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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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カフェ集会


「あいつはやっぱりあいつだなぁ。いつもこの喫茶店を選ぶ」

『何かと理由を付けて店員さんに会いたいんだぞ。ご執心だ』


 ブリティッシュシャーマンの「隠れ家」より帰宅してから一夜明けて、僕たちは妖怪京都の「三色かふぇ」に来ていた。ニューヨークでくれむと戦った灰學から直に話を聞きたいと考え、アポを取ったらここを指定された。

 待ち合わせ時刻は十一時。現在十時三十五分。少し早く着いてしまった。昨日一昨日と発表及びその準備で疲れている。眠い。ブラック濃いめのコーヒーを頼む。待ってる間、捜査士専用タブレットで、くれむによるロンドン破壊の映像を穴が開くほど眺めた。いつの間にかコーヒーが置かれている。

 もう五分前か。


「ねえ」


 背後から声をかけられた。覚えのある声だった。振り返る。


「ほ。やっぱり当瀬だった」「リサちゃん」


 姫毎(きいつも)梨沙々。「祓い屋」で知り合った少年少女たちの一人。つい先日の「寄奇怪界」事件で双子の妹と従兄を亡くしてしまった。彼らが紡ぐはずだった命を背負って生きると決めた、強い子だ。


「バカ猫は?」「右手にいる。まあ座れよ」「どうも」

「何故ここに?」「家が潰れたから。分家のお世話になってるのよ」


 妖怪京都に親戚がいるらしい。リサちゃんは今や、姫毎本家ただ一人の生き残り。子供が単独で満足に生きていけるほど、世の中は甘くない。邪険に扱われるのを覚悟して分家の門を叩いたら、思いの外歓迎されたという。恐縮し切って、世話をかける見返りに家督を譲ろうとしたが、「もうそんな時代じゃなくね?」と断られたようだ。

 むしろ、家の看板を背負う面倒を嫌っていた様子だった。


「令和だな」「令和よね」「いつまで妖怪京都に?」

「『祓い場』の中学校が復旧したら戻るつもり。当面の学費は出してくれるって」

「良かったな」「うん……」


 なぜか俯いた。指をくっつけたり離したり、もじもじし始める。何か切り出そうとして、しかし上手く言葉に出せないという感じだ。遠慮している。


「僕に頼み事か?」「っ! うんっ。そう。あの」


 リサちゃんは顔を上げた。真剣な表情だ。


「わたしの……師匠になってくれない?」「良かろう」

「やっぱダメよね……え? いいの?」「いいとも」

「忙しくないの?」「忙しいだろうな。ずっと」


 コーヒーを飲む。芳醇なコクと味わいが口いっぱいに広がった。


「それでもやらなければいけない僕の使命が、最近見えてきた気が……」

「よーっす日文」


 良いセリフを遮られる。入り口を睨みつけた。茶髪で、百八十センチ超えのスタイリッシュな少年。石済灰學だ。時計を見る。


「二分遅刻だ」「悪いな。不機嫌になるなよ。そちらの女の子は?」

「ほ、本物の『覇人』……フン! 姫毎梨沙々よ! いずれあなたも超えてみせる!」「そりゃ頼もしい。期待してるぜ」


 軽くサムズアップしてから、流れるように椅子に座る。店の看板娘に向かってウインクを決めた。された方も顔を綻ばせる。昔の洋画でも見ている気分だ。「また来てくれたんですか灰學さん」「待ち合わせには最高のロケーションだからさ」と会話を始める。

 リサちゃんが困惑げにこちらを見てきた。ヒソヒソ声で教えてやる。


「惚れてるらしい」「あれが『覇人』のタイプなの? どこが好きなのかしら」

「当ててみろよ」「おっぱい? だとしたら最悪ね。見損なったわ」


 僕にもチクチク突き刺さる言葉だった。「イタチ耳かもしれないだろ」と弱々しく反論する。「丸っこくて可愛いわよね」とリサちゃんは頷いた。その気持ちが分かるのならば、丸っこくて柔らかいものが好きな少年の気持ちもぜひ理解して欲しいものだ。

 コーヒーが苦い。


「恋の駆け引きは終わったか?」「後でもうちょっと喋っときたいな」

「僕との交際疑惑は晴れた?」

「まだ半信半疑。誤解イコール彼女の願望だから。解くのが難しい」

「えっ。当瀬と『覇人』って付き合ってるの?」「「んなわけねえだろ」」

「ああ。なるほど。腐女子の妄想ネタにされたのね。確かに、中高生女子の怪我人が集められた病室へお見舞いに行った時、『虚月(こげつ)』×『覇人』の同人誌が出回ってたわ。『虚月』は当瀬の二つ名」「それホントッ!?」


 店員さんが食いついてきた。凄まじい勢いでリサちゃんに質問し、根掘り葉掘り聞き出そうとしている。剣幕が怖いのか、リサちゃんは素直に答えた。

 灰學と二人で頭を抱える。二重でしんどい。「虚月」は上止葉友梨の案だ。あいつはとりあえず地獄に落とす。


「時間大丈夫か?」「休みもらったから」「悪いな」

「問題ねえよ。温矢くれむはとんでもない脅威だ。一刻でも早く排除したい」

「そうか」「まず、『白震』についてなんだけど」


 いきなり核心だ。目に力を込める。「何か分かったのか?」と身を乗り出した。


「あれは間違いなく()だ。それはもう百パーセント」

「百パーセントだって? 禊力と妖力を単に組み合わせただけでは、ああはならないだろうというのは予測が付く。が、数学的な式を伴う術であるという確証はまだ持てていない。未知の技である可能性すらあると踏んでいたんだが。裏付けはあるのか?」

「ある。俺の牢獄でコピー出来た」「証拠としては十分だな」


 石済灰學の牢獄は、どんな術式でもコピーアンドペーストする。源が禊力だろうが妖力だろうが関係なく。逆に、コピーアンドペースト出来るのは術式だけであるとも。史引先生から聞いた。


「だとしたら、【妨】で邪魔出来るか?」

「理論上はな。でもエネルギー量が半端ないから」

「術の構築を妨げたところで暴発する」「自爆させられたら良いんだけど」

「尋常じゃない被害が出るだろう。日本とブラジルが繋がりかねない。それに、906番……くれむは自爆するほど間抜けな奴でもないし」

「まあ、俺のコピー『白震』も防いでたしな」

「あら。当瀬日文じゃない」


 またもや知り合いが現れた。風流な着物と冷ややかな霊力に身を包む、青い髪の雪女。白々燐だ。人がよく集まる。僕ら以外は誰もいないのに。

 店員さんは堂々と、BLの薄い本を読んで興奮している。


「それと『恥』」「生きててごめん。『覇人』です」

「殊勝な態度ね。呼吸だけは許してあげるわ」「どう生きろと」

「相変わらずで何よりだ燐。どうしてここに?」

「轍破を呼び出した」「ああ、VOTE一位の」「ええ」


 白々燐は、僕とリサちゃんの間に腰掛ける。そのまま、隣の女子中学生をギロリと一瞥した。ただ視線をやっただけだと思うのだが、白々燐に慣れていない人にとっては迫力満点の威圧だ。リサちゃんは泣きそうだった。心の中で頑張れと応援する。


「なぜ轍破を?」

「行方不明な現棟梁葉流の居場所について、拷問して吐かせようと」

「知ってるとは限らないだろうが」「無知罪への罰になるわ」

「酷過ぎる。轍破ってどんな妖怪なんだ?」

「さあ。バディのメールアドレスを手に入れただけだし」「文面は?」

「『四月一日正午、妖怪京都の三色かふぇにて待つ。来なきゃ殺す』」

「ほぼ果たし状じゃねえか。血生臭い」「ストロベリー風味と言いなさい」

「ベリーストロングスタイルだな。お前が作るかき氷の原材料は聞きたくない」


 腕時計を眺める。まだ十一時十五分だった。四十五分も早い。白々燐はメニューを見た。きのこスパゲッティを頼む。


「昼飯か」「ええ。腹が減ってはなんとやらと言うしね」

「戦闘意欲が溢れている」「それに」「それに?」

「明日この店が残ってるか分からないし」「決闘に巻き込む気満々だなおい」

「ちょっとお客さん。やめてくださいよ」「大丈夫。俺が守るから」

「誰が喋っていいと言ったの? 呼吸以外するんじゃないわよ『恥』」

「あまりにもひでえ」


 格好くらい付けさせてやれば良いのに。

 サラダが運ばれてきた。ドレッシングを振りかけてから、バリバリと食べ始める白々燐。僕が朝飯を食べたのは五時間前。かなり腹が減っている。右腕に潜むマクラも、飢えた獣状態だ。「僕らも注文するか」と、提案した時だった。

 爆発音が鳴り響く。


「なんだ今の」「えちちな風俗店がある方向じゃね?」

「なんで把握してんの? 『覇人』サイテー。ホントに『恥』じゃない」


 リサちゃんのキツい言葉に、灰學は心臓を抑えた。

 ちなみに僕も把握していた。


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