Chapter-16
Startup ROS
Starting R.OS Ver0.8
copyright T.Samonji 2006
Upper MEMORY 32MB OK
Lower MEMORY 65504MB OK
Storage File System check...NO PROBLEM
I/O Pinging checksum...NO PROBLEM
Boot UP μTRON 3.0 Micro operating system...complete
Complete Operating system Starting.
Run up R-AI Application Ver0.91
Loaded A.I. Database Files...complete
PERSONAL LETTER DR29 [PATIA]
Sequencer calling...Condition GREEN
Ended Starting step and Begin Running.
ゆっくりと、目を開ける。
知らない、天井。
「よっしゃ! 起動成功!」
傍でしたのは、左文字朱鷺光の声。
「おーっ!」
視界の傍らで、ハイタッチを交わしながら、歓声を上げたのは、R-2とR-4だった。
そして、
「兄さん、状況は?」
「起動シーケンスに異常なし。完全に正常だ」
R-0であろう声と会話する、R-1の姿も、そこにあった。
「ここは……」
パティアは、上体を起こしながら、言う。
「俺の自宅、俺の作業部屋」
朱鷺光は、わざとらしく笑いながら、そう言った。
「私を……修理したのか?」
パティアは、自身の身体を調べるようにしながら、そう言った。
「ああ、イーサケーブルイーサケーブル」
朱鷺光が、慌てたような声を出す。
オムリンが、パティアの頭を抱えるように近寄って、Ethernetケーブルを外す。それから、自分と同じ形の、アンテナ/センサーユニット基部のカバーを、取り付けた。
「お前が……私を、修理したのか?」
パティアは、再度、朱鷺光の方を向き直して、そう言った。
「ああ」
朱鷺光は、禁煙パイプの箱から、1本、咥えつつ、そう言った。
「なぜ……?」
パティアは、問いかける。
「理由は数え切れないほどいくつもあるが……まぁ、一番の理由は、お前さんが、R.Seriesのデッドコピーだったから……だな」
朱鷺光は、苦笑しながら言いつつ、途中で照れくさくなったかのような様子で、頬を掻いた。
「そうだ、私は波田町教授が、お前のデータを盗用してつくったデッドコピーだ……」
パティアは、逆に、「なぜ、それで?」と言わんかのように、そう言った。
「R-AIは、俺が、ここでつくった、俺の実の子供みたいなもんだ。たとえコピーでも、いや、一度稼働させたA.I.は、大本がコピーだったとしても、もうオリジナルとは別もんだ」
朱鷺光は、少し気を落ち着かせたように、わずかに声を低くして、言う。
「その子供のような存在を、みすみす失えなんて、残酷すぎるだろ」
「…………」
朱鷺光が言うが、パティアは少し俯き加減になる。
「そういうことだ」
そう言ったのは、オムリンだった。
「たとえどんな存在であれ、R-Systemの寵児である以上、朱鷺光には、見捨てるという選択肢は、最初からない」
「そうか……」
「まっ」
重い雰囲気に耐えかねたかのように、朱鷺光が明るめに声を出す。
「正直お前さんが興味深くてって面も大きくてな。いやまぁ、ギミックだけかと思ったら、オムリンと互角にやりあえるから、どんなシステム積んでんのかと思ったら……『Library STAGE』の代わりに、PowerPCベースのシーケンサ制御特化補助演算器とか、面白いもん積んでんじゃない」
朱鷺光は、作業用のPCのキーボードを叩きながら、そう言った。
「しかも、オムリンの持ってる欠陥を、シータの設計とニコイチすることで解消するとか、ホント、面白いことしてくれるよ、あのオッサンは」
朱鷺光は、パティアを解析したデータを作業用PCに展開させながら、OA座椅子ごと、くるり、とパティア達の方を振り返った。
「…………だが、教授は……」
「……そう、だな」
パティアの、落ち込んだような言葉に、朱鷺光は、はぁ、と、やはり盛大に、重苦しい息を吐き出した。
「ま、とりあえず、だな」
「とりあえず?」
朱鷺光の言葉に、訊き返したのは、シータだった。
「も、限界」
朱鷺光は、そう言って、OA座椅子から、崩れるように、倒れ込んだ。
「左文字朱鷺光!」
黎明の左文字家。
「朱鷺光、ずっとアンタの修理に取り掛かりきりだったからね、2日貫徹で」
朱鷺光をお姫様抱っこの状態で、別棟の階上の朱鷺光の居室まで運ぶパティアに対し、後ろからついてくるシータが、そう言った。
そのシータも、ぐっすり寝こけている弘介をおんぶで背負っていた。実は作業部屋にはいたのだが、毛布をかぶって仮眠状態にあった。
「もちろん弘介も。私とイプシロンも……だけど、まぁ私達は1日2日寝なかったからってどうなるわけじゃないから」
シータがそう言った。
実際、R.Seriesは、所謂睡眠を必要とする。それは、その日の記憶を整理するためだ。
Elemental Symboling Image Recorder Technology と、朱鷺光が名付けたそれは、人間と同じように、場所や人、物と言った要素を、「誰が、どこで、何を持って、何をしていたか」といったように、組み合わせた記憶にすることで、必要なストレージ容量を一気に圧縮する技術である。
これを行えないと、ストレージに、ビデオ状態の記憶が貯まり、動作に充分なストレージ容量を確保できなくなってしまう。
とは言え、シータが言った通り、1日や2日では、すぐには不具合を来さない程度の余裕は、もたせてある。
ファイがあらかじめ敷いておいてくれた布団に、朱鷺光と弘介を寝かすと、シータとイプシロンは、パティアを連れて、2階の渡り廊下を歩き、母屋の階段から階下に降りた。
そこで、パティアが緊張する。
左文字家の庭、ガレージの前に、「茨城県警察」の文字が入った、スズキ バレーノのパトカーが、停まっていた。
「大丈夫だよ、お前さんをどうこうって話じゃない」
リビングで、立って、吐き出しの窓から庭を眺めるようにして、待っていた淳志が、苦笑しながら、そう言った。
「とりあえず、今のところは、って話にはなるんだがな……」
「そうか」
淳志が苦笑から笑を消してそう言うと、パティアは、ただ、短く返事をした。
「とりあえず、あの日────火災があった夜、なにがあった。それが知りたい」
淳志は、そう言いながら、胸ポケットに手を伸ばし、ゴールデンバット・メンソール・シガーの箱を取り出すと、1本咥えた。
「すまない、詳しいことは、私にもわからないのだ」
パティアは言う。
淳志は、クリアボディのターボライターで、タバコに火を点けると、まずは、旨そうに紫煙を吸い込んだ。
すかさず、シータが、親指で背後を指差すようにして、換気扇のスイッチを入れる。
淳志が吐き出した紫煙が、換気扇に吸い込まれていった。
「私が、研究所に入った時は、すでに、教授は斃れていた」
「なるほどな。だが普通に考えただけでは納得できないことがある」
淳志は言い、そこで、タバコを、指で摘んで、口から離した。
「相手はその時、まだ、室内にいたんだよな?」
「うん」
淳志の問いかけに、パティアは素直に、短く答える。
「それで、お前さんをどうやって破壊して、逃走したんだ? お前さんがオムリンと互角に戦えるってのは解ってるんだ。並の人間にどうこうできるわけがないはずだ」
淳志は、険しい表情で、しかしパティアを責めないようにしつつ、そう訊ねた。
「あれは……人間ではなかった」
「!」
パティアが言うと、シータとイプシロンの更に後ろにいた、オムリンが、可動式のアンテナユニットを、動物の耳のように持ち上げる。
「それは、ロボットだったってことか?」
「モーターの発するパルス型のノイズ、それに、こちらを探ろうとするセンサー類の反応があった。普通に考えれば、そうなると思う」
淳志の問いに、パティアはそう答えた。
「断言を避けた、って事は、何かあるのか?」
「……ロボットにしては、反応が、その、人間的すぎた」
「お前さんと同じく、R.Seriesのデッドコピーの可能性は?」
「それは、完全には、否定は出来ない。だが、そうではないように感じた」
「朱鷺光以外に、R-System以外にそんな人間的な自律型ロボットを作れる技術なんて、あるわけ無いわ!」
シータが、驚いたような様子で、言う。
しかし、淳志は、タバコを咥え直すと、
「いやぁ……どうだろうな、少し、見えてきた気がするぞ」
と、口の端をニヤリと吊り上げ、そう言った。
「どういう事?」
「俺の仮説が当たっているかどうか、検証したいが、それはとりあえず、あのバカ2人が起きてからだな」
淳志に向かって訊き返すシータに対し、淳志は、そう言ってから、口から紫煙を吐き出した。




