従う者
秋の夜。
祭りの賑わいは嘘のように遠く、王城に静寂が広がっていた。
ネクトフラムの城壁を月光が淡く照らし、回廊を渡る羽音がひっそりと響く。
書斎の奥、重厚なカーテンの陰にアピスは立っていた。
手にした扇を静かに開き、窓辺へ視線を向ける。
夜風に揺れる枝葉が、銀色の影となって壁に落ちていた。
その光景を、彼女は言葉少なに見つめている。
やがて――
静寂を破るように、柔らかな足音が書斎の床を伝った。
「アピス様、紅茶が入りました」
声の主はイレア。
代々ネクトフラム王家に仕える、美貌と品格を兼ね備えたメイドである。
銀糸のように光る髪は夜光に淡く煌めき、整った立ち振る舞いは感情を微塵も滲ませない。
その動作は、まるで機械のように正確だった。
アピスはわずかに振り返り、淡い笑みを浮かべる。
「ありがとう、イレア」
イレアは静かに歩み寄り、紅茶を差し出す。
湯気がゆっくりと立ち上る。
深い茶の香りが、書斎の夜に柔らかく溶けていった。
アピスはカップを受け取りながら言う。
「イレア。少しお願いがあるのだけど……」
窓の外へ目をやり、扇を小さく開く。
月明かりが彼女の横顔を静かに照らしていた。
「……妹達が仲良くしていた、あの鳥さんについて。調べてくださる?」
イレアの瞳が、一瞬だけ光る。
「承知いたしました」
その瞬間。
彼女は、まるで夜の空気そのものになったかのように――
すっと書斎から姿を消した。
残されたのは、窓辺で揺れる枝葉の影と、微かに漂う鳥のさえずりだけ。
アピスはそっと扇を閉じ、静かに息をつく。
(山岳種ほどの凶暴で捕獲困難な七面鳥を……)
紅茶を一口含む。
(なぜ、あのような屋台の商人が持っていたのかしら)
心の奥で、小さな疑念が静かに芽生えていた。




