は服からじゃな。女の子が同じ格好ではな」
ほとんど着の身着のままのアンに服を買おう!
パジャマと合わせて2着しかないようだし。1着はウサギちゃんだし。
「洋服もあるの?」
「服は……2階だった気が」
「──すぐ行きましょう!」
「ちょっと引っ張らないで。歩くから、ちょっと速いって!」
侮っていた。買い物してお昼までは帰る予定だったのに……。
服を見てただけでお昼になってしまった。
アンに付き合っていたら食料品までたどり着くのは夕方になりそう。
「1日中いられるわね。服はもういいから、次はアクセサリーのお店を周りましょう」
「いや、本当に1日中いることになるから……。食料品にいくよ? 予定外のところに時間とお金使いすぎだから」
女の買い物は長い! もうビックリした。
すぐに決めないのは理解できる。ただ、永遠と眺めていられる気持ちが分からない。
「……また来る?」
「来週も来るだろう。1週間分の食料を買うつもりだから。また来週もチラシの日に来るよ」
「なら、今日のところは諦めましょう。来週も誘ってよ」
あんまり誘いたくない。また長時間付き合わされる。
「そうだね。ただ、1人で見て周る選択肢は無いのか?」
「怖いからムリ」
脅かしたのは余計だったーー。
せめて1人で見ていてくれるなら!
「食料品でしょ。行きましょう」
「そうだね。今日は買い物だけで終わりそうだからね」
本当に買い物だけで1日が終わってしまった……。




