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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#08. Reboot 脱出
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[6]





……


………




“はあ?

そんなの聞いてないわ。

先生、ちゃんと説明してよ”




 そう言い放つ生徒が居たならば、教師がどの時点で話していたのか、答えられる。

鮮明に記憶され、具体的に説明でき、聞いていなかったのはそちらだと言い返せる。

そんな俺が通りかかるだけで、周囲は萎縮し、近付こうとしなかった。






“嫌味ったらしい。

科学者の金持ち坊ちゃんはこれだからうぜぇ。

どうせ俺等の事バカにしてんだろ?

わざわざ貴重な時間を使ってまで見下しに来るとは、ああありがてぇ!

時間の使い方も贅沢か!”




 幼い頃からずっと、授業内容や周囲と学力が合わなかった。

いつもレベルが低く感じてならず、難問に苦しむクラスメートの横でつい、つまらない、簡単過ぎる、何故分からないのかと口走ってしまう。




 それ故に、最高学年のカリキュラムを先々に触れた。

新鮮な情報に惹かれ、直ぐに習得してしまう。

高成績を難なく叩き出した事は、大人にとっては良くとも、全生徒が俺を妬むだけに留まらず、攻撃が増え続けた。

歳を重ねる毎に、物の紛失やロッカー荒らし等の些細な虐めは、質を変えていった。

自転車破損、盗難の濡れ衣、階段からの転落。

それらの影響から、手の震えと動悸が定着し、学校が怖くなった。






 “ああまぁ…仕組みも良いし相変わらず圧倒される。

ただ…他がついて行けない。

クラスで教えてない事が含まれ過ぎだ。

口頭説明するにしてもこれだと授業になって、発表するという目的から逸れる。

ハードルを下げてくれ。

じゃないと受け取れない”




 課題で提示した、産業用ロボットの使用を目指す為の、金属アームの設計図。

使用する物に対する全ての耐性率と生み出す効果、材質の特徴、電力消費量等、数式を並べて具体的に叩きだす。

あらゆる発見と可能性を論理立て、デメリットに対する仮の策までも明記する。

細部に渡り、どこまでも追求し、可視化できてしまう特性は、大人顔負けだった。






 “いい加減にしろ!

学校だけならまだしも、俺の研究やチームまで蔑むな!

その目はどうなってる。学べ!

これまで誰1人、お前に付いて来なかった理由は何だ。

自分に圧倒的に欠如している物の分析ができないなら、開発者だの科学者だの名乗るな。

チームで動く社会を学べ。

俺が評価する部下だぞ。

後から来たお前がしゃしゃり出るな!

いつまで我が儘だ!?

いい歳だってのに、卒業しろ!

俺に恥をかかせるな!

ったく、耳に付いてはいちいち問い質しやがって、ただ黙って合わせて、やれ!”




 周囲からの視線や言葉に耐えきれず、続く体調不良が辛くなり、大学を中退した。

父や祖父に迷惑をかけまいと、学校生活で起きていた事を言わず、ずっと耐えてきた。

その努力が崩れ、働けるかどうか不安になった時、製造工場の社長を勤める父の元に、身を置く事になった。




 だが、チームの思考や環境設備に対する疑問が多発し、ファクターを延々求めてしまった。

なんとなくである事や、曖昧な状態ではなく、確かな事を知ろうとしてしまう。

より良い結果が出る可能性があると感じると、求めずにはいられない。

この性質に対し、理解を得られた事など、無かった。






 “勉強ができるだけでは駄目って、何度言えばいいの?

また誰もついて来てないじゃない。

学校でもそうだったでしょう?

現実から学んで。

そんな事ではいつまで経っても無理よ?

お爺様やお父様の立場を、そろそろ考えられる様になってもいい頃なのに。

将来、貴方がチームを持つと本気で言うのなら?

尚の事、人との関わりについて、振り返りと修正は必要よね?

発言も一方的過ぎ。

そんなの、誰だって受け入れ難いわ。

集まりに同席させてもらえなくなったのはそういう所だって、分からない?

一度、機械や薬品開発から離れなさい。

いい加減、未だに出来てない人と世間の学習に集中して。

今のままでは駄目。

何かを得る為の我慢なんて、皆してる。

こんな事、当たり前よ。

子どもじゃないんだから、面倒ばかりかけないで。

お二人が気の毒だわ”






 母親が居ない。

その為、幼少期からシッターを雇いながらも、大半は祖父の側近であるシャルが世話をしてくれた。

優秀な彼女は、父と祖父の助けになるならばと、依頼を引き受けた。

多忙な2人は、シッターと顔を合わせる事など殆どない。

そんな彼等にとっては、よく知る彼女に託す方が良かったのだ。






 だが、彼女の発言や態度からは、受け入れ難いものが多かった。

歳を重ねるにつれ露骨に感じるようになった、仕事に生きる性格と、2人の為にしているという態度。

それが億劫になっていった。

しかし、祖父や父にとっては信頼のおける存在。

彼女と上手く付き合えないと口にしても、環境は何も変わらなかった。






 母親代わりなど、微塵も思えなかった。

だが、祖父や父からすれば、彼女はそういう役割でもあった。

そんな彼女の言う事が常に正しく、それをなかなか聞けない俺は、注意ばかりされてきた。






 嫌々ながらも、彼女からの提案を受け入れた。

俺には、欠如している物がある。

それは、埋める必要がある。

高成績を納めてきた事以外、碌な経験が無い。

好きで仕方がない事を長く仕舞い込み、自分を変える事に努めた。






 事を進めるべく、手始めは世間の話題収集から入った。

興味がある物に目を奪われ、没頭してしまうが為に、流行に乏しかった。




 会話では、冗談の言い方や、その時に合った表情はどうか。

人の観察をかなりする様になった。

誰かが楽しく話していながら、どこか浮かない表情をしていたり、声のトーンの違いがある。

そんな事を、意識する様になった。




気付けば、職場やその関係で向かう場所の先々にあるガラスや鏡に、目が留まっていた。

そこに映る自分が、その輪から浮いていないか、不安で確認する癖がついた。






 本は1度読めば内容が入る。

その為、人間関係に関する情報収集は、容易いものだった。

しかし実践は、勉強よりも初めて難易度が高く感じた。

すぐに成果が目に見える訳ではなく、進捗すら曖昧だからだ。




 独りは楽な反面、酷く疲れた。

ふと、自分の行いが正しかったのかどうかが不明瞭で、心配になる。

見通しが立たない事が、不安でならない。

だが、誰もそんな様子は無い。

そうならない事が自然である世の中に、同じ様に立っていても俺は妙に浮いていた。

それを見せぬよう努めたが、なかなか承認されず、腹を立てる時間は長く続いた。









MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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