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Chapter-47

「うっひょー、これ、すっげ。UAZの2008年モデルじゃん。クランク始動の可能な最後の頃のやつ」


 朱鷺光は、襲撃者達が乗り捨てていったUAZ3909の運転席に収まって、興奮したような声を上げた。


「これ貰っちゃうわけにはいかないかなぁ、すげぇ欲しいんだけど!」

「朱鷺光!」


 玩具を欲しがる子供のような表情をした朱鷺光が、運転席と助手席の間からシータ達を振り返り、そう言った。

 すると、シータが、男達に向けていた銃を未だに構えたまま、荒い声で窘めた。


「あれ、シータが持っている銃って……」

「あ、これ? うん、なんか見たことない銃なのよねー、AKじゃないのははっきりと分かるんだけど」


 シータは、そう言いつつ、運転席と助手席の間から身を乗り出すようにして、それを見せた。


「これは……んー……たしかサバゲーマニアのやつが持ってたような気がするが……」

「え?」


 訊き返すシータを余所に、朱鷺光はスマホを取り出して、検索をかける。

 すると、そっくりな銃が出てきた。


「こいつか……」


 朱鷺光が、そう言った。


「え、何?」

「こいつはな、M4カービンをベースに取り回しを良くした、サバゲー用のARP556って電動モデルガンで……」


 朱鷺光のスマホの画面を覗き込もうと、身を乗り出してくるシータから、朱鷺光はその銃を受け取りつつ、そこまで言った。


「ええ、じゃあ、これ、モデルガンだったの!?」


 シータが、呆れきったような口調と表情でそう言った。


「いや……」


 朱鷺光は、その銃のマガジンを外して、中を見ると、今度はそれを、シータにも見せる。


「!」


 シータの表情が、急に険しくなった。

 そこには、BB弾などではなく、マガジンの大きさからすると、やや小振りではあるが、間違いなく鈍く輝く真鍮の弾頭と薬莢を持つ弾丸が、収まっていたからだ。


「ARP556のデザインに目をつけたコルトが、逆に拳銃弾使用のP(パーソナル)D(ディフェンス)W(ウェポン)として実銃にブローアップしたものさ。形式名コルトCPD2200。使用弾丸は.357マグナムか。一部の特殊部隊や民間防衛会社が使ってるようだな」

「拳銃弾とは言え.357マグナムなら、やっぱり店の出入口で暴れ出さなかったのは正解だったわね」


 朱鷺光の説明に、シータは険しい表情をしたまま、そう言った。


「日本国内でこいつを使っている組織はないはずだが……」

「在日米軍は?」


 朱鷺光がしげしげとそれを見ながら言うと、シータが深刻そうな口調で訊き返した。


「コルトはM4の調達を打ち切られた意趣返しで、CPD2200を国防総省(ペンタゴン)には卸してないんだ。もっとも表向きの発表ではあるがな」


 朱鷺光はそう言いながら、身体ごと傾けて後ろを向き、アデウスに訊く。


「アレックス、こんなもん使う連中に心当たりはありますか?」


 アデウスとディートリンデもUAZの車内にいた。

 外はまだ、弱くだが雨が降っている。


「Hmm……ないと言えばないし、あると言えばある、という答えにしかならないね」

「だよなぁ……」


 アデウスの答えに、朱鷺光は苦い顔をして、がくり、と首を傾かせる。


「ストラト・フォーは?」


 シータが訊ねるように言う。


「ストラト・フォー? STRATEGIC PLANs FOCUSINGですか?」


 シータの発言に、ディートリンデが反応した。

 朱鷺光とシータが、視線を彼女に向ける。


「確かに影の(シャドウ)CIA(カンパニー)などとは呼ばれていますが、あくまであそこは民間企業、街中で銃火器を振り回すような非公然活動をしているとは思えませんが……」


「でも現に」

「シータ」


 困惑したような表情で言うディートリンデに、シータが言い返しかけるが、朱鷺光はそれを強い調子で制した。


「とにかく、今回に関して言えば、アレックスが狙われたってことで間違いないだろう。俺を狙ったんなら、1人でクルマを置きに行ったり取りに行ったりしているときの方が無防備なはずだからな」

「人工知能開発は次世代の産業革命の鍵とも言われています、その最前線にいるアデウス博士が狙われる可能性はかなり高いと言えるでしょう」


 朱鷺光が言うと、ディートリンデはそれに同意する声を出した。


「とりあえず、警察に連絡するか」

「あまり、日本の警察に腹を探られるのも困るのだがね」


 朱鷺光が、そう言って、ハードウェアテンキーで110番を押すと、アデウスが、苦笑して肩を竦める様にしながら、そう言った。


「ま、そこはうまくやります」


 朱鷺光は、そう言ってから、つながった警視庁の110番指令センターに事情を説明し始めた。




「じゃ、そこにあるんで、よろしく」


 警視庁千住警察署。


 襲撃の事実を通報した朱鷺光達は、ここで事情聴取を受けることになった。


 先に聴取を終えていた朱鷺光は、1階のロビーでソファに腰掛けながら、スマートフォンでどこかと通話していた。


「はぁ……なんだかなぁ……」


 シータが、朱鷺光に続いて出てきて、どこか気の抜けたような表情をしている。


「ロボットの証言ってなんかの役に立つのかしらね?」

「少なくとも電磁気記録ではあるだろ」


 どこか疲れたようにしながら言うシータに対し、通話を終えたらしい朱鷺光は、スマホをしまいながらそう言った。


 が、シータは、その直後、朱鷺光に一気に寄ってきて、表情を険しくする。


「アデウス博士が狙われたって、本気で言ってんの?」

「状況的にはそうだとしか説明できまい、少なくとも狙われたのは俺じゃないんだから」


 かなり強い調子で、しかし小声で訊くシータに対し、朱鷺光はどこか飄々とした様子でそう言った。


「自作自演ってことは考えられない?」

「根拠は?」

「直前の、ディートリンデの電話」

「それだけじゃなぁ」


 あくまでアデウス達を疑っているらしいシータに対し、朱鷺光は嗜めるように言う。


「確かに」


 どこか飄々とした様子だった朱鷺光が、急に険しい表情になりつつ、小声ながら強い調子で言い始める。


「ストラト・フォーが俺達をどうにかしようってのは解ってるが、それはアデウス博士が狙われないって確証ではないんだ。もちろんストラト・フォー以外って線も考えられる」

「ロシアや中国とか?」

「連中ならAKだとは思うんだけどね、可能性としては排除できない」


 訊き返してくるシータに、朱鷺光は不機嫌そうに言いつつ、ジャケットの内ポケットから、龍角散エチケットパイプを取り出して、1本咥える。


「Dr.左文字、それに、シータさん」


 朱鷺光が、深くパイプを吸ってその味を堪能したところで、奥から、私服刑事と思しき1人の中年男性とともに出てきた、ディートリンデが、声をかけてくる。


「どうやら、Dr.アデウスの聴取は長引きそうです、時間も時間ですし、お2人には先に帰っていただいてもいいのではないかと」

「え、でも、そうするとアレックスのホテルまでの帰路は……」


 朱鷺光は、軽く驚いたようにしつつ、そう訊ね返した。


「それは、警察の方でしっかりお送りするから大丈夫だよ。ホテル周辺の警備も強化しよう」


 中年と壮年の境目ぐらいの、少し髪の毛の薄くなった刑事が、そう言った。


「でも良いんですか、先に帰っちゃって」


 朱鷺光が、少し困惑したような表情で、ディートリンデと刑事に訊ねる。


「今回お2人は、割と急にセッティングした会食をしただけですし、アデウス博士への襲撃とはあまり関係ないでしょう。遅い時間までお付き合いしていただく必要もないかと」


 刑事は、朱鷺光たちには笑顔をみせて、そう言った。


「警察が信用できませんか?」

「いえ、そんなことはないです。じゃあ、俺達、これで失礼しますね」


 まだ、なにか不満がありそうなシータを、朱鷺光は引っ張るようにして、立ち上がり、挨拶をしながら、その場を立ち去ろうとする。


「ああ、茨城の埋田君に、よろしく」


 朱鷺光達の去り際、その背中に、刑事はそう声をかけてきた。


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