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カラオケといっても、リチャードはもちろん日本の歌なんかひとつも知らないし、歌詞だって読めない。
「だいじょうぶだよー。なんとかなるって。いっしょに歌お?」
調子に乗ったあーにゃんがマイクを突きつけた。いくら小悪魔的に小首をかしげたとしても、ダメなものはダメ。
「そういうの、カラオケハラスメントっていうんだぜ」
「ちちちちちがうもーん。そんなんじゃないもーん」
「ゴメンナサーイ。ニホンゴワカリマセン」
リチャードは「ニホンゴワカリマセン」の使い方をかなりマスターした。最高のタイミングで発動する。
「はいはい、リチャはこれね」
リチャードは渡されたタンバリンを器用にフリフリしていた。
とはいえ、とってもお気に召したのがドリンクバー。使い方を教えたらひとりで持ってくるようになった。
「すごいね、コーラのほかにもシュワシュワしたのがある。冷たい紅茶も初めて飲んだよ。おいしいね」
アイスティーって向こうにないのか。
気に入ったようでなによりだ。
それとフライドポテト。山盛りのヤツ。なんか、ペンちゃんもちらちらと出現しながらポテトを食べていた。
不思議なことに誰も気が付かない。
「ねえねえ。リチャードも花火大会に行こうよ」
これまた調子に乗ったみーぽんが言い出した。
「あー、いいね。行こう行こう」
女子たちがきゃあきゃあする。もう悪ノリだろう、これ。
翌日が花火大会だ。
「ダメだよ、目立つもん」
レンは却下を言い渡した。駅前ロータリーやユニクロでさえあんな騒ぎになるのだ。花火大会なんかに行ったら、たいへんな騒ぎになる。みんな、花火じゃなくリチャードを見る。花火がかわいそうだ。年に一度の出番なのに。
「えー、なんでよー。わたしたち浴衣着てくからさー。リチャードも行きたいよねー。花火大会」
「そうだよー。日本の夏を満喫しないと。せっかく来たんだもん」
「はなびたいかいってなに?」
レンは検索した画像を見せた。
「ああ、炎の魔法でやるヤツね」
ぎくー! リチャードはしまった、と口を押えたが。
「まほー?」
みーぽんが聞きつけてしまった。
「魔法みたいにきれいだね」
レンとリチャードは「ははは」と笑ってごまかした。
「うん、きれいでしょ? だから行こう? ……まほー?」
……………………。
「ほら、リチャード。すごい人だろう?」
都合よく雑踏の画像もあった。
「こんな人ごみ、行ったことないだろう? 迷子になったら大変だ。帰って来れなくなっちゃうぞ」
「まほーって言った?」
無視無視。
正直なところ、押し合いへし合いぎゅうぎゅうの群衆に、リチャードは恐れをなした。こわい。後ろから刺客がくるかもしれない。
王子ならではの恐怖だ。
「それは困る」
「な? そうだ。海岸まで行けばちょっと遠いけど見れるぜ。そんなに人も多くないから、そこに行こう。リンもつれて」
「うん、そうだな。それなら安心だ」
「えー、牧野林くんだけずるーい。わたしたちもリチャードといっしょに行きたいよねー」
「ねー」
めんどくせえ。
「おれんちの屋上から花火ばっちり見れるぜ。来るか?」
まっつんが助け舟を出してくれた。
「えー!? 屋上あるの!? すごーい。行きたーい」
まっつんの家は、漁師兼直売所兼食堂「松波亭」である。自宅は鉄筋コンクリート3階建てのビルで、屋上完備。
打ち上げ場所からそんなに離れていなくて、人ごみも避けられて、花火を堪能するには絶好の場所である。レンも去年はおじゃました。
「浴衣着て来いよ。スイカ出すからさ」
「わかったー」
語尾にハートマークがついてそうだ。
よかった。女子の矛先が変わった。まっつんはレンを見て、ニヤッと笑った。
助かったぜ。レンもニヤッと笑った。あとからコンビニのソフトクリームの高いほうを請求された。
お安い御用だ。高いが。
このときは、レンもリチャードもこれで話は終わったと思っていた。




