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その翌日。
「リチャ」
レンが呼んだ。名前がだいぶ省略された。
「カラオケに行かん?」
「からおけ」
「えー、マジで? だいじょうぶ?」
少々無謀じゃなかろうか。リンは思った。
「クラスのヤツらがさー、連れて来いってうるさいんだよ。この前ユニクロに行ったとき、見られたみたいでさ。女子たちがぜひ会いたいんだと」
「またきゃあきゃあ言われたら、嫌な思いするのはリチャードじゃん」
「あー、その辺はおれがセーブするよ。ボディガードばりに」
いい予感はしない。
「だいじょうぶ。慣れてます」
慣れてるのか。すごいな、王子。
「行ってみるよ。なにか見つかるかもしれない」
藁にもすがる思い、というのだろうか。リチャードはどこかになにかしらのヒントがあるかもしれないと思っているようだ。
「ニホンゴワカリマセン作戦でいこう。あれは無敵だ」
なにが無敵だ。心もとない。
ユニクロで買ってもらったキャップを目深にかぶっているにもかかわらず、それでも目立つってどういうことだ。
ちらりとのぞく金髪は輝くばかりで、染めたのとは全く違う彩を放つ。それだけでも目立つには十分。なのに立っているだけであふれる王子感。
「これをかけておけ」
レンがそう言って、サングラスを渡した。黒い普通のヤツだ。百均でも売ってるようなヤツ。
海外セレブのようになってしまった。バスじゃなくプライベートジェットに乗って、駅前ではなくドバイに行くのか。
なぜだ。
生まれついた気品というものは、百均ですらハイブランドに見せてしまうのか。
「なんか、くやしいな。おれのサングラスなのに」
しかも着ているものだって同じユニクロだ。
ビフォーアフターみたいになっている(笑)。
2枚余っていたSuicaを1枚借りて、バスに乗る。バスの乗り降りはもうだいじょうぶ。ちゃんと青く光っているところにピッてやる。ちゃんと通れる。
バスを降りると
「レン! こっち!」
と呼ばれた。レンは「おう」と返事をしてリチャードをつれてそちらへ行った。
男子4人女子3人にレンとリチャードを加えて、計9人のグループである。
リチャードがバスから降りた時点で、女子たちはもう「きゃあきゃあ」である。
「あんま、騒ぐなよ。目立つから」
いるだけで目立ってしまう。
3人の女子が、わちゃわちゃしている。
「みーぽん、聞いてよ」
「えー、ゆきりん聞いて」
「えー、あーにゃん聞いてよぉ」
わちゃわちゃわちゃ。
「なにが聞きたいんだよ」
レンがしびれを切らした。
3人はしばらく肘でつつきあっていたが、けっきょくみーぽんが押し出された。
「えーっと。えっとね」
「さっさと言えよ」
「名前はなんていうのかなー。なんて」
えへっと、小首をかしげた。なんだそれ。あざとかわいいってヤツか。イラッ。
「リチャードだよ!」
「ぎゃあー! なんで牧野林くんが言うのよー。本人から聞きたかったのにー!」
「リチャードデス。ヨロシクネ」
リチャードは胸に手を当てて微笑んだ。
「ぎゃー! 王子降臨!」
なんかもう、駅前ロータリー全体がざわざわしはじめた。ヤバい。
「はやく行こうぜ」
レンはみんなを急かした。




