不穏
第二試合。
舞台へ上がったのは――
三人のトカゲの魔物。
レプト。
リズ。
ドラコ。
いずれも――
近接戦闘を得意とする武闘派だった。
リズは――
三人の中で最も小柄。
その分、
圧倒的な速度を誇る。
レプトは――
攻撃に特化したアタッカー。
鋭い爪と強靭な肉体を武器に、
正面から相手を叩き潰す。
そして――
ドラコ。
三人の中で最も巨体。
分厚い鱗とその身体を盾に、
仲間への攻撃を受け止める防御役。
「おっ!!」
観客席。
先ほどまで不満そうだったヴェスピナが――
身を乗り出した。
「今度は良さそうじゃねぇか!!」
「何がだ」
「見ろよ兄貴!」
「全員バリバリの近接型だぞ!!」
「…………」
ヴェスタスは何も言わなかった。
「殴り合いだ!!」
「やっと喧嘩祭りらしくなってきたぜ!!」
「お前は何を見に来ているんだ」
「喧嘩だよ!!」
そして――
舞台の反対側。
三人の魔物が、
静かに立っていた。
「…………?」
ヴェスヴィが目を細める。
似ている。
あまりにも――
似すぎている。
顔。
背丈。
体格。
三つ子なのだろうか。
司会が一人へ問いかける。
「では、名前を!」
「僕はネフィラ」
「ネフィラ選手ですね!」
「では、お隣は――」
「僕もネフィラ」
「…………え?」
そして。
三人目が――
にこりと笑った。
「僕たちはネフィラ」
「…………」
「みんな同じ名前さ」
ざわ……。
観客席が、
僅かにざわめいた。
「変わった奴らだな」
ヴェスピナが笑う。
だが。
ヴェスタスは――
笑わなかった。
「…………」
ヴェスヴィもまた。
黙って三人を見つめていた。
「両チーム――構え!!」
トカゲ達が腰を落とす。
対するネフィラ達は――
「…………」
構えない。
三人並んで。
ただ――
立っている。
「…………なんだ?」
「第二試合――」
静寂。
「始めッ!!」
ダンッ!!!
開始と同時。
三人のトカゲが――
一斉に地面を蹴った。
速い。
先頭はリズ。
その後ろからレプト。
そして最後尾を、
巨体のドラコが追う。
一直線に――
ネフィラへ。
「行けぇぇぇ!!」
ヴェスピナが叫ぶ。
だが。
次の瞬間――
「…………?」
リズの動きが止まった。
レプトも。
ドラコも。
三人同時に――
ぴたりと。
「…………なんだ?」
ヴェスピナの笑顔が消えた。
舞台中央。
三人のトカゲは――
ネフィラを目前にして。
動かない。
「…………」
そして。
レプトが――
ゆっくりと振り返った。
「……レプト?」
リズを見る。
一歩。
また一歩。
仲間へ向かって――
歩き始める。
「おい……?」
リズが困惑する。
「何して――」
ドゴォッ!!!
「がっ!?」
レプトの拳が――
リズの顔面を捉えた。
リズが吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
観客席がどよめいた。
だが。
それだけではない。
倒れたリズが――
立ち上がる。
「…………」
そして。
今度は――
ドラコへ。
ドッ!
ドゴッ!!
ドゴォッ!!!
「ぐっ……!」
何度も。
何度も。
仲間の身体へ――
拳を叩き込む。
「おい!!」
「何やってんだ!?」
「仲間だろ!?」
観客席から声が飛ぶ。
しかし――
三人は止まらない。
ドラコがレプトの身体を掴む。
「…………!」
その巨体が――
レプトを持ち上げた。
そして。
「――ッ!!」
ドゴォォォン!!!
地面へ――
叩きつける。
「…………」
ヴェスピナが立ち上がった。
「なんだこれ」
先ほどまでの――
楽しそうな表情はない。
「…………おかしい」
ヴェスタスが呟く。
「だよな」
「ああ」
ヴェスヴィも――
舞台を睨んでいた。
三人のトカゲは。
互いに。
互いを。
ただひたすら――
潰し合っている。
それなのに。
「…………」
ヴェスタスの視線が――
ゆっくりと。
反対側へ向いた。
ネフィラ。
三人は――
何もしていない。
攻撃も。
防御も。
焔晶を狙うことすらなく。
ただ――
三人並んで、
その光景を眺めている。
「…………気に入らねぇ」
ヴェスピナが呟いた。
先ほどとは――
まるで違う意味で。
やがて。
ドサッ。
最後の一人が――
倒れた。
「…………」
静まり返る闘技場。
レプト。
リズ。
ドラコ。
三人とも――
動かない。
再起不能。
そして。
彼らが守っていた焔晶は――
傷一つ。
ついていなかった。
「…………」
勝敗を告げる声すら――
一瞬、遅れた。
「しょ……勝負あり!!」
「勝者――ネフィラチーム!!」
まばらな歓声。
困惑。
ざわめき。
その中で――
三人のネフィラだけが。
同じ顔で――
笑っていた。




