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第7章:一族を引き継ぐ者

大学3年生の春、両親が車でスーパーマーケットへ買い物に行く途中、交通事故に遭った。両親共に即死だった。


この家族は皆、交通事故で亡くなっていく。これは偶然なのか、それとも僕が不幸を招き入れたのか。


吹雪の中、群れから見放された時に、本当は僕が死ぬはずだった。

その時に、僕に取り憑いた死神が、幸せなこの家族に乗り移ってしまったのではないか。そんなバカなことをずっと考えていた。


両親が亡くなってから、大学に行く気になれず、数日間、何日も狼の姿のまま、家の中で、残されたお父さんとお母さんの残り香を嗅ぎながら、泣いていた。


ある日、夢の中で、お父さんが出てきた。

正直、あの子でもなく、お母さんでもなく、お父さんが夢に出てくるとは驚いた。


お父さんは僕に言った。


『お前、ここで人生諦めたら、一生を棒に振るぞ。』

『お前には、息子の分まで、幸せに生きてほしい。』


僕は、お父さんに初めて抱きついた。


『いい子だ。お前は私の大切な息子だ。』

お父さんはそう言って、何度も何度も優しく僕の頭を撫ででくれた。


目が覚めると、そこには当然、お父さんも、お母さんも、あの子もいなかった。


そうだ、僕は生き続けるんだ。

あの子のために、この家族のために、僕はこの一族の生き残りとして、生き続けるんだ。


この一族の生き残り、という狼としての群れの習性のような感情が湧き出てきた。


僕は、大学を卒業して、東京に行くことにした。

北海道に残った方が、自然も多いし、知っている土地なので、住むには適しているような気もした。


他方で、東京は人間が大量にいすぎて、他人に関心がない人間の方が多いのではないか。

そのため、人間に化けた狼がいたとしても、バレないのではないかと思った。


きっと、東京には、狼だけじゃなくて、人間に化けたタヌキやキツネなんかもいるんじゃないかと思った。

最近は、ロボットも作り始めていて、もはや人間ではない物質さえも、人間のように扱うような時代になっている。


僕は、室蘭の家は、年に数回、長期休暇で帰ってくる場所にしようと思い、父が購入した実家はそのままにして、必要最低限の物だけを持って、東京で就職をした。


今、津田沼に住んでいるのは、それでもやはり東京は人が多すぎて、たまに呼吸が苦しくなる。


心身が宜しくない状況になると、いつ無意識に狼に戻ってしまうかが分からない怖さもあったので、北海道ほどではないけれども、東京よりも自然が多い千葉県の方に住むことにした。


僕が住んでいる場所から、車で20分ほどのところに、東京ドーム約3個分の県立の森公園があり、そこに行って、大自然の光や風にあたり、草や木々の香りを嗅ぎながら、ゆっくり過ごすのが好きだった。


ここを狼の姿で走りたいな。あの子と一緒に原っぱで駆けっこをしたように。そんな思いに駆られる。


週末は、昼過ぎから家族連れが多い。僕は、両親と子供たちが楽しく遊んでいる姿を微笑ましく見ながら、自分が作ったお弁当をこの公園で食べるのが好きだった。


スーパームーンの日が段々近づいてきているが、やはり自然の中にいると心が落ち着くのか、狼になるような発作は出てこない。

まぁ出たとしても、ここには隠れる木々がたくさんあるし、そこで常備薬を飲んだり、ブルーベリーを食べれば大丈夫だろう。


しかし、自分も年を取ったということなのだろうか。

去年までは、こんな発作は一度も起こらなかった。


42歳になり、人間としても、狼としても、肉体的にも、精神的にも、衰えてきたのかもしれない。


油断は禁物だな。


僕は、スーパームーンの日は、念のため終日有休を取ろうと思った。


そして、もう数年経ったら、室蘭に帰って無理のない生活を送ろう。そんなことを思いながら、穏やかな日曜日を過ごしていた。


しかし、スーパームーンの当日、財務・経理部からの一通のメールで、全ての予定が崩れた。


第8章に続く。

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