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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#08. Reboot 脱出
103/189

[13]




 強引に連れ戻そうとするのか。

考え付く彼の反応に怯えながらも、ターシャは少々身構えながら待つ。




随分と大人しい彼は、見るからに何かを考えていた。

視線は下に落ち、合わなくなる。

何を探っているのか、目を左右させながら首を数回、間隔を空けて傾げた。

その間、腕組みをする。



「何でだ?ここに居てはいけない理由は?」



話を更に聞こうとする。

ターシャは不思議に思いながらも、若干胸を撫でおろした。

彼からは、襲ってくる気配を感じない。



「……貴方は亡くなった…

であれば、大切な場所で眠るべき…」



「大切な場所?何だ?それ。

今は起きてここに居るから、俺の居場所はここ。

試験起動中で、トップに見てもらったら、ここで任務をする事になってる」



「違う!」



ターシャは彼の腕に飛び付いた。



「ここは、あいつの玩具にされるだけの地獄よ!

貴方には別に居場所がちゃんとあるっ!

家族が居るっ!愛してくれた家族がっ!

あたしもよっ!

だから行かなくちゃいけない!

お願い来て!ここから出るのよっ!」



喉の激痛に耐えながら、掠れ声で説得する。

知らぬ間に涙ぐむと、彼はそれを食い入る様に見た。

直に彼女の頬を流れ落ちたそれを、不思議そうに指で触れる。



「痛っ!」



ターシャは咄嗟に後退り、驚く。

まるで硬いボタンを押す様だった。

力が強過ぎ、恐怖すら感じる。



「何だ?それ」



彼女の説得を他所に、新たな疑問をぶつけてきた。



「………涙…」



「なみだ?」



任務だの何だのと言っていた大人が、急に幼児の様に思えた。

ターシャはふと、笑みを溢す。



「なぁ、何だ?」



顔を歪める彼を見て、ターシャは勘付いた事に従い始める。



「そこ開けて。そしたら教えてあげる」



彼は目だけで示されたボックスを振り返り、再び彼女に向き直る。

理解に苦しむのか、怪しげに彼女を見た。






 試験起動中。

殆ど人間を思わせる生々しい彼だが、力加減や、涙、恐らく他にも判別が付かない事があるかもしれない。

ターシャは涙を拭うと、彼の肩に手を置いた。



「涙だけじゃない。

あたしが、何でも、全部、教えてあげる。

だからそこ開けて!時間が無い!」



ターシャは彼に背を向け、ボートを調べた。




先端に繋がれたロープを見つけ、不器用ながらに解く。

その脇で、金属が破壊されるけたたましい音が鳴り響き、振り向いた。






 キーボックスの蓋が完全に取り払われ、掴まれたそれは歪んでいる。

ターシャは背筋が凍り付いた。

あの時、頬が砕けなかったのは奇跡である。



「開けた。で?」



「まだ!それ押して!」



「開けたのにか!?」



歪な蓋を手に腕を広げ、呆れている。

そしてやや片目を細め、引く様な目で彼女を見た。



「ありがとう!

次はそれを押してゲートを開けて!

そして運転して!早く!」



「ありがとう?」






 動かない彼にターシャは駆け寄り、そこに佇む掌程の赤いボタンを見た。

その横に掛かるのは恐らくボートの鍵。

透かさず手に取り、ボタンを拳で叩いた。




 屋内に3ヵ所、ゲートに2ヵ所赤いランプが点灯し、重い軋み音が迫り上がる。

外の世界が徐々に、ゲートの真下から顔を出す。

温かい風が吹き込むと、次第に快晴の青空が見えた。




挿絵(By みてみん)




それについ、小さく感嘆を漏らし、ターシャは彼の手を引く。

だが、重くて(つか)え、転倒した。



「早くっ!」



「何だ?ありがとうって」



首を傾げる彼に、ターシャの目は丸くなる。

足の向こうでは、ゲートが完全に開き切る音が轟いた。



「お願いした事をしてくれて、感謝してるの!

乗って!」



彼はその手を慌てて引かれ、ボートに導かれた。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ターシャの台詞 あたしが全部教えてあげるw [気になる点] ありがとうってなぁ〜にww [一言] 彼、試験運転中の…可愛いなぁ。
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