十三話 新興宗教の使徒-???
宝石化した駄菓子屋のおばあちゃんを救うため、危険な新興宗教団体『ソラリス』と戦うことを決意した私。
そして、そのソラリスに入信したと思われる能力の始祖『女帝エンプレス』の行方と目的。
不穏な雰囲気を帯びる街中に潜む、ソラリスの本拠地を特定するのが私の今の目的だ。
「ママーちょっと行ってくる!」
「あら、りんご。今日もどこか行くの?」
ママには話してない。
余計な心配はかけたくないし、正直に話したら止められるだろう。
「……ミカちゃんと遊びにいく!」
「あらそう、16時までには帰ってくるのよ。最近妙な宗教が流行ってるし、りんごは変なのに狙われやすいからね!」
芯を食ったママの発言にドキッとする。
最近、私がソラリスの本拠地を探ってるのはバレてないはず。
「大丈夫!我の能力は山を消滅させるほど最強だから!行ってきます!!」
──じゃあ、今日はどこを探そう。
スマホで地図アプリを起動し、直感で怪しいと感じる場所を探す。
そして、ソラリスの本拠地だと思うところにピンを打っていく。
「うーん。ここも違ったし……ここも違ったしな……」
私のカンじゃ全く見当が付かないので、しらみつぶしだ。
ピコンッ。
スマホが震える。
「あ、イソスタの通知。キョウコさんだ」
キョウコさんと知らない人のツーショットのようだ。
背景を見たところ、どこかのお洒落な喫茶店にいるのだろう。
あれ。
「後ろに写ってる白い服の人……いやこれ、白いローブっぽい……?」
ミルククラッドの着ていた白いローブに酷似している。
それに、二人写っている。
親子なのかは分からないけど、大人と子供ぐらいの身長差。
かなり距離が遠くて顔は見えない。
「大人と子供が二人並んで、同じ白いローブを着てるなんて絶対おかしい」
写真の位置情報を見る。
「ここからだとミノルの家を通って少し歩いたら行けそう。ミノルも呼んだ方が良いかな」
ミノルは、私がソラリスと戦うのを反対していた。
それなのに、ミノルを頼るのは我儘というか、自分勝手だろう。
一人が危険なのは分かってるけど、友達を危険に連れていくのは私的には気が引ける。
ここを曲がって真っ直ぐ行くとミノルの家を通る。
曲がる際に道の先を除き込んで、怪しい人物がいないかどうかを確認しながら進んでいるので、警戒はちゃんと出来ているはず。
ピコンッ。
再びスマホが震える。
「またキョウコさんのイソスタかな?……ん?」
ミノルからの音声メッセージが送られてきていた。
「なんで音声メッセージ?」
ミノルから音声メッセージを受け取ったのは初めてだったので疑問に思いつつ、音声を再生してみる。
『動けない──家の近くに能力者がいる』
私は反射的に通話ボタンを押していた。
冷や汗が止まらない。
ツーツーツー。
返答がない。
「どうしよ……ミノルが電話に出ない。"動けない"って言ってたから、敵が近くにいるってことかも」
あれ。
足が震えて動かない。
前に進めない。
ミルククラッドの顔がフラッシュバックし、恐怖心で埋め尽くされる。
怖い。
「……逃げようかな」
この前は”恐れる物は無い”と豪語したけど、やっぱり怖いものは怖い。
──それでも、宝石化されたおばあちゃんを助けたい。
そう誓ったあの時の私も嘘じゃない。
「怖いけど、ソラリスを放っておいたら駄菓子屋のおばあちゃん以外にも犠牲が出るかもしれない……能力を持ってる私がやらなきゃいけない!!」
自分を鼓舞し、恐怖や不安を打ち消す。
足の震えも止まった。
そして一歩、踏み出す。
「……?」
妙に足が重い。
──足だけじゃない。
全身が、重い。
まるで1000m走を走り切った後に、疲労からの重みがのしかかってるみたいだ。
さっきまでのマイナスな感情は打ち消せたはずなのに、何故。
「な、なにこれ……?もしかして、さっきミノルが言ってた能力……者……?」
段々と抑えつける力の負荷が強まる。
きっと能力者が、私のいる方に近づいているのだろう。
意思とは反して、膝から崩れ落ち、コンクリートに手を付けてしまう。
私の脳裏によぎるのは──礼拝のポーズ。
(重すぎて、身体が動かない……)
スマホが鳴っているけれど、手に取れない。
恐らくミノルからの電話。
眼球だけは、動く。
「……!!」
雑草の隙間をバッタが跳ねている。
私のほっぺたに蚊が止まって、血を吸っている。
私の後ろから追い越そうとしていた一般の通行人が、呻き声を上げて這いつくばっている。
(昆虫は動けてるけど、人は動けない……じゃあ、この能力の対象は人だけってこと……?)
手のひらほどの大きさのがしゃどくろを一体創造した。
元気にストレッチや小躍りをしている。
(……能力自体は、抑えつける力の対象外みたい……なら!!)
私の身長ぐらいのがしゃどくろを創造し、身体を起こしてもらう。
立つことは無理だけど、なんとか座ることはできた。
「ふむ、”骸”か」
落ち着いた男性の声。
白いローブの二人組が私の目の前にいた。
ヤバい。ヤバい。
私の能力を見られた。
「お父様!この人、神通力を使ったよ!」
──神通力。
その表現をするのは、ソラリスの教徒だけのはず。
この二人はやっぱりソラリスだ。
男性の顔の所々は宝石で輝いており、片目には真紅の宝石が不気味にはめ込まれている。
宝石の能力者はこの男だ。
「珍しい。恐怖より観察を優先するとは。使徒【ミルククラッド】を欺いただけのことはあるな」
「!!!」
私の存在がソラリスにバレてる。
なんで。
ミルククラッドに私の生存がバレた?
ソラリスは私を監視している?
エンプレスが私の情報を伝えてる?
真相は分からない。
呼吸が重い。
心拍数が信じられないぐらい早い。
女の子が首を傾げる。
「お父様、この子は救済する?」
男は私を見る。
一瞬、宝石の瞳が細まる。
「必要ない。我がソラリスの障害となりえない」
そして歩き去る。
去り際に、女の子が私を見つめる。
見つめられた瞬間だけ、拘束が強くなった。
「またね」
無邪気に手を振る女の子。
不気味さの欠片もない、普通の元気な女子小学生にしか見えないのが逆に不気味だ。
そして距離が離れるにつれ、拘束が徐々に解けていく。
「た、助かった……」
安堵の次には無力感が残っていた。
自分の能力で立ち向かえるかを想像できない無力感だ。




