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その①

長い無言の末、彼女にこう聞かれた。



「ねぇ何考えてるの?」



交差点。夏。そして信号待ち。なんとなく二人は無言で、なんとなく何も喋らなかった。


質問というより、確認に近い雰囲気。声は平坦。それは何も喋らない自分に対しての、"静かな抗議" のように取る事も出来た。


僕は彼女の方を向かないし、彼女も僕の方を向かない。見ている方向は同じだが、気持ちの風向きは同じ方向を向いていなかった。


混ざらない風、交差しない風。


その風は薄い膜を隔てて、混ざる事のない二つの風を創成していた。眼に見えない膜、薄く揺れ動く膜、気まぐれな膜。


喧嘩したのではない。不機嫌なワケでもない。


ただ、確実に僕ら二人の間には、そんな距離感のようなものが出来上がってしまっていた。付き合って四年目の夏、二人を結びつけていた固く撚り合ったロープは、今確実にその強度を失いつつある。



新しいカラコンを派手に喧伝する広告トラックが目の前を通り過ぎる。派手な音楽と共に。



付き合い始めたあの頃、とにかく話題を探し集めていた。面白い事、くだらない事、とにかく何でも "話をしないと!" というプレッシャーのせいか、常に饒舌であり続けた自分が居たように思う。



彼女が消えてしまうかもしれない



そんな不安やプレッシャーが僕をそうさせた。



どんな事でもいい、くだらない事でもいい。彼女を笑わせよう、少しでも楽しませよう。彼女の笑顔が一度でも増えれば、それは僕の喜びであり、幸せでもあった。そして温かい安堵感が、いつも僕らを心地良く包んだ。優しく包み込んだ。それが恋だったのだと思う。今になって思うと。


そういった感覚が消滅したのはいつの頃だろうか。彼女が消えてしまうというプレッシャーが徐々に薄れ始めていた頃からだろうか。彼女という存在が僕に与える重要度、影響力、そして存在の重みが、"当たり前"という地層に埋没し始めて来た頃からだろうか?


答えは分からない。


ただ、四年目の現在、僕らは今、あの頃とは違う何かをお互い感じ始めてしまっている。感触で分かる、雰囲気で分かる。そして何かの答えを常に先送りしてるような雰囲気にすら感じた。それは緊急のものではないが、いずれは訪れる避けられない何か、逃げられない何か。



何にせよ、僕ら二人を結びつけていたロープはその強さを確実に失っていた。



撚り合わない二本のロープとして。




(続きます!)


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