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Chapter-48

 ザザザザ、キッ


 左文字家の庭先に、スズキ・バレーノのパトカーが入ってきて、少し乱暴に停車した。


 その運転席から、かなり険しい表情の淳志が降りてくる。


 玄関に向かわず、リビングから庭への出入口になっている吐き出しの窓へと向かった。


「おい朱鷺光!」


 鍵はかかっていなかった。

 淳志は吐き出しの窓を開けるなり、中に向かって、険悪そうな怒鳴り声を上げる。


「おおっ、これはこれは、埋田君ではないか」


 中にいたのは、光之進だった。

 オムリンと格闘ゲームで遊んでいるようだった。


「あ……すみません、つい、あいつしかいないものだと思って」


 淳志は、光之進にあわてて、申し訳無さそうにそう言った。


「朱鷺光なら、ガレージの方でなにかやっていたようじゃがの」

「!」


 光之進の言葉を聞いて、淳志は、ハッとしたように、慌ててガレージの方へと走っていく。


 ガレージの中には、果たして、朱鷺光のドミンゴの隣に、アイボリーのUAZ-3909が停まっていた。

 その周囲に、いろいろな部品が散らかっている。

 タイヤは、すでにヨコハマのGEOLANDAR A/Tとそれ用のホイールに履き替えてしまっている。ご丁寧に245/65R17にインチアップされていた。


「遅かった……」


 淳志がその場にしゃがみこんで、頭を抱える。


「よう、どうした?」


 淳志に気がついた朱鷺光が、明るい様子で声をかけた。

 助手としてか、傍にパティアがいる。


「お前証拠品を警視庁に渡さなかっただろう!」

「はて、なんのことやら」

「とぼけんな、これのことだ、これ!」


 すっとぼけた表情をする朱鷺光だったが、淳志はつかつかと歩み寄ってくると、バンバンと、UAZのボディを叩いて、そう言った。


 しかもヴィンテージカーを弄り倒すのが趣味の朱鷺光は、すでに、UAZにスーパーチャージャーまで取り付けたところだった。

 パティアが、純正の吸気管を持っている。


「ちゃんと口裏は合わせといたんだけどな……なんで解った?」


 朱鷺光は、少し考え込むような表情になって言いつつ、苦笑して訊き返した。


「お前、いくらなんでも都内であんなカーチェイスしておいて、目撃者がいないわけ無いだろう」


 朱鷺光のすっとぼけぶりにため息をつきつつも、睨むような視線を向けながら、淳志は朱鷺光にそう言った。


「そう? もう暗い時間だったし、雨だったし、見間違えたんじゃないの?」


 朱鷺光は、さらにわざとらしくとぼける。


「とぼけんな」

「そんな事言われても、ねぇ」


 朱鷺光は、肩を竦めてため息をつきつつ、わざとらしく笑う。


「ちゃーんと持ち主から個人売買ってかたちで譲ってもらったんだぜ? ()()()()()()()()だけどな。ま、それ調べるのにちょっと品川の陸運局覗かせてもらったけど」


 このUAZには偽造ナンバーが着けられていた。朱鷺光は車台番号から本来の持ち主を割り出し、そちらから譲ってもらったというわけだ。


「わーかった、この際クルマはどうでもいい! 問題はもうひとつの方だ! お前それ持ってるだけでも問題なんだぞ」


 淳志は、処置なしと思いつつ、とりあえずUAZの事は棚に上げながら、再度朱鷺光に食ってかかるように詰問した。


「だって、こっちもこっちでけっこうまだ珍しいんだもーん」


 そう言いながら、朱鷺光は、UAZ、ではなくドミンゴの右スライドドアを開いて、セカンドシートの足元に転がっていたそれを、軍手を嵌めた手のまま取り出す。

 それは、コルトCPD2200、襲撃者達が使っていた銃だ。


「そもそも、こいつはお前に渡そうと思って失敬してきたんだ」


 朱鷺光は、そう言って、すんなりと淳志に渡した。


「俺に? どうして」

「そりゃお前、警視庁に参照しても、すんなり見せてくれるかどうかわからないからだろ」


 淳志が怪訝そうな表情をしながらそう言うと、朱鷺光はそう答えた。

 途端に、淳志の表情が険しくなる。


「波田町教授襲撃犯と関係が?」

「それを主張してるのはシータ。まぁいいや、その件も含めてちょっと、お話しましょ」


 淳志の問いかけに対し、朱鷺光はそう言って、軍手を外した。


 淳志と、朱鷺光とパティアは、リビングの掃き出しの窓から家の中に入る。


「すみません、お邪魔します」

「ほっほっほ、埋田君もいろいろと大変じゃの」


 淳志がその背後から声をかけると、アーケードコントローラーを抱えた光之進がそう言った。

 対するオムリンの方は、いつもどおりマークX標準パッドである。


「シータ、真帆子さん、ちょいと俺の作業部屋でお話、いいかな」


 光之進とオムリンの近く、ローソファーに腰掛けて、こちらはこちらでニンテンドーGDSで対戦している真帆子とシータに、声をかけた。


 1階の渡り廊下を通って、朱鷺光の作業部屋に入る。


 部屋に入ると、朱鷺光は、自分の作業用PCの前のOA座椅子にどっかりと腰を下ろすと、ポケットから龍角散エチケットパイプの箱を取り出し、1本咥える。


「で、話ってなんだよ」


 淳志が、焦れたように言う。


「実はな、もうひとつ警察に渡しそびれてたものがあってな」


 朱鷺光が、禁煙パイプを咥えたまま、そう言いつつ、手振りで合図をする。

 すると、パティアが、クリアーケースのひとつから、それを取り出した。


「あ、それは」


 それを見て、真帆子が声を上げる。


 淳志が、捜査用の白手袋を嵌めてから、受け取ったそれは、1丁の拳銃だった。

 マグナムリサーチ社製 デザート・イーグル Mk.XIX(19) L5 .357Mag。


「なんでこんなもん渡しそびれてるんだよ!」

「いや、シロが真帆子さんの護衛用に、向こうさんのエージェントから取り上げた代物を、そのまま使ってたからそうなっちゃっただけなんだが」


 食ってかかるように言う淳志に対し、朱鷺光も難しそうな表情をしながら、言う。


「で、これと今回の件とどう関係があるって?」

「同じ.357マグナム弾でしょ、なんかつながりがあるんじゃないかと思ったの」


 呆れきったのか、淳志がどこか投げやりにそう訊ねる。

 すると、シータが、険しい表情をしながらそう言った。


「俺はな、使用弾種がたまたま同じってだけじゃなぁと思うんだけど」


 朱鷺光は、どこか投げやりにそう言った。


「いや……そうでもないかもしれないぞ」


 淳志は、険しい表情でデザート・イーグルを観察しながら、言う。


「そのココロは?」

「もし仮にそんなものが存在するとしてだが、日本国内で民間企業の非公然の武装組織なんてものが活動してるんだったら、そのネックになるのが銃弾の入手だろ」


 朱鷺光が問いかけると、淳志はそう答えた。


「!」


 真帆子の表情が険しくなる。


「できるだけ使用弾種は統一できたほうが良い、か」

「ああ」


 朱鷺光の言葉に、淳志はそう答えると、ポケットからスマートフォンを取り出した。


「調べてみる。警察の.38スペシャルや自衛隊の9mmパラベラムと違って、日本国内での流通量は限られるだろうからな」

「そうか……弾丸の流通から調べる手もあったのか」


 朱鷺光は、気が付かなかった、というように言う。

 淳志は、クリアケースの中のデザート・イーグルを、スマホのカメラで撮影しながら、


「まぁ、こういうことは俺達が専門家さ」


 と、言った。


「それだとすると、シータさんの自作自演説が濃厚ってことになるわよね?」


 真帆子が言う。


「そうなんだが、うーん…………どーも少し引っかかるんだよなぁ」


 朱鷺光は、禁煙パイプを咥えたまま、腕組みをして少し考え込むように、唸ってしまう。


「引っかかる、とは?」

「いや、どうしてアデウス博士は俺にあの、ディートリンデって研究員を紹介したのかな、と」


 パティアの問いかけに、朱鷺光が難しい顔をしたまま、そう答える。


「確かに、そこで必然性のない行動は、合理性に欠くわね……自作自演の目撃者が必要だった、っていうのはあるんじゃないかしら?」

「UWDはこの件には無関係だって思わせるための目撃者か……確かにそれはそれで説明つくんだけれども、うーん……」


 真帆子の言葉に、朱鷺光は面白くなさそうに唸り声を上げた。


「どうにも気にかかるのは、やっぱりあの電話よね」


 シータがそう言った。


「電話?」

「ええ、食事の途中で、ディートリンデさんが席を立って電話したの。『予定通りに行動せよ』って内容の、英語の電話。アメリカの大学生がどうなのかよくわからないけど、砕けた印象じゃなかったわ」


 訊き返す真帆子に、シータはそう答えた。


「意外に答えは単純な気もするんだけどなぁ……」


 朱鷺光は、指で禁煙パイプをつまんで口から離しつつ、息を吐き出しながら、そう言った。




「Hy, 今までの活動の状況はどうかしら?」

「すべては予定通り行っています。おそらく誰も気付いていない、かと」

「彼はどうかね?」

「彼も、また同じです。自身が中心になって動いていると信じ切っているようです」

「よろしい。予定通りの行動を続けたまえ。なんとしても、R-1のデータは手に入れなければならない。それに合衆国の栄光と未来がかかっているのだ」


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