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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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共織矢回


「共織矢回は、気に入った場所に牢獄を敷き、そこで研究してることが多い。どこにいるのか、何をしているか分かったものじゃない」

「監視しろ。もしくは、規定に違反したら電気が流れるチップを埋め込んどけ」


 パーティ終了後、コンファレンスが再開されることはなかった。「そんな気分じゃない」という理由だ。くれむを追い返すのに成功したからと緩み過ぎである。いいのかこれで。

 昼食の時間だが、パーティですでに食事は摂った。会場を出て、写魏、婀歴、ついてきたローラとともに、「隠れ家」をブラブラする。目的は、写魏グループ最狂、共織矢回を探すこと。この街のどこかにいるのは間違いないが、写魏が言った通りの、住所不定の根無草。目撃証言などを元に位置を割り出し、牢獄から出てくるまで張り込む必要がある。


「刑事になった気分だ。見つけたらそのまま逮捕しよう」「賛成ですね」

「ハシエ、脳に電極刺されてたもんね」「死ぬところでした」

「人体はどれだけの霊力に耐えられるかって実験だったよね。マトノも寝てる間に、禊力を染み込ませた寄生虫を仕込まれそうになったんでしょ?」

「起きたら目の前でウネウネしてた。ピンセットで掴まれたのが。あれはトラウマ。奴は危険度SSのマッドサイエンティスト。日文さまも注意して」

「さっさと追放しろよ。いや、野に解き放つのも危険だな」「危険ですね」

「ところで上止は?」「『祓い場』に帰るって」


 どうやら、大カオスが超カオスにぶつかる現場へと居合わせる心配はなさそうだ。まだ中カオス(うつしぎ)小カオス(あれき)が残っているが。常識人らしきローラによる中和を期待したい。

 ぼんやりと「隠れ家」の街並みを眺める。「祓い場」の建物はほぼすべて仏閣なのだから、ブリティッシュシャーマンの異界も教会で溢れているのだろうかと勝手に想像していたが、違った。

 欧州の街と言われれば、なんとなく幻視しそうな景色。煉瓦造りとコンクリート製が混在しているものの、様式に大きな違いはなく、それほど不調和は感じない。レビューを見てみる。星4.5。「祓い場」の2.5と比べて非常に高い。

 未曾有の緊急事態下にもかかわらず、街路を歩く人々の様子は穏やかだ。また、道の横には川が流れている。多くの人が橋の近くで談笑していた。

 川はボートで移動出来るようだ。利用客はカップルが多い。羨ましそうに眺める婀歴。誘った方がいいのだろうか。カップルの女性は、ローラみたく魔女の格好をしている。とんがり帽子にブカブカローブ。というか、カップルに限らずとも、若い女性はこのような出で立ちをしていることが多い。


「ローラ」「なぁに?」「イギリスじゃ魔女スタイルが流行ってるのか?」

「そうね。ファンタジー映画や漫画の魔法使いって、こういう格好してるでしょ? それでかっこいいなってなって。私たちの世代は着るようになったの。近代化とかグローバル化とかで、五年前まで廃れてたんだけど、実はこれってちゃんとした正装なのよ。色々入れられて便利」「へえ」


 地域の文化的な話は僕の好物だ。時間が出来た時にでも、詳しく調べようと決意した。「隠れ家」にある図書館の位置をチェックしておく。

 四人乗りのボートに乗った。マクラは右腕にいる。異国情緒のみならず、街で飛び交う英語に圧倒されてしまい、借りてきた猫のように大人しい。櫂を漕ぎつつ尋ねる。


「共織矢回は、どういう場所に巣を張ってるんだ? 石の裏?」

「ダンゴムシ?」「で、でも当たらずとも遠からずですよ」

「ジメジメとした暗い所によくいるよね」「涼しい陰が好き」

「日光が苦手で、夜に活動していることが多いです」「あと雑食」

「人の生態についての説明とは思えない」


 写魏たちが共織矢回という女性についてどう見ているのか、如実に伝わってくる。とりあえず、共織矢回が写魏グループに属しているのは、写魏たちの性格がジメジメしているからだなと推測出来た。


「ボートから降りたら路地裏にでも入ってみるか」

「必ずしも牢獄()を張ってるとは限らない。コンビニにはよく出没する。エサを求めて」「側溝に潜んでいることもあります」

「ボートに乗ってる間は橋の裏とか見とくといいわよ。たまに座り込んでぶつぶつと鳴いてる。生息条件にピッタシだからかな」

「人間扱いしてあげてくれ。いや本当に人間か? 妖怪じゃないのか?」

「疑問はもっとも。でも、少なくとも妖怪ではない」

「人間と断定してあげたらどうだ? 友達だろ?」


 ローラの助言通り、行き合う橋を尽く、注意深く観察する。浮浪者一人いなかった。「この辺にいなかったら多分違うかな」という見解が述べられる。切り上げ時と判断し、陸地に戻った。


「ジメジメした暗い場所を重点的に探しつつ、聞き込み調査してみよう。写真とかあるか?」「これ」

「子供っぽい顔だな」「だって五年前だし」

「まだ中学生じゃねえか。直近のはないのか?」

「共織さん、あまりカメラの前には姿を表したがりませんからね」

「監視カメラを避けたい泥棒?」

「まさか。あいつにはそもそも罪の意識がない」「罪は犯してるのか」

「マトノもハシエも似たようなもんでしょ」「心外です」

「桃に詰めて川に流してやろうか?」

「ベトベトになりそうねそれ。えっと。まあ、プリティフェイスはこの頃からあんまり変わってないようだし、大丈夫でしょ」


 転送してもらった写真を引っ提げて、通行人に尋ねる。「この女性を見かけませんでしたか?」と。一人目の青年から早速、心当たりがあるようだった。


「ああこの女」「知ってますか?」

「ついに指名手配されたんだ。やっぱり日本に強制送還?」


 男はホッとした表情になった。喜んでいるらしい。否定するのは申し訳なく感じる。曖昧に頷き、「彼女の悪事を見たのですか?」と続けてみる。


「まあね。隙間から突然現れたかと思ったら、縄の魔法でカラスや鳩、野良猫を捕まえて、引き摺って去っていくんだ。不気味ったらありゃしない」

「心中お察しします。最近どこかで見かけました?」

「今朝、あの小径(こみち)に消えていくのを見たよ。子供も一緒だった。震え上がったぜ。きっと動物だけじゃ我慢出来ずに、人間に手を出しちまったんだよ。早く捕まえて欲しい」


 有力で、そして不穏な情報だった。写魏たちに声をかけ、急いで件の路地に踏み込む。婀歴が屈み、足元の匂いを嗅いだ。舐めるんじゃないかと身構えたが、さすがにそこまではしなかった。


「はい。ここ四、五時間で、共織さんの牢獄が敷かれた気配がありますね」

「子供が連れ込まれたそうだ」「実験台?」「あり得るわよね」


 心配だが、牢獄は外からじゃどうにも出来ない。待ってみる。時間を無駄にするのももったいないと、温矢くれむ対策の予定や展望、また研究職たちの各々の課題について話し合ってしばらく。

 牢獄が解かれた。女性が現れる。髪に水色が混じっている。写真の少女が成長したと思しき顔立ちだ。少し陰気な印象を受ける十四、五歳の少年を背負っている。彼は夢現状態で、どこか恍惚としていた。


「ヤミ! その子に何をしたの!?」


 ローラが近づき、共織矢回を問い詰める。ビクリと肩を跳ね上げる共織。大袈裟に壁際まで後退った。叫ぶ。


「どうしてお前たちが! お金なら他を当たれ!」

「あんたに金を無心したことなんて一度たりともないんだけど! 自販機の下を覗き込んだ方がマシだわ! 誤解を招く発言やめてくれる!?」

「ふっ。ほんのジョークじゃないか。私たちの仲だろ。今更誤解だなんて……」


 そこまで言って、僕と目が合った。頬が引き攣る。「ひ」と怯え出す。ワナワナと震える。錯乱しているらしい。「うわああああ」と泣き始めた。


「だ、誰だそのカリスマがありそうなイケメン。やめろ。私に近づけるな!」

「近づいてはないが」

「言葉を交わしてしまった! 滅ぶ! ああ!? 劣等感で滅んでしまうう!?」


 陽光に当たった吸血鬼の如く、共織は喉を抑えて悶え苦しんだ。少年を取り落としたのち、膝を突き、寝転がり、地面をガサガサ這い回る。吸血鬼よりも、殺虫剤にやられたゴキブリの方が喩えとして適切かもしれない。

 やがて力尽き、動かなくなった。婀歴がソロソロと忍び寄り、共織の体をツンツン触って確かめる。


「死にました?」


 写魏とローラの返事が重なる。


「「死んでも良くね?」」


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